白の贄女と四人の魔女

レオパのレ

プロローグ

 この星の唯一の海である青海に、たった一つ浮かぶ大陸があった。


 大陸の名前はスノクリスタ大陸といい、雪の結晶に似た形をしていた。


 そのスノクリスタ大陸の中央に位置するのは、神の国と言われる「エギザベリア神国」であった。


 エギザベリア神国が「神の国」と称えられる理由がいくつかある。エギザベリア神国の王族は青海の水量を調節し、世界のバランスを担っているからだ。スノクリスタ大陸の中央にはマザーアイスという大きな氷床があり、その氷床に働きかけ青海の水量を調節するのである。


 エギザベリア王はその力を使い敵国を海に沈めたり、逆に干ばつにおいやり食糧難にしたりしてスノクリスタ大陸の覇権を維持してきたのである。


 そんな恐ろしいエギザベリア神国の代々の皇后は、この世界の唯一神であるロクストシティリ神の神託によって選ばれる。


 エギザベリアの王族は青海の水量を操る能力が失われないようにロクストシティリ神に選ばれた乙女に子を産ませ、その力を守り受け継いでいくという義務があるからであった。


 神に選ばれた乙女は「雪の華」と呼ばれ、それはそれは大切に保護されてきた。


 しかし、その保護も今代の第47代目となると少々過剰になりすぎていた。


 第47代目の雪の結晶は名をルルリアナ、ルルリアナ・マル・フィア・ソルティキアといい、エギザベリア神国のソルティキア公爵家の次女であった。


 ルルリアナが母親の胎内にいたときに神託が下り、産まれてすぐ家族から引き離され、神殿の奥深くで隔離され育まれてきた。


 なぜエギザベリア王族がここまで厳しく雪の華を隔離しているかと言うと、雪の華の歴史にその原因があった。


 ある雪の華の親は権力欲が強い人間であったため娘が皇后になった際に、王族を乗っ取ろうと企んだ人物でもある。


 親の影響を受けないようにと、それ以降の雪の華は引き離され神殿で育てられることとなった。家族との接触は極力避けられて。


 ある雪の華は平民出身で、幼馴染と駆け落ちしたのである。


 それ以降の雪の華は男子禁制とまではいかないも、年ごろの男性との接触を極力禁じられるようになり、必ず侍女がどこにでも付き添うことが義務付けられたのである。


 ある雪の華は取り巻きたちにそそのかれ、皇帝の暗殺を企ててしまったのだ。


 そのため、侍女、家庭教師、護衛は定期的に入れ替えられることとなった。


 つまり代々の雪の華の歴史から、現代の雪の華を取り巻く環境は代を重ねるごとに厳しくなり、まるで俗世を離れた修道女以上の厳しい生活を強いられるようになったのである。


 話をルルリアナに戻すとしよう。


 家族にも会わせてもらえず、お世話する侍女や勉強を教える教師や護衛する騎士などを定期的に変えられ、親しい友人もできず、孤独な神殿でルルリアナはそれでも心の優しい美しい少女に成長したのである。


 ホワイトサファイアの長く艶やかな髪は産まれてから一度も切られたことがなく、ダイヤモンドのように美しいパールグレイの瞳、鼻筋の通った彫刻のように美しいルルリアナは「神国の雪華」と称されるほどであった。


 ルルリアナの婚約者はレオザルト、レオザルト・ロッケ・マズベルファ皇太子殿下。


 エギザベリア王族は年代を重ねるごとに青海の水量をコントロールする力が弱まっているのに対し、レオザルトは歴代最強と謳われるほど強い力を持っていた。


 そのためレオザルトと雪の華との結婚は、失墜しつつあるエギザベリア王族の権威・存亡をかけた国をあげてのプロジェクトでもあった。


 レオザルトとルルリアナの子は、レオザルトに似て能力の強い子供が生まれると推測され、スノクリスタ大陸の人々は未来の王に期待を寄せていたのである。


 なぜならスノクリスタ大陸の南西に位置するペンタゴーヌム陸地は干ばつで苦しみ、北西のリーネア陸地は陸地の三分の一が水没しているのだから。エギザベリア神国の国王の能力が弱まっていたせいで。


 エギザベリア王族は絶対にルルリアナを失うわけにいかなかったのである。


 そのためルルリアナの生活は類を見ないほど厳しく制限され、監視されてきた。


 どこに行くにも侍女や護衛が付き添い、神官ですらルルリアナの生活を監視していた。


 歴代の雪の華の中でも、ルルリアナは家族から引き離された時期がとても早く、家族の愛情も知らずに成長した。家族の顔も知らなかった。


 ルルリアナの出身であるソルティキア公爵はエギザベリ王族とは反する庶民派と呼ばれる派閥に所属していたこともあり、ルルリアナに悪影響を及ばすと判断され、ルルリアナは家族との接触は許されていなかった。


 3か月ごとに切り替わる侍女や家庭教師とも良好な関係を築くことも、ルルリアナはとっくに諦めていた。


 そんなルルリアナにとって、唯一の楽しみは神殿と同じ敷地内の王立学院に入学してきた婚約者である愛しいレオザルト殿下との週1回の昼食会であった。




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