第6話 過去五
ーー受験日。
早めに席について、筆記用具と受験票を用意しておく。
俺は冷静だ。今まで通り、自分の通りにやればいい。会場に人が集まれば更に空気は重くなる。しかし、これを乗り越えればあとは報われるだろう。俺は、全力を尽くすだけだ。
受験終了。後は結果を待つだけだ。
『英二……受験、終わった』
『お疲れー! どうだ? 良かった?』
『手応えは……ある』
『じゃあ行けるって! 自信持てよ』
『ああ。英二はどうだったんだ?』
『あ、俺? 俺は………』
目を逸らしてあらぬ方向を向いて乾いた笑いを溢している。こういう時は、言いづらいことがある時だ。
『ま、まあ、終わったことだし、今日はゆっくり遊びに行こうぜ?』
『そうだな。久しぶりにお前と出掛けられる』
『そう言われると、なんか照れんなー』
コイツだって、全力を出したに違いないからな。やるときはやる奴だと分かっている。
俺達は、受験期間中に遊べなかった分を取り戻そうと、ひたすら遊びに行った。俺はあまり遊び慣れていないせいか、どこに行けば楽しいのか分からなかったが、その辺りは英二に任せた。定番らしいゲームセンター、ボウリング、カラオケ。サッカーを教えてもらったり、買い物をしながら食べ歩き。時期外れの寒々しい海ではしゃいだり。
『英二は色んなことを知っているな』
『そっか? 遊びに行くのなんか、どこ行っても楽しいぜ? それに、知ってるって言うなら陵の方が物知りだろ?』
『俺はこういう遊びには無関心だった。そもそも人付き合いがな……』
『じゃあ俺には関心あるってことだな!』
……そういうことになるのか。考えればそうなのかもしれない。コイツの『勉強教えて』から始まった交友関係。始めはコイツに流されっぱなしだった。だが、悪くなかった。コイツのお陰で、俺は勉強以外を知ることが出来た。……英二のお陰で、高校での生活が楽しめた。それがもう……終わろうとしている。
『……陵。あのさ、』
『何だ?』
『……』
何だ? 何で黙るんだ?
『……あの、さ……。大学……つか、これからもさ、俺達、親友……だよな?』
『……』
酷く不安そうな顔をしている。しかし俺は表情を崩さない。俺はわかっているんだ。
親友…………ああ…………そうあってほしい。けれどそれは、可能性が無いに等しい。新しい環境で新しい関係を作っていく。古い関係は立ちきられていく。だから、お前とは…………
『ああ、親友だ』
さよなら、だ。
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