鵺の哭く城
崎谷 和泉
第一話 鵺
後に日本儒学の祖と称される
戦国の乱世、播磨(兵庫県南西部)一円は畿内を制圧した尾張の織田信長が率いる新興勢力と、安芸の毛利輝元が束ねる中国地方の巨大勢力によって東西から噛み千切られ夥しい血と死の臭いが立ち込めていた。とりわけ東から破竹の勢いで進撃する織田の先鋒 羽柴秀吉の軍は特筆され、播磨に割拠する武将達は同軍に抗う者と恭順する者とで大きくその命運を分けていた。
そして今まさに藤原惺窩が師の勧めで謁見する人物とは、かつて播磨で
「城を追われたご城主さんに何を教えろいうねん」
乙城に向かう惺窩の足取りは重く、その高い背中は肩を落としていた。
春、霞を染める蒼い空の下、播磨の色濃き深山に山桜が咲いている。かつて源平が覇を賭け火花を散らせた播磨灘も今は穏やかな凪が広がり遠くに小豆島の影を浮かべている。
乙城に着いた惺窩は奥の庭に通された。決して広くはないが手入れの行き届いた庭だった。そこにその武将は立っていた。いや武将と呼ぶには余りにも若く何より姿が
「お前、取り憑かれとんのか!」
「……修行僧とお伺いしていたのですが随分と乱暴な物言いをされるのですね」
「誤魔化すんやないわ! 後ろのそいつは何や! 妖の類にしても桁違いやろが!」
目前の若き将の背後にはヒグマを遥かに凌ぐ巨魁が地べたを
「後ろのこれは
「…っ!そしたらその太刀は獅子王か!」
どこか影のある若き武将の目元が初めて和らいだ。
「申し遅れました。私は赤松広秀と申します」
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