オカルトってなんだっけ?

蒼穹

プロローグ

 とんでもなく暑い日。大きな入道雲。田舎の田んぼ道の逃げ水をぼんやりと眺めながら、歩いている。明日から夏休み。1学期はとんでもなくいろんな事があってあっという間だった。汗だくの制服のワイシャツが気持ち悪い。終業式が終わってからすぐに帰宅しているから、お日様が高い。そりゃ暑い訳だ。

「暑すぎ・・・」

一人呟いて、目についた自販機に吸い寄せられた。田舎の田んぼ道にポツンと佇むその自販機は、マイナーなドリンクが揃っている。500mlの炭酸飲料を迷うことなく選んだ。プシュッとプルタブを開けると、一気に半分くらい流し込む。

「ふぅ。」

ため息をつき、校舎のほうを見ると、小高い丘の上に小さく校舎が見えた。そして、ゆらゆらと揺らめく道の先から何かが近づいてきているのが見えた。目を凝らすと、それは自転車に乗る人間、いや、秋葉あきばだった。長い黒髪に、白い肌。泣きぼくろが特徴的な彼女が近づいてくる。速度を上げているようだ。それはどんどんと近づいてきて、僕の前に来ると、素っ頓狂なことを言い出した。

久遠くおん、帰るの早すぎだよ。探したんだから。」

「なんで?」

僕がたずねると、

「喉、乾いたなー。」

「おい。僕の。」

手品よろしく、いつの間にか僕のすこうる・ぶどうキャラメル味(炭酸飲料)が、彼女の手に奪われていた。そして、間髪入れずに、飲み干されてしまった。

「んー、甘すぎだねこれ。」

「全部飲むなよ・・・」

カランッ、とごみ箱に空き缶を投げ入れる、その彼女は秋葉千鶴あきばちづる。学年1位の成績の持ち主であるが、少し変わった趣味をお持ちの、高嶺の花の美少女である。ただし、その趣味を知るものは、苦労するとだけ言っておこう。

「間接キスだねー。うれしい?」

「うっせーよ。」

 蝉の声が鳴り響く。僕は、にこやかに微笑む彼女の顔を見るに、嫌な予感はしていた。

「ねぇ、知ってる?」

始まった。JKのその言葉の始まりは、基本的に怖い噂とか、そういったたぐいであることは世間の常識である。しかし、秋葉に至ってはその話の源流を探すのが趣味という、少し変わった、いや、かなり暇な奴なのである。

 

 わらう地蔵というものがあるらしい。それは、とある山奥のカーブを曲がったところに唐突に表れるらしい。大体事故が多いからだとか、そういったことでカーブにお地蔵さんが置かれていることはよく見るが、その地蔵はそういったものではないらしい。しかし、そんなもの、はたから見れば事故が多いんだろう程度の認識にしかならないはずだ。

 嗤う地蔵を見た人は、死ぬ人が分かるらしい。しかも、いつどのように死ぬのかがわかるらしい。それは嗤う地蔵を見た日の夢にお告げのような形で、地蔵が出てくるというもの。

「よくある話じゃないか。見た人いるのかよ。」

素朴な疑問が口をついて出てきた。

「それがねー、いたんだー。隣の高校の須崎亞希すざきあきって子なんだけど。」

目がキラキラしている。これは、ダメかもしれない。

「で、内容は?」

帰路を進みながら、一応続きを催促しておくことにした。秋葉は自転車を押しながら、話をしてくる。

 僕らの通う制服の女子が、8月8日の夕方に刺殺されるらしい。場所は、どこかの校舎のような建物で、時間的に夕暮れ時っぽかったらしく、背景はよくわからなかったようだ。なぜ日にちが分かったのかというと、夢の始まりはテレビのニュースを眺めたところから始まったらしい。そこに、「8月8日、女子高生刺殺!」というニュースのテロップがあったというもの。

「で、それを確かめようとか考えてるの?」

あらかた話を聞いたところで、秋葉に質問してみる。

「それも考えたんだけどね。やめることにした。」

どことなく、残念そうに見えるのは気のせいだろう。

「賢明な判断だな。バカバカしいし、場所とかもよくわかってないしな。まず、ありえない。てか、そもそも、隣の高校の須崎さんとはどういう経緯で知り合ったんだよ。」

話を合わせておこうと、何となく話を続けていた。その時までは。

「それはね___、刺殺されるのは私だから。」

衝撃な回答だった。

「だから、久遠はその時の私のボディーガード役ね。」

もっと、衝撃な回答が続け様に出てきた。肉盾になれとのことだ。

「なるほどねー。バカバカしいのに、死ぬのが自分だとなると、まぁ、そうだよなー。」

「でしょ?だから、色々調べようと思って。ね?」

なんか上目遣いで可愛く見える。

「ね?って?」

「手伝ってくれるよね?って意味だよ。バカなの?」

むくれ顔もなんか可愛く見えるな。あざとい。だが、それもいい。

「わかったよ。」

なんやかんや即OKする自分に我ながら馬鹿だと思った。

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