第4話【鏖】
◇主要登場人物◇
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木がメを背負って、
几が又に被さって。
-1-
青を基調とした
そしておもむろに閉じられた二つの目を開く。鉄格子の向こう側――そこには見慣れた兄の姿が在った。
「こんばんわ。おにいさま」
「やぁ、僕のかわいい妹。いつもなら寝ていてもおかしくないのに、今日は
深緑がかったライダージャケットに黒のジーンズ。和をもって良しとする
「睡眠不足はお肌に悪いといつも言っているだろうに。それともあれかい?まだ妨害者がここに
あの方の、と。真衣はやけに歯切れの悪い口調で、話す。
「あの方のお顔もお声も、わたくしは未だ知りません。語りかけるだけで、一方通行なのだから
「彼は死んだよ。カネツグの
彼女が
「そもそも、土台無理な話だったんだよ。
「・・・・・・・・・」
「思えば。思い出せば、思い返せば、父さんの時もそうだった。あの時は僕らは対象で無かったとはいえ・・・・・・とどのつまりは
「・・・・・・・・・」
「村に
「それが掟で、決まりなのですから。どうかおにいさま、怒らないでくださいませ」
「怒る? ねぇ今ひょっとして怒るって言った? 違うねこれは怒りとは違う、もっと低俗で下劣な
お前と違ってね。そう自嘲的に呟く端〆の手には、柄の長い木刀のような物が握られていた。
「だから。これが妹に対して兄が出来る、最大にして最期の行為だ」
振りかぶり、振り下ろす。
剣先のぶつかった、鍵穴が5つあった無骨そうな錠前はいとも簡単に、カチャンと軽い金属音を立てて床に落ちた。
「どうして・・・・・・そこまでして。神器まで持ち出すなんて、おにいさまは死にたいのですか!!!」
「妹が殺されるってのに何もしない兄貴がこの世にいる訳ねぇだろうが!!!!!!」
真衣にとって記憶が確かであれば、兄である端〆に怒鳴られたのは、この時が生まれて初の体験であった。
「いいか。僕はこの後村に火をつけて回って注意を引く。とはいえそもそもが注意を引きづらい能力なんだが……で、お前はその間に逃げろ。その気になれば人間に対しては誰にも負けない能力を、お前は持っているんだからな」
牢屋に入り素足の妹に
親が居なくなって、
ようやくそれが終わろうかと思う
(ありがとう。ありがとう、おにいさま。わたくしはとてもとても、うれしゅうござます。でもね、そんな危険な大役を今のおにいさまに任せることなど、出来ません。だからせめて、わたくしの)
わたくしの“チカラ”全てをおにいさまへと
-2-
「しっかしまぁ、
「否定します。彼はそれだけこの度の妨害者の
彼と彼女は本来ならば断罪院
「善としない、ねぇ。立場的に言えば
「肯定します。しかしながら、善とか悪とかそんな二元論など、複雑怪奇でごったに
「確かにかず君の言う通り
「判定を
問いを投げかけられた女――全身を黒い
「うーん、う~ん。どうだろうなぁ、そんなに付き合い長くないし、何よりうちってばいっつも家に引きこもって鉄とか鋼とか金属関連全般をトンテンカンテンしてる世捨て人風味だしなぁ。ねぇ、ヒント。ヒントちょうだいよ、いっこでいいしさ」
「否定・・・・・・を否定します。仕方ないですね、それなら一つだけ。今の
まだ気温が低く肌寒い日が続いているというのに、肩口を千切り取った胴着一枚と、
「露骨っ。それ絶対忍者じゃん。ていうか忍者の敬称ってなんだろう?それともあれ? 苗字の人々とニンニンって掛けちゃってるのを先に拾った方が良さげな感じかね」
「暫定を装います。さぁさぁ刑部さん、早く答えを。外すと何でもするって約束ですよね? さっさと間違った答えをしぼり出して、その誰にも見せた事のない柔肌を晒してくださいよ」
「おまっ、てゆーかそんな約束してないっつーの。そもそもセクハラだよ、大体かず君は――」
言い掛けて、何なら少し立ち上がろうとした刑部の目の前――あるいは対面に居る数々の目の前とも言える、両者の間に。
ごろり、と。
人間の首が転がってきた。
(!!!)
(!!!)
「
二人が声がした方向をほぼ同時に振り向くと、そこには迷彩服を着た男とも女とも判別が付き辛い人間一人、立っている。
広間の入り口の前でへらへらと笑うその姿は、溢れんばかりの狂気に満ちていて。
「聞いてたらお腹が空いて仕方が無くてねぇ~。ボクも混ぜてよっつーか――――今すぐ喰わせろ」
かつての
-3-
脳針の姿を視認し、室内でまず一番最初に動いたのは、
身を低く屈めながら、全身の筋肉を
数々の右手には、木製の割り箸が握られていた。
『取って掴みて握って啓いて
文字に起こさなければ何を言っているか聞き取れない、しかしそれでいてはっきりとした
畳一枚ほどの距離にて、
ぐちゃりと、
ジャストミートもとい、もともとはそこにぴったりと
「まだだッ! 逃げろッ!!!」
数々は、着地と同時に後方より刑部の叫び声が聞こえた気がした。同時にずぶりと胸の辺りを何かが通り過ぎたような気もした。
視線を下げると、脳針の左腕が生えていた。
それが生えているのではなく、指先から手首までが自身の身体に突き刺さっているのだと確認する頃には時既に遅く、急速に意識が遠のく間際、もう片側の右手で
ようやく止まったものの、うつ伏せになったまま、数々はぴくりとも動かない。
顔面を見事なまでに
「よくも・・・・・・」
脳針の立っている真下より、二本の黒い腕のような物が床面を突き破り出現する。がしりと両足首を掴んだまま離さず、その場に彼を固定した。
「よくも・・・・・・よくもよくも・・・・・・」
壁を突き破り、刑部と全く同じ形をした鎧が二体、磁石のように脳針の身体に引き付けられ、そして挟み撃ちになる形で彼の身体を圧迫する。肉と骨が砕ける音が鳴るも、彼女はまだ飽き足らず
「よくも・・・・・・うちの友達を殺りやがったなぁああああああああ!!!!!!」
天井から、床から、壁面から、あらゆる場所から無骨な黒塊が、
「潰れらあぁあああああああああああああ!!!!!!!!」
刑部
その鎧は一体あたりが
それら一つ、二つ、三つへと五つを掛けて合わせた計十五体が出現し、それぞれがそれぞれの有する質量に任せた暴力的な振る舞いによって、当然ながら
-4-
それは解かなかったのではなく、解けなかったという表現が正しいかもしれない。Not (won't)→ Because(can't)などと、意味も無く英語表記に脳内変換を施してしまうぐらいには、彼女はまだ終わったとは思わなかったし、思えなかったからだ。
瓦礫の下から流れ出したのだろうか、赤い水溜りが出来ている。
見る見るうちにそれは池のよう広い面積を持ち、そして沼のように深い
ぽちゃん、と。何か魚の跳ねたような水の弾ける音が聞こえる。そして、地面に広がる沼から
「あ痛たたた、キミってば女の子なのに、存外
着ていたミリタリー柄の服装は先程の刑部の攻撃によって所々に穴が空いている。が、何故かかすり傷一つとして外傷を負っているように見えない。なんなら
「愛があるからいいんだよ。それにあんたがバケモノなのは分かったがね」
「バケモノ。ふふふっ、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。じゃあそれっぽい感じで、こちらも少し攻めに転じてみようかな」
脳針は言って、大きくおおきく深くふかく息を吸い込み始めた。
1分、2分、3分が経過するかしないかぐらいに、長い長い吸引をした彼は、風船のように身体を膨らませて、うっぷと野太い声を出しながら、構える刑部を見下ろし、云う。
「堅そうだなぁ・・・・・・食べれるかなぁ・・・・・・いいや。とりま、いただきますってことで・・・・・・・・・『
「ぐえぇ」という音とともに彼の
かわす事は恐らく出来ないだろうと踏んだ刑部は、
不自然なくらいに巨大な
「――――応ッ!!!」
ヘリコプターのプロペラのようだと思った。高速回転する刃と刃が、縦に横に斜めに、向かってくる魚を一匹残らず切り刻み、地に落とす。
渦中の人物は彼女がよく知る人物――
「かず君っ! 無事だったのかね!」
「肯定、及び否定をします。
「へぇ~生きていたんだ。面白い、実に面白いねぇ。確かに殺したつもりだったんだけれど」
空気が抜けてしぼんだ風船の如く、脳針は元の体積・体格に戻っていて、あたら愉快そうに手を叩いている。
「触れたモノを武器化する能力がキミの魔術なのは分かるのだけれども、ふむ。人のことはおいそれと言えないが、随分素敵な人体構造をしているんだねぇ」
「賛同を無視し、断定します。我が一族を
「右に同意っ! うちと最上ちゃん'sも
瓦礫を押し退けて、物言わぬ鎧達が、一体また一体と戦場へと復帰する。人駆で数えるならば、一に対して十七の構造が出来上がる。刑部と数々の側に戦局の流れは傾きつつあった。
しかしそれでも脳針の余裕は崩れない。
「戦意を削ぎたくないから黙っとこうかと思ったけど・・・・・・やっぱやーめたっ! より絶望的な状況であればあるほど、キミ達は必死になってくれそうだ。いいかい? もう既にご存知の通りボクの身体は特殊な魚共で成り立っている。で、まぁその数なんだけど」
人差し指と、中指と、薬指を立てる、卵虫遣い。
「その数さんびゃく・・・・・・」
(意外に少ない。むしろ三千くらいは覚悟していたのだが――)
0.5秒後、その認識は覆される。
「――――万だよ。わかる? 3,000,000匹。やー、つってもここ来る前の番人戦とかその他色々でちょびっとばかし減らしてきちゃったし? 本当はそんな数今は出せないし? 何よりキミ達は堅くて疾くて食べるのに手こずりそうだ。困った。困った。だから少しだけ
(!!!)
(!!!)
ばしゃんと。
地の沼から、大きな口のようなモノが飛び出し、脳針の胴体を食い千切った。
分断された腹部より大量の血液を流しながら、頬が引き裂かれたかのような哄笑を飛ばす脳針は、果たして。
「折角だから、第二形態でお相手するよ」
見た者は皆が皆共に戦慄し、目にした者は総じて例外なく発狂足らしめるような――
-5-
あちらこちらではじまってしまった小競り合いを尻目にして。
予測主。いわゆる予知能力者とは似て非なる存在の彼女は、何を想うこともなく、ただ闇の中で佇んでいた。
そして、不意に肩を叩かれた。叩かれた先を、見る。
雨も降っていないのに何故か全身をびっしょりと濡らした、裸の白髪男性が立っていた。
「こんばんわ、おばあさん。月が綺麗ですね」
「ぼ、ぼうや・・・・・・アンタ、し、死んだはずじゃあ・・・・・・・・・」
垂れた前髪を鬱陶しそうにかき上げて、白髪はどこか気だるそうに、そして怒気を孕んだ声で、応じる。
「そんなことよりも、
[Meatrium] is Attacked!!
And.........
[Heaven] will Revenge!!!!
To Be Continued...▶︎▶︎▶︎Next【心】
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