第2話【毬】
◇主要登場人物◇
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△
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-0-
残念ながら 最終回です
-1-
前回までの粗筋を記すその前に、まずは改めて主人公の生い立ちというか、その生き方や考え方について言及をしておこう。
父である
医者になるという目標の為に二年間の浪人生活を耐え抜き、晴れてこの四月より国公立の大学に通える資格も有している。
一般的に
高等学校を卒業してからの浪人生活は正にそうであったし、自分以外の他者においてもそれは変わらない。交友関係でトラブルが生じた際は、場をおさめる為に自らが体育館の2階から飛び降り大怪我をしたりだとか、スクールカーストの頂点に君臨する4つ年上の
一度で叶わなければ敵わなくとも叶うまで諦めない。自分が気に入らなければ何があっても全力で向っていく。
運動部に所属していた実績があるとはいえ、彼は特段
一貫してブレない姿勢は、この度の「夢の中からSOSを飛ばしている女性を救い出す」為にわざわざ遠方であるこの
《どこにいるかも分からない。名前もしらないあなたへ。いずれ死んでしまうその前に。どうかわたくしを助けてください》
いつからか自らに発された言葉の中にある死というワード。何も持たずに乗り込むのは危険過ぎると推測し、先般のスタンガンや食塩水のような“いくつかの武器”を衣服やショルダーバックに
そんな彼が次に対峙する相手には、その武装を駆使することを許されない状態で合間見えるなどと、分かるべくもなくして。
-2-
静寂と闇が支配する道中、ようやく次の目的地である
入り口より中に
置き
「こんばんわ、おじょうさん。俺は
まんが日本昔話に出てきそうな黒髪のおかっぱ頭に、深緑の着物をぴったりと着こなしている。
「いっちばんっ、はじめはっ、いっちのみやっ。にぃ~はっ、にっこうっ、とうしょーぐうっ。さーんは、さくらのむねっ、さくらのっ、そうごっろう~」
見たところ、小学生になりたてぐらいの年齢であろうか。夜更けにて淡々と古風な遊びに
声をかけて無視された程度で自らの自尊心が傷つけられることはなかったにせよ、横たわっている男にふと目をやった
(女の子が影でうまく見えなかったけど――あれたぶん死んでいるよな)
床にぺたりと寝そべっているように見えた男は、見れば身体のいたる箇所が
「よーんっは、しなののっ、ぜんこうじ~。いつつっ、いずものっ、おおやしろ~」
絶命しているであろう男を気にもかけずに、女の子はお手玉と歌に夢中になっている。5つの小さな手製のお手玉を地面に落とさずに
「彼女の名前は
「そしてボクもまた別の人物。はじめまして、白石くん。
床から天井まで伸びている支柱の影から、男なのか女なのか判断が付かない、中性的な人間が姿を現しつつ、
「こんばんは、
「キミの推察は概ね正しいというか、その認識で合ってるよ。
「一見すると死んでいるようですが、これはあなたがやったのですか?」
「う~ん、結果から言うとボクが
「そのお願い、とは?」
「『魔力を一切持たない妨害者が奇跡的に
言って、
「ボクはね、昔はこの
くすくすと笑う脳針は、確かにこの村にそぐわない格好をしている。上から下までが迷彩色を基調とした
正体がつかめない。
「まぁそれはどうでも良いんだけどね。ともかく、その鍵はサービスだよ。あと3つ集めれば、キミが助けに来た女の子が
「俺の記憶が正常であれば、おそらく
「キミは質問ばかりするな。いや、悪くないか。聞くは一時の恥・聞かぬは一生の恥を愚直に行くスタイル、嫌いじゃないよ」
「俺はあいにく、普通の人間より頭が悪いもので」
「フフフ、今度は無知の知かい。いいね、必要以上に己を強く見せようとする
要約すると、
「そうでしたか。こんな若僧である俺に、勿体無いぐらいの一助をいただき、感謝します」
「いいね、そうやって直ぐに礼を言える奴は、嫌いじゃない。キミは本当に良い奴だ。初対面がこんなシーンでなければ、友達になれたかもしれないのが残念だ。惜しい、惜しいね。惜しいからこそ、おじちゃんはもう一つだけサービスをすることにしよう」
「サービス?」
「これから先に進む際、化け物みたいな能力を使う魔術師が出てくるかもしれないだろう。それに対抗する手段を、今からやるゲームに勝てば、授けてあげるってこと」
ねねちゃんこのおにいちゃんが遊んでくれるってさ、と
「ほんとっ!? あそぶっ、ねねこのおにいちゃんと、あそぶ~」
ぱしんっ。左手でそれを受け取る。
「して、ゲームとは? 」
「簡単さ。相手は子供だし、変に趣向を凝らす必要も無いだろうよ。“彼女が持つお手玉が全て地面に落ち”ればキミの勝ちで、“それ以外”であれば彼女の勝ちとする。さてと一応
「キャッチボール、とはちょっと違うか。まぁいいでしょう、その勝負受けて立ちます」
見事な玉捌きを見ていた為、前提が“お手玉を長く続けた方が勝利”とかであれば、それこそ自分に勝機はないに違いない為、大人しく引くつもりであった。
玉をキャッチしたときも、何のことはない、小豆か何かを詰め込み布を縫い合わせただけの、正真正銘ただのお手玉である。危険は無いと判断し、
早いとこ終わらすかと、空いた右手で頭の後ろをぽりぽりと
-3-
「!? ――ぐぁ・・・・・・!!! 」
左肩と肩甲骨の間あたりに、強烈な痛みが走る。重い鉄球がぶつかったかのような感覚。痛みに目を細めながら視線を落とすとそこには――なんのことはない、
数秒前。左手でお手玉を持ち、右手で頭を掻き、即ち両手が両手とも
10歳にも満たない幼女が、それこそ肘から上だけ持ちあげて前方に放り投げる一連の動作。彼女と
「魔術ってのはね、物体に関与する為には、どうしても詠唱が必要なんだ」
とても愉快そうな声色で、痛みにうずくまりそうな
「威力が高ければ高いほど、非現実的であればあるほど、その詠唱時間は長く複雑なもとのなる。でもね、普段からその詠唱を言い聞かせていれば――インプットさえしていれば、発動までの時間はかなり短縮出来るだろうね」
「インプット・・・・・・? 」
「勘のいいキミなら既に分かってると思ったのに。ふふんっ、案外“痛み”には弱いんだな。しょうがないなぁー、おじちゃんは優しいからヒントをあげよう。ねねちゃんは、お手玉をしながら、同時に何をしていたのかな?」
(!!! )
「なるほどね――歌が詠唱の役割を果たしている、のでしょうか」
「正解。冴えてるね。とはいえ残る玉を五体満足で、果たしてキミにはかわせるかな? 」
幾分か勢いが無くなった肩にめり込んでいた分と左手に握っていた分とを床に落とし、
(骨は折れていない。かなり痛いが動くには、負担にはならない。さてどうする)
モノはお手玉ながら砲弾と相違ない威力を有する。そして視認する限りで残りあと、2発。
(近づいて無理やり奪い取るか?いや、迎撃されかねない。ならば距離を保ったまま相手を無力化するしか――)
ショルダーバックより手製のテーザー銃を取り出そうとした時だった。
ぞわり、と。
悪寒が、
「云い忘れたけどさ、いや云う必要がなかったから敢えて言わなかったのだけれども」
自らに向けられたであろう殺気の発生源を向く。脳針は、人とは思えない無表情のままに、見下げる様な具合で、
「相手はかわいい女の子でこどもなんだよ。何か大事があったら、その瞬間 お 前 を 喰 ら う ぞ」
(――化け物かこいつは)
伸ばしかけた右手を元に戻し、相手に危害を加える事無く終了する条件を考える。考えた結果、どうやら無傷で場を収めることが不能であるだろうという結論に至った。
「これは、きっと罰なのでしょう。命がけで、自ら死ぬことも厭わぬ気負いで来ていた俺が、
自らを
「鉄球であるかのように砲丸並の威力を有するその魔術、確かに厄介ではありますが――」
そして、
「きゃはきゃは! おにいちゃんっ! こんなのはどうかなっ! 」
互いが脇にある支柱にぶつかった瞬間、物理法則を無視した動きと質量をもってぎゅるぎゅると音を立てながら、二対の凶弾が
距離、残す所7メートル。
(無理に避けようとするな。恐ろしく痛いだろうがなんかとかして耐えろ・・・・・・!!! )
5メートルに入ったところで、右側のお手玉が横腹の上部に命中する。
「痛ッ!!! 」
左側のお手玉はしゅるしゅると音を立てながら、まるでこの場が無重力であるかのように空中をゆっくりと浮遊していた。
(これは賭けだ。ハズせばたぶん死ぬ)
残り2メートル。
ダメージを負った左腕で、頭を
ぼきりと、またも骨の折れる音がした。
(あとは相手の出方次第・・・・・・頼むぞ)
残り1メートルを切った。手を伸ばせば届く距離――間近に接近した所で、
「おじょうさん、ままごとは好きかい? 」
差し出した右手には、フエルトで編まれた人形が握られていた。
一瞬、なんのことかわからなかったのか、きょとんとした表情を浮かべる
「ねねっ、おままごとだーいすき! あそぶ! あそぶ! 」
それが何か分かるとにんまりとした笑みを浮かべ、嬉しそうに叫んだ。
-4-
膝を突いて、その場に倒れこむようにしてうずくまる
ぽすっ、と。
上方から振ってきたお手玉が頭へと落ち、そして命中した。
顔を上げるとそこには一点の穴が空いている。どうやら3発目のお手玉が建物外に出た後に反射をして上昇し、結果室内に舞い戻ってきたようだ。途中まで魔術が発動していたことを
「無事とは言えないが、君の勝ちだね。おめでとう」
手を叩きながら、
「これで二人目か、凄いね本当。なんなら今回に関しては武器すらも使っていない。キミって奴は本当に素晴らしいな」
「損傷具合が半端無いのを除けば、ですが」
緊張が解けたからか、麻痺していた痛みがじわじわと感覚として表れてくる。きっと左腕はこの先もう使い物にならないだろう。それと肋骨が折れたせいで、息をするのも難儀な状態でもある。
「運良く無傷でここまで来れたのを、実力であると勘違いして欲しくなかったのさ。魔力のない人間が余力を残したまま進むということは、二度目になるがそれこそ奇跡に奇跡を重ねたような薄い確率なんだよ。一歩間違えればね、死んじゃうんだよ」
それこそあっけなくね、と
「ともあれ勝ちは勝ちです。早くサービスとやらを俺に下さいよ、正直立っているのも辛いんです」
出血はしていないとはいえ、骨折による痛みと腫れは、明らかに
それですら愉快な見世物であるかのように、
「うんうん、分かってるよ。サービスね。
うずくまる
顔を近づけ――唇を重ねた。
「・・・・・・む? 」
べろりと口内に
「何やってるんですかあなたは」
「ん~、だからご褒美だってばさ。それとも初キスだったとかぁ~」
(痛みが――消えている? )
肩も腕も肋骨も、全部が全部何事も無かったかのように治っていた。
「ボクの本来の魔術とは違うんだけどね。説明不足もあったし、治療はオマケってことで」
正になんでもありだなと、
「とりあえず、ありがとうございました。それと、ねねちゃん。その人形だけど、こっちの奴とかえっこしても良いかな」
ままごとと称して
「その人形、キミが作ったのかい? 」
「えぇ、そうですよ。何があるか分からなかったので、念の為にね」
「あははっ。別の使い方をしてたならば、ボクも黙ってなかったかもねー」
「勘弁してくださいよ。さっきだって殺されるかと思ったのですから」
その後、いくつかのやり取りがあった後、先を急ぐのでと簡単な挨拶を交わし、
番人である
“現六夜叉村最強”の称号を冠する魔術師と対峙する未来を、彼はまだ知らない。
[Bean-bag Child] is Laughing!!
To Be Continued...▶︎▶︎▶︎Next【死】
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