第2話 羨ましい

 俺の名はドラゴ。シルフィの街にあるギルドに、冒険者として登録している。冒険者歴12年目を迎え28歳になる中堅の冒険者だ。今までの多くの依頼をこなしてきた冒険者としての経験、この鍛え抜いた体と魔力を込めて放つパワーが俺の自慢だ。純粋なパワーならシルフィのギルド一番と言っても過言でもない。今はどんなモンスターもパワーでねじ伏せられるし怖いモノなしだ。


 「い、いやつい誘導するのに時間が掛かってな!」


 「遅い」

 

 「…すいませんでした」


 「ある程度ならいいと言ってるけど服のモンスターの血まみれで汚れすぎ…あれほど言っているのにね」

 

 「すいませんでした!!!!!」


 眼が怖い。無表情のまま不機嫌オーラ出まくりのこの女はイリス。まだ20歳で若く冒険者歴2年目だが、仕事では欠かせない俺の相棒だ。エルフの末裔かなんかで少し耳が長く、どこかの貴族の娘かなんからしい。そんなお嬢様が何故かは分からねえが、俺の相棒をやってくれてる。別に金なんかに困らなさそうなくせに、わざわざ危険が多い冒険者なんかやってるんだ、何か事情があるだろうと思い深く聞いたことはない。


 まるで人形のような整った顔付きでスタイルがよく、胸は普通くらいだろう。とても美人で俺以外には愛想が良く、俺の住む街では子供からお年寄りまでよく声をかけられる。市場のおっさんやおばさんから買い物に行くたびおまけをくれるらしい。羨ましい。俺にはびた一文まけてくれねえからな。


 イリスに全力で頭を下げていると、じーさんが近づいてきた。他の村人を引率している様子を見ると村長かなんかだろう。とりあえずイビル・ボアの頭を足元に置いとく。


 「私はこの村の村長です。冒険者の方々、本当に有難うございました。とても助かりました。急なことにも、関わらず助けていただいて……お礼はいかかが致しましょうか?ある程度なら支払いできます。もし足りなければ村の名産品でも…」


 今回のイビル・ボア討伐はギルドの正式な依頼ではない。たまたま朝にここの村の近くを通っていたら、大きめのイビル・ボアの群れに襲われていたので助けただけだ。ギルドからの報酬などないただ働きだが、無視して村人全員食い殺されるのはさすがに目覚めが悪い。すぐさまイリスと共に応戦に向かい討伐した。


 「大丈夫だ、じーさん。俺たちはたまたま近くを通りすがっただけだ。助かってラッキーて思ってくれ」

 

 「いえ、そんな…村の危機を、私達の命を助けていただいたのに何もしない訳には……」

 

 「そうですよ、冒険者さん。報酬だけじゃなくご馳走でも、お酒も用意させていただきますので」


 「よかったら女性の方もいますしお風呂もご用意しますので今日一日泊まったらどうですか?」


 報酬を断ったら飯や宿まで増えた。いつもなら報酬はともかく飯や宿泊なら喜んで受けたかもな。だが今回は本日中に所属しているギルドへ必ず帰る必要がある。とても大事な用事だ。ここで油を売ってる暇はない。さっさとこの村から発つべく、村に預けておいた腰袋ポーチを掴む。


 「本当に大丈夫だ。今日中にギルドに帰る必要がある。気持ちだけ受け取っておく」


 「そうですか……そこまでおっしゃるのなら。せめてイビル・ボアの肉を。今持っていくのは無理そうですので適切な処理次第そちらのギルドへ討伐代と一緒にお送りさせていただきます。お名前と所属ギルドを…」

 

 「いや、全部そっちで売るなり食うなりしてくれ。代金も不要だ。大変だろ怪我やら壊れた道具があるし。治癒やら修理に回せばいい」


 「それは」


 「それと悪いんだが、俺が討伐したやつは頭しか残っていない。他は肉片になって飛び散ってしまったからな。もしかしたら他の肉食モンスターが匂いを嗅ぎつけて集まってくるかもしれん。モンスター避けの魔符は使っておいたから村に近いクルフィの街の掃除屋に依頼しておいてくれ。」


 「わかりました」


 「掃除屋にはシルフィのドラゴと伝えてくれ。それで話が通る。今朝話した感じだと奴らは手が空いている感じだ。すぐ来てくれる。」

 

 「何から何まで…有難うございます。…お気を付けて」

 

 「じゃあな。悪い、イリスもう行くか…あれ?」

 

 本来は後片付けするんだが、今日は急いでるからな押し付けてしまった。まぁ仕方ない、村の壊滅を防いだしそれくらい許してくれるだろ。すでにイリスが出発するために入り口で待っているかと思ったんだが、居ない。少し周りを見渡すと村の男と何か話をしているイリスの姿があった。相変わらずモテる女だ。

 

 「イリス、まだ準備できていないのか」


 「いえ、もう大丈夫よ。あなたじゃないんだから、行きましょ」


 「そっそれでイリスさん!今度よかったら一緒に!」


 なんか馬鹿にされた気がするな。まぁいい。それより、相変わらずイリスが村の男にデートっぽい事を誘われている。イリスに声を掛けている村の男は俺たちが駆け付けるまで村の結界を維持しながらイビル・ボアに対抗していた勇気ある村人の一人だ。村人にしては小規模とは言え魔法結界を維持できて少なからず攻撃魔法も使える将来有望な若者だと俺は思う。

 そんな若者の勇気ある行動に割り込んで悪い事したな。恋する者は俺もある程度だが応援するぞ。俺もある人に恋をしている。だが、相手が悪い。


 「ごめんなさい…今は色々と忙しくて…」


 「そ、そうですか!すみません…変なことを聞いてしまって」


 「大丈夫ですよ。それではもう行きますので」


 「はっはい!気を付けてください!」


 すげえ愛想のいい顔。イリスはどこに行っても声を掛けられるのだが、どんなお誘いでも断ってやがる。しかもどんな相手でも不機嫌な態度や表情を見せずにやんわりとお断りする。どんな相手でもお断りするもんだから気になって1度、どんな男がいいのか聞いたことはある。だが聞いた瞬間、全身が凍てつくような目付きで睨みつけられた。聞いてはいけないことだったらしい。もしかしたら同性が好きなのか?と聞こうとも考えていたが……やめておいた。


 「よかったのか」


 「何が?」


 「また誘われてだろ?少しぐらい待ってもよかったぞ?話ぐらいもう少ししても」

 

 「あんなのうるさいだけよ」


 「そ、そうか……」


 また無表情に戻る。少しは他の人に振りまく愛想を俺にも分けてくれ。それと一度は俺も、異性に誘われすぎて「あんなのうるさいだけだ」と言ってみてえ。ホント相棒が羨ましい。

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