ネットストーカーは突然に

丹野海里

第1話 ミソラチャンネル

—1—


『はい、というわけで! この動画が面白かった! いいな! と思った方はグッドボタンとチャンネル登録、是非是非よろしくお願いしますっ! ということでまた次回の動画でお会いしましょう。以上、ミソラチャンネルでした! バイバイ』


 夕方6時。

 1時間後の夜7時に公開する動画の編集を終わらせた私はスマホを片手に仰向けに倒れた。


「えっと」


【動画更新! 現役JKが7月に購入した商品の中でオススメトップ3! 1位はまさかの……】


 フォロワー30万人を越えるSNSのアカウント。

 このアカウントではミソラチャンネルの動画の投稿を知らせたり、女子高校生の間でバズっている写真を投稿したりしている。


「動画のURLを貼りつけて下書きに保存っと。これでよし」


 動画も時間指定の予約投稿にしてあるし、ちょっとだけ寝るか。

 今日は学校から家に帰ってきてずっと編集作業をしていたので、目を閉じるとスッと夢の世界に入ることができた。


—2—


 スマホのアラームで目が覚めた。

 時刻は7時ちょうど。20分くらいは寝れたのかな。


 動画は自動で更新されてるはずだから、さっき下書きに保存しておいた呟きをSNSに投稿しないと。

 投稿までかかった時間は僅か3秒。今時の女子高校生はこれくらい普通にできちゃう。


 次にパソコンを開いて再生数とグッドボタンとチャンネル登録者数の確認。

 動画投稿を始めて2年。この流れはルーティーンになっている。


 数字が増えてると嬉しくて、少ないと悔しい。


 私は多くの人に見て欲しいという欲が人一倍強いのかもしれない。

 じゃなきゃここまで頑張れないもん。

 動画配信者は見られてなんぼの世界だからね。


 うん、今日の動画もそこそこ好評みたいで良かった。

 ページを更新する度に再生数が伸びている。もしかしたら急上昇に入るかも。


 さっきからテーブルの上に置いていたスマホの振動が止まらない。

 動画を見た視聴者がSNSにいいねやコメントを送ってきているのだろう。


 顔がにやけているのが自分でも分かる。

 スマホをタッチしてコメントを1つ1つ読んでいく。


【ミソラちゃんのオススメ商品今度買ってみます!】

【動画のタイトルに引っかかったけど面白かった】

【ミソラちゃん、今日も可愛かった♪】


 視聴者みんなから愛されている。なんて幸せなんだろう。

 画面をスクロールしながら届いたコメントを読んでいくと、ふと1件のコメントに目が吸い寄せられた。


「なにこれ……」


南雲実空なぐもみそら、今すぐ動画投稿をやめろ。でないとどうなるか分かってるだろうな。2度は言わないからな】


 脅迫文とも取れるコメントが寄せられていた。アカウント名は『豚の勇者』。もう訳が分からない。


 私は動画やSNSで本名を公開したことがない。それなのにこの豚の勇者は私の名前を知っていた。

 こういう世の中だからネット界隈でそこそこ人気になった私の個人情報がどこかで拡散されたのかもしれない。


 動画投稿を続けたら私の身に危険が降りかかるのだろうか。

 豚の勇者の手によって?


 でも、芸能人や人気な動画配信者なら殺害予告とかされてるしな。

 私もそれだけ知名度が上がったってことか。


 何か起きたら警察に報告しよう。それでも遅くないだろう。



 私はこの時の判断を後々後悔することになる。

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