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「で?相談って?」
椅子に座るやいなや、ハンスはゾフィーの方も見ずに白いナプキンを広げながら尋ねた。
「うん。まぁ、食べよ。いただきます。」
ゾフィーに促されて、ハンスもいただきます、と言ってから食事に手をつけた。
「…お兄ちゃんはさ、今度のシスレー社のパーティー行く?」
聞かれたハンスは切り分けた白身魚のソテーをフォークでつついていた。
「…行くわけねーだろ。パーティーとかめんどくせぇよ。」
「だよね…。」
ゾフィーはテーブルの上にある水差しを手にとり、自分のグラスに水を足した。
「私も行くつもりなかったんだけど、今度のはお養父さんから必ず行くようにって言われて。」
「ふーん。行けばいんじゃないの?クリスとジルベールも行くって言ってたぜ。」
「うん、行くことにしたんだけどね。ついこの前またお養父さんに念を押されて、ちょっと変だなって思って理由を尋ねたら、紹介したい人がいるからって。」
「紹介したい人?お前に…?」
ハンスは一瞬手を止めてゾフィーの方を見た。
「うん…何か嫌な予感がして。マリーに当日の衣装と美容師を手配するように言ってたし。そんなの初めてだったから。」
口の中の食べ物をごくりと飲み込んでから、ハンスは口を開いた。
「…なんだそれ。勝手に婚約者か何かを連れてくるつもりじゃないだろうな。」
「やっぱりそう思うよね…?最近は門限にもすごく厳しくなったし、休日にどこに行ってたか聞かれたりもしたし。なんだか私生活を監視されてるみたいで…。」
ゾフィーはため息をつきながらゆっくりと野菜スープを掬った。
「…政略結婚か。まぁあいつの考えそうなことだな。」
そう言うとハンスは食事の手を止めて腕を組んだが、少し考えてからパッとゾフィーを見た。
「てかお前、彼氏とかいねーのかよ?」
突然出たその言葉に、ゾフィーは驚いて顔を上げた。
「え!?いないよ!…なに?そんなこと聞くなんてらしくない…お兄ちゃんこそいないの!?」
ゾフィーは慌てて聞き返したが、ハンスは平然としたまま水差しからグラスに水を注いでいた。
「俺は今それどころじゃねーよ。お前に彼氏がいたら、婚約者なんて紹介されても困るだろ。パーティーは誰と行くんだよ?」
それを聞いたゾフィーはなんだか少しほっとしたような、複雑な気持ちになった。
「ああ、ダンスのお相手のこと?…ジルベールよ。」
ジルベールの名前が出た瞬間、ハンスは飲んでいた水を吹き出した。
「は!?ジルベールってあの…俺のチームクルーの?」
「そうよ。他にいないでしょ。」
ゾフィーはあっさりと、にべもなく答えた。
「お前…ああいうのがタイプだったのか?」
「もう…。ジルベールの方から誘ってくれたのよ。」
ゾフィーはあきれたように席を立って近くにある窓際の棚の引き出しから布巾を一枚取り、テーブルを拭きだした。
「マジで!?あいつ俺に何も言ってなかったぜ。いつ誘われたんだよ?」
「いちいちお兄ちゃんに許可をもらう必要もないでしょ。この前みんなでクルトおじさんの家で食事したときよ。」
テーブルを拭き終わると、ゾフィーはそのままキッチンへ向かった。
「ジルベールってずっとゾフィーのこと好きだったのか!?全然気づかなかった…。」
ハンスは引き続き驚いた様子で、キッチンのシンクで布巾を洗いだしたゾフィーに向かって中途半端な質問をした。
「もう。ジルベールはまだお相手が決まってないときに、たまたま私がいたから声を掛けてくれたのよ。クリスだってきっとまた何人もと約束してるんでしょ?」
そう言われると確かに、とハンスは思った。パーティーに出席する独身者はダンスのパートナーを伴っての参加が基本だが、必ずしもそれが恋人同士であるとは限らない。相手が決まらない場合は友人などに頼んで当日だけの相手を紹介してもらう場合も多い。
「そうか…。まぁ、もしあいつに婚約者か何かを紹介されても無視しとけばいいだろ。それでも何か言ってくるようだったらすぐ俺に言えよ。」
ハンスはそれだけ言うと席を立った。
「…ありがとう。そうする。」
ゾフィーは嬉しさを隠すように、キッチンにあるタオル掛けに布巾を干した。
「お兄ちゃん、もういいの?」
「うん。マリーにうまかったって言っといて。」
微笑んだハンスはダイニングの玄関側のドアを開いて部屋を出て行った。ゾフィーは上機嫌で自分の食器を片付けた。
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