第16話 開店準備
チサトを紹介し食事を終えると、各自それぞれ自由に行動を始めた。スフィアは宿に戻り掃除、もちろんルーナはこの家の掃除だ。住み込みで働くことにしたアルタとエリザは、今日は疲れたので先にお風呂に入ると言っていた。それにエレノアもついていきどうやら3人でお風呂に入るようだ。ソーマさんは今日の書類をまとめるために一度部屋へと戻っている。
つまり今この食堂にはポチとチサトの2人だけが残っているということだ。ポチが気軽にチサトに家を教えた理由はここにあり、チサトだけじゃなくポチも確認しておきたいことがあったのだ。
「やっと話が出来そうだな。」
「そうだね。」
チサトは一度深呼吸をするとダンジョンでの続きを始めた。
「おまえって、もしかしなくても日本がわかるんじゃないか?」
「……俺も聞きたかったんだ。チサトって日本名だよね、と。」
2人はしばらくの間そのままお互いの顔を見つめた。それぞれ日本を知っているのだ、つまり…
がしっとお互いの手を取りぶんぶんと振り回す。たまたま掃除で通りかかったルーナが不思議そうな顔をしていたが、そんなことはどうでもいい。
「ポチ、おまえはどうやってここに?」
「気がついたらかな…そういうチサトは?」
「多分…死んだかな?病気だったんだずっと。」
お互い理由がはっきりしていないが共通していることがある。2人とも日本人で、ここに来た直前のことを思い出せないが気がついたら違う姿でここにいる点。そして違っていたところはチサトは死んでいるかも知れないということに対し、ポチはそんな覚えがない。気がついたら今の姿でこの世界にいたチサトと自分で姿や名前を選んだポチ。
お互いそんな話を交換しあったが結局なぜこの世界にいるのかはまったくわからなかった。
「まあいいさ…病気だったのと比べれば自由なんだ。俺はこのまま楽しむことにしてるんだ。」
「俺も似たようなものだよ。よくわからないけどまあこのまま生きていくのも楽しいかもって思ってる。だからこの家買って、これから店を始めるんだ。」
「あーそういや~仕事って言ってたな。自分の店なんだな。」
店の話に興味をもったのかチサトは家の中を見渡し始めた。
「…なんの店だ?」
「薬屋かな。錬金術で作って売るんだよ。」
「それで素材集めしてたのか…店はもうやってるのか?」
「まだだよ。開店準備中。」
「同郷のよしみでなんか手伝おうか。」
チサトの気持ちは嬉しかったが、まだ準備段階で困ってはいない。今欲しいのは販売従業員だけだ。給料の問題もあるしこれ以上は店を始めてからじゃないとなんともいえないのだ。
「ありがとう気持ちだけ貰っておくよ。また何かあったら頼むから、そのときはよろしくね。」
「おう、気軽に言ってくれ。」
帰り際にチサトが宿を教えてくれた。驚いたことにすぐ隣の建物だった。
チサトが帰った後ポチは書類の確認のため仕事部屋へやってきた。どうやら話こんでる間にまとめてくれたらしく、ソーマさんが担当していた相場について書かれた紙が置かれていた。内容を確認してみると、
販売薬一覧
-----------------------------------------------------------------------------
・ポーション…銅貨5枚、銅貨4枚
・毒消し薬…銅貨3枚
・痛み止め薬…銅貨4枚、銅貨3枚
-----------------------------------------------------------------------------
3種類しか書かれていなかった。つまりこの町ではこの3種類しか扱っている店がないということだ。一度ソーマさんに話を聞いてみることにする。
「…ん?」
もう一枚紙が置かれていた。手に取り内容を確認する。
『早く契約を…サラマンダー』
そっと元に戻し見なかったことにした。
部屋からでると次は倉庫へ…今日採取したものを調合して商品にするのだ。今倉庫に置いてあるのは3人が集めてきた分だけだ。ポチが集めたものはまだストレージに入ったままである。
「それでも少し狩り過ぎたかな…」
調合前のものなので量があるのはわかっていたが、倉庫の1/3くらい棚を埋めている。これに加えまだポチのストレージに同じくらいの量が入っているのだ。
「ノーム、プルポム草も出していいよ。」
採取を頼んだままアイテムも預けたままだったノームにこの場に出してもらう。またその量も多かった。ありがたいのだか一体どこにしまっていたのだろうかという疑問はある。
「うわ……これで俺のも外にだしたら棚うまっちゃうな。」
ということで先に手持ちのアイテムの調合に入る。その後ノームの持ち帰ったもの、3人の集めたものと順番に調合していくとすっかり夜も深くなり家の中は静かになっていた。ルーナに確認するとどうやらみんな寝てしまったようだ。
「ソーマさんに話を聞くのは朝だな。」
倉庫での作業を終えると、ポチの仕事は終わりだ。後はお風呂に入ったら寝るだけである。そっとお風呂場の扉を開け中の様子を見る。
「誰も…いないね。」
どうやら今日はのんびり入れそうだ。かけ湯をしたのち湯船につかるとポチは体を伸ばした。今日は1日中色々と急がしかったので、このゆったりとした時間がうれしいのだ。
「お風呂は癒されるな~…っと」
体を洗ってから再びゆっくりつかろうと一度湯船から出る。
「精霊なめんな…です。主様?」
ばたーんと大きな音がしてルーナが入ってきた。もちろん昨日と同じく服を着ていない。そのままスポンジと石鹸を手に取るとポチに向かって飛び掛ってきた。それをひょいっとかわすとルーナは床におでこを打ちつけた。
「い、痛いです…主さまぁ~…」
おでこを抑えながらルーナが涙ぐんでいる。少し悪いことをしたかなーと様子を見るため近寄ると、
「隙ありですーっ」
といってポチの腕を引っ張り同じようにうつ伏せに床に倒れこんだ。すかさずその上に馬乗りになりスポンジで背中を洗い始めた。
「ちょっルーナせめて何か着てーーっ」
「服を着たら濡れてしまいますよ…それに主様は精霊の裸体をみて興奮する変態さんではないでしょう?」
あーもう…本当に許してください。精霊とはいえ女性の裸とか無理だから!恥ずかしいから!
極力ルーナのほうを見ないようにしながら大人しく背中を洗われるはめになった。スフィアが来ていなかったのがせめてもの救いだった。2人で押さえつけられたらもっとひどいことになっていただろう。
背中を洗い終えたルーナは気が済んだのか扉の外へと出て行った。残されたのは赤く茹で上がったポチだけだ。
「のんびり出来なかった…」
少し時間をあけ気持ちを落ち着けてから自分の部屋へと戻る。
「疲れた……」
ベッドに倒れこむとぼんやり天井を眺める。
「この世界の女性は精霊も込みで強いわ…っとそうだ、たまにはステータス見ておくか。」
名前:ポチ
性別:男
年齢:16
職業:錬金術師(商人)
レベル:16
体力:138/138
魔力:314/1466
力:82
速さ:101
知力:762
運:81
物理防御力:63
魔法防御力:214
固有スキル:チュートリアル 鑑定2
称号:スライムに倒された男 精霊の契約者
*****
調合3 練成1 分解1 合成1 (生成) (操作)
*****
話術1 ストレージ増加2 開店1 値切り1 (経営) (雇用)
見ておいてよかったな…レベルが4上がってる。わっ魔力かなり減っているな一気に調合したせいだろうか。ステータスの上がりはまあお察し!……お、調合が3になっているな。
「調合か…新しい薬が作れるかもだな。」
『錬金術師指南書』を取り出し調合レベル3の調合内容を調べる。
調合レベル3
-----------------------------------------------------------------------------
・不可視薬…効果:半日ほど自分よりレベルの低いモンスターから見つからなくなる。
材料:ヌグル草×2
・雲集薬…効果:半日ほど飲んだ人の傍にモンスターが寄ってくる。
材料:フヌウ草×2
・爆弾S…効果:投げると小範囲爆発する。
材料:グルルム草×2、スライム玉
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これはまたまだ見たこともない薬草ばかりだな…朝に誰かに聞こう。
ステータスなどの確認が終わるころには流石に眠くなりポチはそのまま眠ってしまった。
▽▽▽▽▽
「今日の予定の確認をするね。」
食堂で食事をしながら今日のことについて話を始める。アルタ、エルザ、エレノアは昨日と同じくダンジョンで採取をしてもらう予定だ。ソーマさんは今日はポチと一緒に行動だ。内装の作業を始めるつもりなのだ。
「ねえ、ポチ同じ場所を連続だと飽きてしまうわ。何か他にいる材料とかないの?」
「ん?他の材料か…あるにはあるけど。」
「じゃあ今日はそれ集めてみてもいいかしら?」
たしかに昨日新しく覚えていた調合があったが、その材料の入手場所がわからない。
「ヌグル草、フヌウ草、グルルム草の3種だけど、どこで手に入るかわかるかな?」
「そうね…フヌウ草ならダンジョン地下3階で手に入るわよ。他はちょっとわからないかな。」
「3階か~そこは3人で狩れそうならそれでもいいけど…」
「多分大丈夫だと思うわよ。少し行って見てだめだったら1階に戻るわ。」
「それならいいかな…」
簡単に予定を話し終わると各自行動を始めた。ポチはまずソーマさんと話し合いだ。
「さて…内装なんだけどどんな感じにすると店としては機能しそうですかね…」
「そうですね…」
2人で店の内部をぐるりと見回す。扉から入って正面にカウンター、その左奥に家へ繋がる扉そのすぐ右側に倉庫へと繋がる扉がある。入り口の扉からカウンターまではそれほど距離はない。ここに商品を並べるのは少し厳しそうだ。それに盗難対策としても置くべきではない。
「やっぱりあれですか、カウンターでいるもの聞いて奥からもってくるほうが…」
コンコン…
会話の途中で扉のほうから音が聞こえてきた。まだ店は開店していないのだが誰だろうか…
返事をし、扉を開けるとそこには1人の女性が立っていた。その女性は大きな尖った耳を頭の上のほうに生やし、さらに大きな尻尾が背後に見えている。どうやら獣人族のようだ。
「あの、看板とか出てませんけど『ポチの薬屋さん』であっていますか?」
「はい、そうです。まだ準備中でして何も販売していませんが。」
そう応えると女性の顔から明るい笑顔が飛び出した。ばっと手を前にだし持っていた紙を見せてきた。
「従業員希望です!条件ばっちりだと思うんで私でいかがでしょう?」
たしか条件は女性で数字に強いことだったよな…
「ソーマさん。数字に強いという条件でだしてたんですけど、どうやって判断すればいいですかね?」
「そうですね…ではこんなのでは…銅貨2枚の商品を10個と銅貨3枚の商品3個買った人が金貨1枚で支払いをしたとしていくら返せばいいかな?」
「銀貨7枚と銅貨1枚です!」
女性は自身満々に応えた。
「うん、計算速いしあっているね。」
「どこか学校とか行っていたのかな?」
「いえ、家も販売業で昔から手伝っていたんですっ」
「だそうだよポチくん。」
ポチも一緒に考えてみたのだが全然それより計算が速かった…
「彼女もすごいけどソーマさんもすごいな~」
「それであの…雇ってもらえますか?」
断る理由がポチにはなかった。開店予定日前日で、今日来なければこのまま補充なしでしばらく続けなければいけないことが待っていたのだ。
「じゃあお願いしようかな…」
「はいっありがとうございます!あ…住み込み希望です!」
元気よく答えた彼女の笑顔は眩しかった。
「あ、名前は?」
「…ごめんなさい!シルメリアといいますっこれからよろしくお願いします!!」
名前を名乗ると軽く頭を下げ、シルメリアは自分の頭をこつんと叩いた。
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