第14話 同居?

 不動産屋からの帰り、買出しに出ていたエレノアにあった。つい家を買ってしまったことを言ったらかなり驚かれてしまった。宿代を払ったばかりだったのでなおさらだろう。でも理由を話したら「それならしかたないかー…」と納得してくれたので問題はなさそうだ。

 問題があるとすればスフィアのことだろうか…魔力ポーションの提供をしてソーマさんに返してもいいのだろうが、理由もなく受け取ってくれそうもないし、早々と契約を解除するのもスフィアに悪い。


 さて…実は『エルフの微笑亭』を出たあたりからずっと後を付いてきていた人が数人いたのだが、それが先ほどからいなくなっている。…はて?まあ気にしなくてよくなったからいいのだが…


 今日の本来の目的である火炎瓶の試用。エレノアと分かれた後東門からフィールドへ出ている。ここで今から試すのだ。町からは少しだけ離れてやることにする。その辺からスライムを抱えて集めてくる逃げないように『練成』で一応檻に閉じ込めておいた。


「よし、まずは1匹。」


 スライムを1匹取り出し、野に放つそのスライム目掛けて火炎瓶を投げた。火炎瓶がスライムにあたり跳ね返って足元に落ちると瓶が割れ、スライムが燃え出した。どうやら足元に投げたほうがよさそうだ。少し待つと火は消えアイテムがドロップした。アイテムもその下の草なども燃えて被害にあうことはなかった。


「…ん?どういうことだ…火は出ていたのに草とか燃えてない…」


 次に2匹のスライムを野に放ちすぐ火炎瓶を左のスライムに投げつける。…結果燃えたのは左のスライムだけで右のスライムに火が移ることはなかった。


「じゃあこうかな…」


 再び2匹のスライムに火炎瓶を投げつける今度は2匹の間。そして両方を倒す気持ちで。そしたら見事両方燃えた。地面はこげてすらいない。


「ふむ…」


 今度は何も考えずただ瓶を落としてみる。一応火は上がっている。それに手を近づけてみると、温かいが熱くはない。


「攻撃対象。燃やす意思がないととくに効果はないのか…」


 ためしにその上にスライムを置いて見たが、ちょっといやそうに逃げるだけで、やはり燃えなかった。


「なるほどね~…」


 これなら対象以外燃えないから森とかでも平気そうだな…まあスライム相手だと火力がわからないのが問題だけど。


「わっ…スフィア?」


 そんな感じでスライムで火炎瓶を試していたら、いきなり目の前にスフィアがやってきていた。


「帰って…宿が危険。」

「帰るって…エルフの囁き亭?」

「うん。」


 スフィアが連絡にきたくらいだ。余程のことだろうか。急ぎ町へ戻ると宿の前に人だかりが出来ていた。


「なんだこれ…」


 人々を書き分けどうにか中へ滑り込むと、ガラの悪そうな男が数人女性を2人連れて暴れていた。椅子やテーブルが壊れ散乱している。


「こんな宿じゃがんばっても無駄よ~」

「いい加減店をたたんだほうが身のため。」


 口々にしゃべる女達はどうやらエレノアの姉達のようだ。よく見たら暴れている男達はついさっきまでポチの後をついて歩いていた人達で…これはどう見てもただの嫌がらせだ。


「姉さん達いい加減にやめさせてよぉ~」


 エレノアが頼むが姉達はまったく聞く気がないようだ。父親であるソーマさんはこの状況にすでに目を回して倒れている。


「はい、どいたどいたーー!」


 そこへ人込みを掻き分け衛兵が現れた。ひとまず暴れていた男達は取り押さえられ、ここにいる関係者に話を聞くことになったようだ。


「さて…じゃあまず誰から聞こうか…この店の主とその娘、そっちの言い分を聞こうじゃないか。」

「はい、私が答えます。」


 まだ本調子に戻らないソーマさんを押しやりエレノアが前に出た。


「こちらは通常営業中でした。そこへ突然姉2人とその男達が現れ、何も言わずいきなり暴れだしたのです!」

「なるほど…つまり理由もなく暴れだした、と。」

「理由があったかどうかもわからないです。」

「ふむ…じゃあその姉2人とやらは?」

「簡単なことですわ、この店がうちの客を取ったからですわ。」

「客を取った…?それが本当なら確かに理由はあるな…これはやりすぎだが。」

「なっ!うちの店はそんなことはしていません!!」


 エレノアはテーブルをバンッと思いっきりたたき講義した。


「うーん…じゃあその客というのは?」

「今はこの宿に泊まっているはずですわよ?」

「だそうだが…」

「うちに今泊まっている客は女性2人と男性1名だけですが…」

「男性ね。」

「男性…えーポチさんはもう数日前から泊まっている客ですよ??ほら、そこにいる…」


 エレノアが指を刺したほうに丁度ポチがいた。ずっとこの様子を眺めていたので当たり前だけども。ポチの顔を確認すると、姉2人は軽くしたうちをした。


「ふむ…君がこの宿に泊まっている客なのかね。」

「え、はいそうですよ。ここ数日というかこの町に着てからずっとこの宿にいますね。」


 ジロリとポチは姉達を睨みつけた。状況はいまいちわかっていないが、どうやらポチが出払っている隙に嫌がらせをしようとしたのはわかる。


「では君はこちらのお2人の店の客じゃないと?」

「違いますよ…今日無理やり宿に連れ込まれることならありましたけど??」


 見下すように姉達を見ながら言葉を吐いた。


「君がこの宿にしばらく泊まっていたという証拠はあるか?」

「この宿に泊まっている後2人の人に聞けばいいんじゃないですか?一緒に食事もしてましたし。」

「なるほど。後で確認しよう。」


 衛兵は姉達のほうを見ながら何か言おうと口を開きかけたが、


「この男達が勝手にやったことですわ!」

「私達は止めようとしていたんです!」


 分が悪くなったことに気がつき男達のせいにしだした。もちろんそんなことは通じるはずがない。今周りで見ている人達がすべて証人なのだから。

 周りから痛いほど姉達は睨みつけられている。その状況を見た衛兵は、


「はぁ~…男達は拘束な。で、そっちの女2人。そこの店は10日間営業停止。」

「「なっ!」」

「今日のうちに処理しておけよ…客とかな。明日から衛兵が店の前に立つから。」


 姉達はその場で膝から崩れ落ちた。10日も営業を止められては客足が遠のいてしまうから当然だ。


「で、この店だが…すぐには営業再開できないな。まあ整い次第再開すればいいんじゃないか?」

「そうしたいのだけど…整える資金がないんです。しばらく再開は無理ですね。」

「そうか、災難だったな…まあ壊した物の数1つにつき銀貨1枚、弁償してもらうから多少は戻ってくるが…」


 周りを見ると壁や床にも穴が開いている。それでも数はそれぞれ1…壁一面、床一面を直す資金には届かないだろう。ソーマとエレノアは深いため息をついた。


 男達は衛兵に連れて行かれ、姉達は宿の処理に追われ帰って行った。この場に残っているのはソーマとエレノア、後はスフィアとポチとサラマンダーである。


「うん…これで上がらないことだけは流石に私でもわかる…よ?」


 場を和ませてくれようとしたのかはわからないがこの状況でそれは逆に笑えてしまったようだ。


「やだ…変な子ね。」


 エレノアがくすくすと笑っている。


「さて、これからどうしよう父さん…」

「そうだな…住めないことはないが扉もこの有様だからな。」


 扉だけが壊れているならまだすぐに直っただろうが、その周辺の壁にまで壊れている。すぐには直らないだろう。ここに住むには防犯上も厳しいだろう。外装が直るまでは衛兵が立っていてくれるらしいが、心もとない。


「えーと…俺のところにくる?部屋余ってるし。」

「いいの??」

「いいよ、直るまでなら全然。」

「いや、それは悪いだろう…何か何か返せるものがあるなら別だが…我々には今は何もないしな…」


 どうやらソーマさんはただで世話になるわけにはいかないと言っているようだ。


「では、こうしましょう。」


 ポチはにこりと笑い、ソーマとエレノアに提案をした。




▽▽▽▽▽




「ここがポチさんの買った家なのね。」

「本当に店付きなんだね~」


 エレノアとソーマがポチの家を見上げている。2人に提案したのはエレノアには店の修繕費稼ぎのため一緒に狩りにでることだ。ソーマには本来なら人手がないから店はやっても当分先の予定だったのだが、その準備に動いてもらう。相場を探ってもらったり棚を作ったり店の内装を整えてもらうのだ。それと店を出す上での注意点などいろいろ教わるつもりでいる。住居の入り口から中に入ると、


「お帰りなさい主様~」


 とてとてとかわいらしい足音を立てて奥からルーナが現れた。入ってきた人数に若干驚いたが、どうやらスフィアに目が留まったようだ。


「スフィア姉さま…」

「ルーナ…元気?」

「姉さま??2人は姉妹なのか?」

「精霊に血縁関係はありません、姉妹なようなもの、です。」


 そういえば忘れていたけどもあの宿の精霊であるスフィアは、日付が変わったら宿に戻ってしまうんじゃないだろうか?そんなことを疑問に思い聞いてみると、


「問題ないです。こことあっちを繋いでおきます。」

「繋ぐ?よくわからないけど大丈夫ならいいか。」

「はい。」


 そんなことを話しながら中へと足を進めると入り口でソーマとエレノアがとまっているのに気がついた。


「…?」

「精霊がいるのは聞いてなかったわ…」

「生きているうちにこんなにたくさんの精霊に会えるなんて…夢かな?」


 とりあえずソーマさんにチョップしておく。その痛みで現実を受け止められるだろう。

 こちら側からまだ中を見てなかったのでルーナに室内を案内してもらった。1階には広い部屋が1つと厨房、食堂。それと別に小さめな部屋が1つとなんと…お風呂がついていた!


「お風呂…だと?」

「わー初めて見たかも。」

「きっと最初にこの建物を作った人がどうしても欲しくて作ったんだろうね~」


 まあお風呂は気になるが、とりあえず今は次へ進もう。


 次は2階に案内された。2階は部屋ばかり8部屋ほどあった。ほとんどの部屋はそれほど広くなく、各部屋にベッドが1台と机、クローゼットがあるくらいだったが十分だろう。


「従業員用の部屋か何かだったんじゃないかな。」


 うん、俺もそう思う。


 そして一部屋だけ大きめな部屋がある。ベッドも大きくどう見てもキングサイズだ。


「ここは…店主夫婦の部屋だったのかな…」

「じゃあこの部屋はポチさんの部屋ね。私達はどの部屋使えばいいかしら?」

「えーと…ルーナ?」

「はい、主様。」

「君の部屋はもしかしなくてもこの部屋の上の屋根裏?」

「そうです。」

「だ、そうだからどの部屋でもいいよ。入り口に名前貼り付けておいてね。」


 それを聞いたエレノアは早速部屋選びへと走って行った。


「スフィアはどうするの?」

「ルーナと同じ部屋に。」

「そっか。」


 2精霊は屋根裏へと上がっていった、向こうと繋ぐとかいってたしなにかやるのだろう。部屋にはソーマとポチ2人きりになってしまった。実際にはサラマンダーがいるが魔力温存であまり会話に入らないからいないのと同じだ。


「さてソーマさん仕事の話に入りましょうか。」


 ポチとソーマは連れ立って1回の小部屋へ移動した。ここを仕事部屋にするのだ。


「まず私は何からやればいいですかね?」

「そうですね、現在のこの町の薬関係の相場調べですね。取り扱っている店がどのくらいあるのかわかりませんが…」

「そういえば錬金術師でしたね…ではやはり錬金術で作った薬を売るのですか。」

「そのつもりだよ。」

「これは軌道に乗れば稼げますよ?」

「そうなんだ?」

「ええ、ポーションはよく売られてますが他が全然なので。」

「なぜですか?」

「普通に暮らすだけならポーション作って売るだけで生きていけるからですよ。」


 どうやら他の錬金術師はろくに薬を作っていないらしい。売る分と自分が使う分だけで満足してしまい、他の人に回ってこないようだ。ろくにレベルも上げていない感じがする。


「錬金術師になってしまった人は狩りとかあきらめてますからね…」


 もったいない話である。ちゃんと活用すれば錬金術師も戦えるのに…とポチは残念に思った。


「ポーーーチ~~」

「ほんとにここなの?」


 外から女性の声が聞こえてきた。声のするほうへ出てみるとアルタとエルザだった。衛兵に渡しておいた地図でここにきてくれたらしい。エルザとアルタにも室内を案内し、部屋を選んでもらった。すると厨房のほうからいいにおいがしはじめてきた。きっとスフィアとルーナが作ってくれてるのだろう。

 みんなで食事をすませ順番にお風呂に入る。ルーナがみんなに順にお風呂の説明をしていた。もちろんポチが一番風呂だ。


「久しぶりのお風呂だーーっ」


 勢いよく風呂場に入ると、スフィアが待っていた。しかも裸で。


「なにしてんのーーーーっ」

「お背中流そうかと?」


 さらにその後続けてルーナも裸で乱入してきて2人にもみくちゃに洗われた。

 その夜、


「2人は精霊…2人は精霊…」


 とポチがベッドでぶつぶつと言いながら一晩過ごした。もちろん眠れなかった。

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