ゼロの追憶~女神ってのは~

 変態…、であり恥女の女神の話を聞くとどうやら、やはり俺は死んだらしい。んで、異世界に転生して魔王を討伐して欲しいらしくてさ、討伐できるように、もうすでにチート能力もあげてあるらしい。


 らしい、らしい言うのは用心深い俺はまだこの女のセリフを信用していないから。意味のわからない・理解できない状況下に置いて、もっともらしいことを言って人を納得させようとしているこいつは警戒に値する。なぜならこれは…。


 詐欺師の技だ。


 こいつはただの『変態で化け物』に見せかけて『変態で詐欺師』なのかも知れない。こいつの言動に要注意しなければ…。おっと、まだ何か言うつもりだこの変態。


「-…と、言う訳ででしてね。え、えっと、あの~、じょ、状況を分かっていただけましたか?」


 上記の文で内容を省いてしまったが、モンスターがどうだか人間の内政事情がどうだかとか、をなんかもっともらしく説明を始めてこちらの心境を考えずに自分のペースで話をつらつらとするそのやり口…やはり詐欺師か?


 最終的には自分の事情を話し始めてなんか良くわからんが『同情を誘って自分の無理を相手に押し付ける』という詐欺師テクを繰り出してきた始末。


 こーゆーのはキッパリ断って関係を断つのがベストな選択だろう。これ以上、下手に話を聞いて適当な相槌を打ったら、それが詐欺師からしてみれば『yes』と答えたものになってしまうだろう。『あー、はいはい。』だとか、『ふーん。』とか『え、ええ。』みたいなものも肯定と捉えられる恐れがある。



 だから俺はハッキリ言う。



「俺はそういうのいらないので他をあたって下さい。…じゃ。」


 俺は左手で『じゃ。』のポーズをとり、立ち去ろうとする。が、肩を掴まれる。


「いやいやいや、待って。『じゃ。』じゃなくて待って。」

 

「いや、待たん!俺は行く。」


「いやいや、行くってどこに!?」


「どっかに。…そうだな。敢えて言うなら変態がいない場所とでも言っておこうか。それかあの世にそろそろ逝く。」


「いや、私変態じゃにし!」


 噛んだ。図星かこいつ。噛んだのを無かったことにするように矢継ぎ早に聞いてくる。


「ってか坂下様、あの世に逝くって未練はないんですか!?記憶引き継ぎでチートありきの楽しい非日常が待ってますよ!?」


 非日常ね…。安全な日本で生まれ育った俺に生き物との殺し合いをしろって言っているのか?チートがあっても人は死ぬ。傷付けられれば痛みもある。そんなのはごめんだ。


 記憶があるばかりに前世とその勇者っての生活を比較してしまうだろう。そしたらきっと、前世の世界を恋しく思うだろう。もう二度と帰れない前世を。そんな悲しい人生を送れと?そんなのはごめんだ。


「だが断る。このまま俺は死を受け入れる。」


 勇者とか言うのは言わば『レールに乗った人生を歩め』と言っているのと同じことだ。そんなのはごめんだ。


「俺の生き方は俺が決める。そして、俺の死に方は俺が決める。」


 未練はあるといえばあるがそれは仕方がないこと。振り返れば意味の無い人生だったと思う。しょーもない人生だったと思う。



 だけど、





『今まで生きた』





 ただそれだけで良い。


 その『生きた』という結果があった。人が生きるのに意味はいらない。



 純粋に『生きる』という生物として当たり前の。いや、


 それで充分。



 これが…心理か。



 死んで初めて気付く。


 人間としてではなく、生物として自分自身を捉えて初めて気付けること。



 だからもう良いんだ。



「俺はもう逝く。どうやれば逝けるかわからないけど、この何も無い白い世界をとりあえず歩こうと思う。」


 ふん、俺の最期を看取るのが変態か。嫌な死に方をするな俺。いや、まだ誰にも看取られずに逝くよりはましか。


 そんなことを考えていたら変態が引き止めにきた。


「いや、私変態じゃないし!女神だし!勝手に成仏しようとしないで!あと、転生しちゃうのも、もう決まってるから成仏じゃなくて転生しちゃうからね!」


 なん…だと!?


 俺は衝撃の事実を受けた。先にチート上げたから勇者をやれと?俺に絶望を味わえと?人の気持ちも考えず詐欺られる。さすがに理不尽が過ぎる。キレるわ、こんなん。

 あと、どうでもいいがどうやら変態看取られ云々は口に出していたらしい。


 俺は変態にキレて怒鳴る。


「は?…おい!てめー、ふざけんな!」


 もうここは死後の世界だ。なら、『法』も『道徳』もないだろう。俺は右手で握り拳を作る。


 …俺は女神とかのたまう変態の顔面を使ぶん殴る。

 女神の頭が弾け飛び、体も頭につられて十数メートル程転がり飛んだ。


 俺の怒りは収まらん。女神の体に近づいて蹴っ飛ばそうと思ったその時、女神の頭が復活した。


「!?………化け物め。」


「いや、だから化け物じゃなくて女神!」










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る