VS.魔王軍参謀

魔物は人を食う。


 大型や獣型の魔物は獣や人、種族が違う魔物でも食い合う。ただしく、弱肉強食がある。魔族のエネルギー源は魔力だ。魔族の中でも魔人や知能が高い魔物は大気中の魔力を取り込めるため食事は不要。


 食事をすれば魔力を効率よく取り込めるため、人と同じように食べ物を調理し、味を味わう。料理する理由は下等な魔物と同じにように食事したくないというプライドがあるためと料理した方が若干だが魔力の吸収率が良くなるためだ。


 つまり、何が言いたいのかというとこの魔物の軍勢に食糧庫は要らないということだ。


 俺が建物の中に入ってすぐ目にしたのは広いテーブルに地図が置いてあった。その上にチェスの駒のようなものがある。


「アルグレスはこのままA級からB級どもの相手をしてもらって、ゼフは一度下がらせて…ぶつぶつ」


 難しい顔をしながら頭を抱え、地図に向かって疲れた声でしゃべっている女がいた。目の下にクマがあり、一瞬、人間か?と思ったが女には角があり、何よりここは魔物どもの後方、司令室、食糧庫、もしくは人が捕まっている場所という線もあった。


 が、状況的にここは司令室で、先ことに気付き、思わず声をあげた。


「あっ」


女が声に気付き、顔を上げる。


 声を上げ、二重の意味でしまったと後悔する全身ゴブリンの血で真っ赤な俺、突然の訪問者に驚き、顔を上げたまま硬直する女。


そして、俺はーーーーーー。













ーsideシェルー


 私はシェルという。今は魔王軍の参謀をしている。200年前の私には考えられなかっただろうな。200年前魔王様に力の使い方を教えて下さる前の私にはーーーーー。





「お前人間みてーによえーな」


 と、魔人にとって最大の侮辱を吐かれたことがあった。


 体が小さく見た目が通り筋力が少なく魔法が得意で肉弾戦が不得意な種族の魔人と力比べをして負けたことがあった。


 魔力保有量がもともと少なく魔法が不得意な種族の魔人と魔法の撃ち合いをして負けたことがあった。


 固有能力もショボく、私のはただ頭の回転が早くなるだけだった。これでどうやって戦えと?


私は不貞腐れる一方だった。








ー固有能力ー

 固有能力は魔人やごく一部の人間・魔物が発現するその個体の特殊能力のことである。


 固有能力は己の長所を伸ばせるものや短所を軽減できるものが普通だ。


 例えば魔法が得意で近接戦が不得意な魔人は『魔力ストック』や『魔法ストック』というものがある。この魔力ストックは言葉通りあらかじめ自分の魔力以外に魔力を貯蓄して置くことができ、魔力保有量が多ければ多い程、効火力で魔法が放て、魔法持久力も高く、魔法耐性も高くなる。


 上位の魔人同士の戦いとなれば魔力が高い方が勝つと言われるこの世で『魔力ストック』という固有能力持ちは上位の魔人になれる。


 この世界にいる魔王は必ずこの能力を保有している。魔王クラスともなれば他の固有能力も持っている。


 魔王クラスが複数の固有能力を持っているが通常、上位の魔人でも固有能力は1つしか持っていない。(※魔人と言われる魔族は全員、固有能力持ちである)


『魔法ストック』は魔法を最大24時間前から魔法をストックしておくことができる能力である。


 自身の魔力を消費して戦いに備えることができるため、ノーモーション、ノー詠唱、ノーリキャストタイム、ノー硬直で魔法を使える。


 魔王クラスなら24時間前にストックした魔法を使えるが、一番ショボくて5秒前の低位魔法を1つだけストックできる。というのである。


 他にも魔法使いなのに身体強化系の固有能力なら能力発動中は弱点がなくなるというものだ。


 この場合、制限時間があったり、発動条件がクリアできないと固有能力が発動しないというものがある。




 近接戦が得意な魔人は魔法が苦手だ。そのため、魔法レジスト能力やさらに近接戦が有利になるような能力、24時間に1発限定で極大魔法が使えるという能力が発現したりする。


 ちなみにアイテムボックスはこの固有能力である。アイテムボックス持ちの大半は勇者と呼ばれる人間や異世界転移・召喚された人間が持つことが多い。


 異世界転移とか関係なくこの世界の人間や魔人もアイテムボックス持ちになるものもいる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







 私は筋力・魔力・固有能力どれをとっても他の魔人達に劣っていた。


 ただ唯一、他の魔人にまさっていたのは頭脳だけだった。たが、それは嫌いだった。人間のようで。


 誰が嫌いな…いや、下に見ている存在と同じ特徴を持っている自分を好きになれようか。


 頭を使って工夫して魔法を使ったり、技を磨き、戦術を考え、戦うーーーーー。そんな人間みたいなこと誰ができようか。


 人間を見下し、嫌っている存在がやっていることを…、ましてやそんな自分に自分が嫌っているのにこの固有能力はなんだ。さらに自分が嫌いになる。



自分自身に絶望する。











そんな時、魔王様と出会った。



「お、君、面白い固有能力を持っているね。思考高速化か。しかも固有能力レベル5ときたか。」


『鑑定』の固有能力だろうか。普通は固有能力なんてものは鑑定では視れない。せいぜい目安になるステータスの閲覧くらいだ。HPがAとか魔力保有量がBとかその程度のものだ。決して固有能力の詳細を視れるようなものなんかじゃない。



「…」


 私は黙った。固有能力で詳細を視られたから驚いて言葉が出なかったわけではない。ただたんに、他のやつと話したくなかった。関わり合いたくなかった。だから無言でただ見つめ返した。


「うんうん、その能力、俺程では無いにしろ、魔王軍幹部クラスのレア能力だ。そうだ、俺に仕える気は無いか?その能力で俺と一緒に世界征服でもしてみないか?」


突如、訳の分からないことを言われた。


「え?」


 私は戸惑った。私が戸惑っている内に目の前の男が言った。


「あ、言い忘れてたけど俺今この辺の土地で魔王やってんだけど、頭の回る参謀みたいなのいないんだよねー。うちの軍。みんな脳筋ばっかし。」


 何を言っているんだろうこの男。いや、魔王なのは圧倒的な魔力保有量、そして鑑定能力が異常な時点で薄々気づいていたが…。


「つー訳で、内の魔王軍参謀になってくんない?君のその固有能力なら十二分でしょ。世界を掌握できる程の能力がある君なら。」


 本当の本当に何を言っているんだろう。この固有能力が世界を掌握できる能力?は、笑わせる。私はこの能力がいかに使えないか知っている。だから呆れながらに聞いてみた。


「ただ考えるだけの能力でどうやって戦えと?」


「え!?」


 目の前の魔王はひどく驚いていた。少し驚きの硬直したのち、アゴに手を当て考えてから


「今までその能力があったのにその能力の使い方をまるで知らないとは驚きだ。」


そう言い放った後、続けて


「よし、その固有能力の使い方、俺が教えてやる。だから、俺の参謀になってくれ。」


 そんなことを言った。なぜそうなる。どうして魔王軍の参謀になれるだけの能力だと思っているんだろう?この魔王。少しイラついた。


「使い方をちょっと変えただけで強くなれるような能力じゃないでしょ」


 ちょっとトゲのある言い方をしてしまった。だが、魔王はそんなことを気にせずに


「あはは、君の固有能力はちょっと使い方を変えるだけで世界の見え方が変わるよ。」


 魔王はポケットから懐中時計を取り出した。その懐中時計は正確に一寸の狂いも無く一秒一秒、時を刻んでいた。


「いいか、まずこの時計を見るんだ。そしてまばたきせずに君の固有能力を最大まで使うんだ。

 君の思考速度を早めるんだ。その能力の最速で使い方続けるんだ。思考速度の限界を超えるんだ。

 人間にも魔人にも到底追い付くことのできない思考速度で思考するんだ。」


 私は魔王の圧に押されながらもしぶしぶ魔王が言った手順で言われた通りに頭の回転を早くした。












 私の能力で思考速度を限界まで早めた。その思考速度を維持し続けた。





 高速思考の中で思考する。この使い方しても意味ないと思うな。アホらし。と、思っていたがあることに気づいた。



(あれ?この時計秒針が進んでいない。)


 他におかしな所が無いか視界に入る物を探し、思考してみた。


(この壁あの部分、劣化が激しくあの部分を攻撃すればこの壁が壊れる。

 この時計もあの位置からこの位置にかけて軽くナイフでなぞれば簡単に壊れる。)


ということがわかった。


(なぜ秒針が動いてない。なぜ時計のがわかるようになった。わからない。)


すると、魔王が言った。


「この世界が見えるか?時が止まったこの世界が!

 いや、ただしくは時間は動いてはいるんだが、まぁ、似たようなもんだろ。

 一秒が経つ間の思考速度が早すぎてまだ一秒すら経っていないだけだ。」


 私は声すらだせない。体も動かせない。ただ思考することができる。


「そして、見えているか?万物ばんぶつの弱点を!

 物がどういう状態にあり、どこが一番脆いか場所かを0秒以内に見つけることができる。

 この能力というのはそこまで思考して導き出せるだよ。」


(!)


 私は驚いた。こんな能力だったなんて。ただちょっと計算が早くなるみたいな能力の使い方しか知らなかった。


「驚くのはまだ早い。君のこの能力のレベルを上げるとこの止まった時の中で動けるようになるんだよ。

 固有能力レベル6になれば3秒は動ける。秒と言っていいのかわからんけど。

 まぁ、相手の弱点を0秒で見つけ3秒間止まった時の中で攻撃できるってだけでも強くね?」



 と、空中に懐中時計を離し、歩きながら私に語りかけていた。だが、ふと疑問に思った事がある。


(なぜ魔王はこの止まった世界でしゃべれるのか?なぜ歩けるのか?それは…。)


「俺がなんでこの止まった時の中で動けるのかって?そんなのは簡単なことだ。」


(同じ能力で固有能力レベルが高いから?)


 私は希望を抱いた。この能力は魔王になれる程強力なもので、魔王になれなくとも、少なくとも上位の魔人レベルにはこの能力でーーーーー。



「俺が。」


 突如、魔王が絶対的な力の差を、絶望を与えてきた。


(え…?)


 そのセリフを理解するのにどれ程掛かったか。実際の時間はまだここまでで1秒も経っていないが。



「あー、俺、で魔王転生したっぽいんだよねー。」


 私の心中を無視しながら明るい口調でそんなことを言ってきた。


(チートマシマシ?)


「ラーメン屋で粉落とし・野菜・にんにく・油マシマシ。みたいな。

 そんな注文みたいなのが通っちゃたんだよ。いや、ほんと。

 チート能力そんなマシマシにしていいのかよ。って、思わずツッコんじまったよ。」



 よくわからない呪文のような言葉を言っていたが、これだけはわかった。この魔王は常識の上を行く化け物だと。


 この自分の固有能力で時が止まったと錯覚するほどの思考速度を体験した。

 その思考速度と同等の速度で動き、しゃべれる。これが魔王。



「で、話を戻すけど、君のその思考速度を上げるっていう固有能力は思考の強化ってので、レベルを上げればその思考速度に自分の肉体が追いつくことができる。


 で、思考の強化ってのは『解析』能力と同等の力だ。物の弱点を見ることができただろう?

 生物に対して使えばどうなると思う?」


(どうなるって?…)



「相手を解析することで相手の思考を読むことができるんだ。そして、状況を解析することで未来予測ができる。もはや未来予知の領域と遜色ない予測ができるはずだ。

 この情報処理をするのには思考を強化しなければできない芸当だ。」





 つまり、この私の『頭の回転を早くする』という固有能力は相手の弱点を見つけ、思考を読み、未来を予知し、時を止め、その中で数秒間自由に動ける。という力を秘めている。



「ただ、未来を予知レベルまで引き上げるには脳の負担が大きいから使用後は頭がくらくらすると思うし、この中で動くには体への負担が大きいからちゃんとレベルを上げてからじゃないと反動で体の繊維が、細胞がネジ切れちゃうと思うから注意してね。

 この中で動くのはレベルを上げても体への負担がはきついと思うから体が壊れなくても、しばらくは動けなくなると思うよ。」


(と言っても充分じゃないか。反動で脳も体も動けなくなろうとも。)


 そう私は思った。固有能力使用後にはもう戦闘が終わってるから。



「ね?その能力つよいでしょ。レベルを上げ、使い方を極めさえすれば。」





















 100年掛かった。固有能力レベルを8にするのに。


 だが40年程でレベル7になり、そこから数年足らずで魔王軍参謀にまでのし上がった。



 魔王軍参謀の地位になるためには力を認めてもらう必要があった。頭脳を認められようとも、弱ければ、そうこの実力主義の魔王軍に、弱者に従う強者はいない。



 強者になり、強者で居続けた。魔王軍参謀になってここ150年は私がこの地位にいる。



 ちなみに固有能力レベルが8になったのは今から20年も経っていない。レベル8になり、さらに強くなったが、この魔王軍の魔王様を含めた最古参勢にはかなわない。かなわないが力は認められている。


 レベル8になればの魔王軍の最古参の魔人にようやく勝てるようになった。これは進歩だ。



















 他にもいろいろ思うことがあるが、今はそんな過去のことを思い返している場合出はない。


 何故なら目の前に全身真っ赤の得体の知れないやつがいるからだ。



 固有能力を使用した。


























(何故今、私は瀕死なんだ?)


 体が前と後ろから何かに押し潰されたかのように体が潰れていた。


 頭…というより脳は固有能力によって鍛えられていたため、かろうじて頭が潰れていなかった。


声をかけられた。


「お、まだ生きているのか。魔人ってのは防御力が高いな。」


感心したかのような声が聞こえた。



 私は目の前にいるに目の焦点を合わせようとした。




(ん?! なぜ目の前にいるこいつが人間だと)



 戦慄した。魔王様と出会ったあの時以上の衝撃だった。何が起こったのか理解できなかった。


「やっぱアイテムボックスってこういう使い方もできるのか。」



手を私の喉に伸ばしてきた。


(ああ、これが走馬灯か…。いつから見ていたんだろうか…。)


 私は固有能力を発動できる力も気力ももうないが、これだけは理解出来てしまっていた。







(これが死か…。)






そこに全身真っ赤の人間一人しかいなくなった。

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