思い出の海老のチリソース

もりくぼの小隊

思い出の海老のチリソース


 僕の地元には国道沿いに中華料理屋さんがあった。建物だけは残っているので車で通るとつい横目で見てしまう。三国志の有名な誓いはこのお店で知った。


 僕が初めてこのお店にいったのは七歳くらいだったと思う。姉貴の誕生日祝いで連れてきて貰ったんだ。

 初めて見る回るテーブルは子ども心にワクワクしたけど、すぐに飽きて僕と姉貴は店に置かれた漫画雑誌ジャンプとりぼんに夢中になっていた。


 しばらくすると初めての本格的な中華料理がやってきた。メニューを見ずに両親が注文していたので何が来るかもわかっていなかった。いま思うとビックリさせたかったのかも知れない。けど、勝手にラーメンが来るかと思っていたから幼心にガッカリした(中華といえばラーメンと餃子しか知らなかった)。


 目の前に現れたのは大皿に盛られた真っ赤なソースにゴロゴロと大きくて丸い海老がいっぱいだった。初めて嗅ぐチリソースの美味しそうな匂いはガッカリを吹き飛ばしてくれた。


 親父がご飯の上に乗っけてくれた丸い海老は熱々で、子どもには凄く辛かったけど美味しかった。

 この料理が海老のチリソースだと親父に教えてもらってそれから夢中で食べた。たぶん他の料理は目もくれないで海老のチリソースばっかり食べてたと思う。ほとんど僕が食べたんじゃないだろうか。


 それ以来、海老のチリソースは大好物になった。

 誕生日、夏休み、運動会の夜、色々理由をつけてはこのお店に連れていって貰って海老のチリソースを食べた。熱々のご飯の上に熱々の海老を乗っけてれんげで口いっぱいに掻きこむのが一番美味しい食べ方だった。口の中をよく火傷していたけど、この食べ方だけはやめられなかった。


 あれから十何年も海老のチリソースを楽しませてくれた中華料理屋さんにはいつの間にか行く回数も減っちゃって久しぶりに食べたいなと思った時、そのお店は潰れていた。



 行かなくなったのに無くなると無性に食べたくなるのは我ながら勝手だなと思うけど、ここのお店の海老のチリソースがいまでも一番美味しいのは間違いない。思い出補正ももしかしたらあるかも知れないけど、どんなお店に行っても自分で作っても、凄く美味しいって思えないんだ。






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