第108話 戦う?



 テオとヘルヴィは広場に着くと、軽く準備運動から始める。

 もちろんテオだけで、ヘルヴィは動くのに準備運動など必要はない。


「で、何をするんだ?」

「えっと、適当に走ったり、素振りしたりとか……ジーナさんとセリアさんもいないので、基礎だけでもやろうかなと」


 ネモフィラの街の時はジーナとセリアがいたので、魔法や体術を教えてもらっていた。

 しかし今はそれが教わることが出来ないので、とりあえず体力上げや基礎をやることにした。


「ふむ、そうか……」


 そうなると、ヘルヴィはは本当にやることがない。

 テオに付き合ってそれらをやっても、ヘルヴィの無限のようにある体力は一切減らないし、向上もしない。


 それにヘルヴィが一緒にやると、テオの自信がなくなってしまう可能性もある。


「……では、それらが終わったら、私と軽く戦うか?」

「……えっ? ヘ、ヘルヴィさんとですか?」


 伝説の魔物であるキマイラを一方的に殺したヘルヴィ。

 ジーナとセリアが二人がかりでも倒せなかったヘルヴィ。


 そんなヘルヴィと、弱い魔物ですらまだ二体以上同時に戦ったら危ないテオ。


 これほど実力が釣り合わない戦いがあるのだろうか。

 勝負は目に見えている、見え過ぎてしまっている。


「さ、さすがにそれは……」

「もちろん私は本気ではない。テオが練習になるぐらいの戦いをするつもりだ」

「ぐ、具体的には?」

「……そんなに怖いか?」

「は、はい、すいませんが……」


 どれだけ理性的で、どれだけ話が通じる相手でも、その相手がドラゴンのような巨大な力を持っていたら、怖気づくのが当たり前だろう。


 普通ならば対面して話すだけでも怖いのだ。

 それが「手加減するから戦おう」とドラゴンに言われても、怖くて出来ないだろう。


 しかもテオの相手は、ドラゴンを百体相手しても軽く捻り潰すことが出来るヘルヴィだ。


 いくら信じていると言っても、戦いになると本能的に怖気づいてしまう。


「テオからの攻撃は避けて防ぐ。こちらからの攻撃は、テオがギリギリ避けられるぐらいの攻撃だ。当たったとしても痣も出来ないくらいの威力にしておく。これなら大丈夫か?」

「……は、はい、大丈夫です! すいません、ありがとうございます!」


 テオが納得したことにより、軽い戦いをすることになった。


 まずテオが筋トレをして、短剣の素振りをして……いつもよりも長いのは、この後待ち構える戦いを少しでも伸ばすためか。

 テオは緊張した面持ちで特訓を終え、ヘルヴィと向き合う。


「お、お待たせしました!」

「……それだけ怖いのなら、やらなくてもいいんだぞ?」

「い、いえ! せっかくの機会なので、戦いたいです!」


 ヘルヴィがテオの心を覗くと、怖がってはいるが戦いたいのは本当のようだ。


「……そうか、では、戦うか」

「は、はい! よろしくお願いします!」



   ◇ ◇ ◇



 ヘルヴィとテオに迷子のところを助けてもらったルナは、いつもよりも朝早く目が覚めた。


 昨日、遊び疲れて早く眠ったので、その分早く起きたのだろう。


 ルナの家は服屋なので、そこまで早起きをして仕事を始めるものではない。

 昼前くらいから開店し、時々人が来店する程度。


 それにルナの両親の服屋は、特注品を作ることが多いので、注文を手紙で貰うこともある。

 なので余計に開店を早くする必要はないのだ。


 だけどいつも、店の前に注文の手紙を入れる箱がある。

 それは日に二度ほど、ルナが確認するというのがいつものことだ。


「少し早いけど、見に行こうかなぁ」


 ベッドから出て、軽く顔を洗ってから店先に出る。


 ルナの身長でも見れるくらいの高さにある箱を、鍵で開けて中を見る。


「うーん……あっ、あった!」


 中をゴソゴソと確認し、手紙の感触がしてそれを取り出そうとした。



「おっと! お嬢ちゃん、静かにするっすよ」

「――っ!?」



 突如後ろから女性の声が聞こえて、口を塞がれる。


 そしてルナは軽々と持ち上げられ、裏路地まで連れてかれてしまう。


「すまないっすねー。うちも幼女を誘拐なんてやりたくないんすけど、雇い主の意向なんすよ」

「んんっ! んんぅぅ……!」

「怖いと思うっすけど、傷つかないようにはするっすから……今は眠っておくっす」


 その女性がルナの首に手を添えられると、ルナはすぐに意識が遠くなっていき、そのまま眠るように意識を失った。



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