第107話 王都での二日目



「運動がしたい?」


 ヘルヴィがテオの言葉を繰り返すように、そう言った。


「はい、そうです」


 二人で朝ご飯を作り、部屋の綺麗なテーブルを囲んで食べていた。

 その会話中に、「今日は何がしたいか」という話題が出た。


「運動というと、ネモフィラの街にいたとき、朝にやっていたことか?」

「はい、朝の訓練です」

「ふむ……そうか」


 運動と聞いて、少し違うことを考えてしまったヘルヴィ。


 昨日は夜の運動が出来なかったから、朝に運動しよう……という話ではなかったようだ。


「最近毎日してる訓練なので、やらなくなって弱くなったらどうしよう、と思って……」

「……ふむ」


 確かにそういう訓練は毎日少しでもやり続けていれば、だんだんと強くなっていくだろう。


 まあ悪魔で生まれた時から最強のヘルヴィにとって、強くなる努力というのはあまりわからないが。


(それに……テオには言ってないが、夜の運動の方がテオが強くなるには効率的なのだが……)


 この世界での強さとは、個人が持っている魔力の大きさに比例する。

 もちろん身体の大きさ、筋肉などもある。


 だが細腕であるヘルヴィは、桁違いの魔力でこの星を割れるくらいの力を持っているのだ。


 日々の鍛錬で身体を大きくし、戦いの勘を身につけていくのもいいだろう。

 しかし魔力を持てる器を増やしていく、というのが強くなるには一番の近道だ。


 テオは最近、訓練で少しずつ強くなっている……と思っているようだが、少し違う。

 確かに筋肉などは最初の頃と比べるとついているかもしれないが、それだけで目を見張る強さを手に入れることはない。


 テオが強くなっている理由は、ヘルヴィの魔力が少しずつテオに移っているからだ。

 もともとテオに入る魔力の器は大きくなかったが、それがだんだんと大きくなっていってる。


 魔力の器が大きくなってる理由こそ……ヘルヴィとの夜の営みにあった。


 夜の営みをすることによって、少しずつ強くなっているのだ。

 それは普通に訓練するよりも速く、そして強く。


(だから朝の訓練をやるよりも、夜の営みをやった方が強くなる……とテオに言うのは、やめておいた方がいいか)


 まだテオに言うのは早い。

 それにずっと訓練をして強くなっていると思っているのに、夜の営みのお陰で強くなっていると聞いたら、テオが可哀想だろう。


「わかった、朝の訓練だな。私も付き合うぞ」

「えっ!? い、いいんですか!?」

「もちろんだ。テオが訓練をしている時に、私が街に行って買い物をしても何も面白くないだろう」

「ありがとうございます!」


 二人は揃って笑い、一緒に作った朝食を食べた。



 そしてテオは訓練をするために動きやすい服に着替え、ヘルヴィと一緒に部屋を出る。


 豪華な宿の廊下を歩いていると、その宿の経営者であるイデアが前から歩いてきた。


「あら、テオ様、ヘルヴィ様、おはようございます」

「おはようございます、イデアさん」

「ああ、おはよう」

「お二方はお出掛けですか? 今日はどちらへ?」

「まず朝の運動に行ってきます」

「……はい?」


 イデアはその言葉に、一瞬戸惑った。


(朝の運動って、アノことかしら? えっ、どこでやるつもりかしら? まさか、外で?)

(違う、何を言ってるんだ)

(あら、おはようございます、ヘルヴィ様)


 イデアは心の中で考えたことを覗かれて、心の中で話しかけられたが特に慌てなかった。


(朝の運動って、夫婦の営みのことでしょうか?)

(違う、普通にテオが強くなるための訓練だ)

(ああ、そうでしたか。ふふっ、わかっておりましたが)

(……だろうな)


 イデアという獣人の女性が、そういう察しがいい人間だというのはわかっている。

 そしてわかっていながら、からかうように言ってくるのも。


 しかもヘルヴィに対してだけ聞こえるように、心の中で考えるのも計算していただろう。


(食えん女だ……)

(ふふっ、褒め言葉として受け取っておきます)


「この宿屋を出て左へ数分歩けば、運動出来る広場があるので、そこでやるのがいいかもしれません」

「あっ、そうなんですね。教えてくださってありがとうございます!」

「いえ、朝の訓練頑張ってくださいね、テオ様」

「はい、ありがとうございます!」

「ヘルヴィ様も、お気をつけて」

「……ああ、感謝する」


 心の中で話したことを全く表に出さず、イデアは一礼して去っていった。


 そしてヘルヴィとテオも、教えてもらった広場へと向かう。



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