第98話 また街へ、そして



 二人は高級飲食店を出て、街中を歩いていた。


 またいろんな店を回りながら、気に入ったものがあれば買っていく。


「そういえばお風呂から出たときに使った、温風を出せる魔道具ってどこにあるんですかね?」

「そうだな、あれも買っておきたい」


 買うものに目星をつけて、街中の人からの注目を浴びながら二人は歩いていた。



 しばらく歩いていると、テオがふと立ち止まった。


「どうした、テオ」

「ヘルヴィさん、あの子……」


 テオが見る目線の先にヘルヴィも目を向けると、そこにはまだ幼い女の子が一人で立っている。


 とても慌てた様子で、街行く人の顔を見て誰かを探しているようだ。

 顔はすでに泣きそうで、涙が溢れる寸前といった感じである。


「ふむ、迷子か」

「ですよね。あの、ヘルヴィさん……」

「みなまで言うな。わかってる」

「っ! ありがとうございます!」


 テオは笑顔でそう言ってから、駆け足でその女の子に近づいていく。

 ヘルヴィも仕方なさそうに、その後をついていった。


「ねぇ、君、大丈夫?」

「っ! あ、その……!」


 女の子はまだおそらく五歳か六歳くらいで、身長が低い。

 テオは女の子に目線を合わせるために、かがんで話しかける。


「お父さんとお母さんは?」

「あの、わたしがね、お店でかわいいの見つけてね……! それ見てたら、いなくなっちゃったの……」

「うん、そっか、そうなんだ」


 女の子は典型的な迷子だった。

 おそらくお店で夢中に商品を見ていたら、気づかぬ間に両親がどこかへ行ってしまったのだろう。


 話している途中に、女の子の目から涙が溢れた。


「僕達が一緒に、お父さんとお母さん探してあげるよ」

「っ! ほ、ほんと……?」

「うん、だから安心して」


 テオは懐からハンカチを取り出し、頰に流れる涙を優しく拭いてあげる。


「じゃあ、一緒に行こっか。君、お名前は?」

「ルナ……」

「ルナちゃんね。僕はテオっていうんだ、よろしくね」

「うん……テオ、おにいちゃん……」


 テオは立ち上がり、ルナの手を取って迷子にならないように繋ぐ。


 ルナに優しく微笑みかけると、ルナも少し安心したように微笑みを見せてくれた。


「あの、お姉ちゃんの、名前は……?」

「あっ、あのお姉ちゃんは、ヘルヴィって名前だよ」


 その「お姉ちゃん」と呼ばれたことによって、ヘルヴィは一瞬息が出来なかった。


 もちろんテオにそう呼ばれたことが原因である。


「……ヘルヴィだ。よろしく」


 頭の中で「お姉ちゃん呼びもいいな……今度、また呼んでもらおうか」と考えていたが、それを全く表に出さずにルナに挨拶をする。


 威圧感を与えないために、テオの真似をしてしゃがんで目線を合わせた。


「わぁ……お姫様みたい……!」


 ヘルヴィの容姿を見て、ルナは感動したようにそう言った。


「ん……? お姫様……?」

「うんっ! わたしが読んでる絵本で、お姉ちゃんみたいなお姫様が出てくるの!」

「ふふっ、そうなんだ。ヘルヴィさんはお姫様みたいだよね」

「うん! お姫様みたい!」


 ヘルヴィとしては特にそう言われても嬉しくはないが、テオは自分のことのように嬉しいようだ。


「ふむ、私がお姫様なら、テオは王子様だな」

「えっ、僕が王子様ですか? そんな、僕には合ってないですよ」

「ううん、そんなことないよ! テオお兄ちゃんは王子様だよ!」

「そ、そうかな?」

「うんっ!」

「ふふっ、そっか、ありがとう、ルナちゃん」


 テオはルナの頭を撫で、ルナは嬉しそうに「えへへ」と笑った。


 ヘルヴィとしてもお兄ちゃんのように行動しているテオが新鮮で、意外と悪くないと思っていた。


「じゃあ、お父さんお母さん探そっか」

「うんっ! ヘルヴィお姉ちゃん!」

「ん? なんだ?」

「んっ!」


 ルナがテオと繋いでいる右手じゃない、左手をヘルヴィに向けて満面の笑みで差し出す。


 心を読んでいなくても、何がしたいかはわかった。


「……んっ」

「えへへ……お姉ちゃんの手、あったかい……」

「……そうか」


 一瞬だけ、テオ以外にも「可愛い」と思ったヘルヴィだった。


「なんだか、家族みたいですね、ヘルヴィさん」

「ふっ、そうだな」


 ルナが真ん中、左右にルナと手を繋いだテオとヘルヴィ。


 側から見れば、休日に遊びに来ている家族に見えたことだろう。



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