第97話 結婚指輪
その後、ヘルヴィとテオは食事を続け、最後に出てきた果物も食べ終えた。
「美味しかったですね、ヘルヴィさん!」
「ああ、イネッサが紹介しただけはある」
貴族のイネッサがここを予約してくれたので、二人は帰ったらお礼を言うことにした。
ヘルヴィとしてはイネッサが、自分に気に入られようという下心が満載でやっていたのに気づいていたので、素直にお礼は言いづらいが。
それでも素晴らしい料理店だったので、そこはしっかり礼を言うべきだろう。
ちょっと、いや、だいぶ面倒な事件は起きたが、それはイネッサのせいではない。
食後の紅茶を飲み、料理の感想を言い合う。
そしてヘルヴィが、少し緊張した面持ちで話を切り出す。
「テオ、その、さっき行った店があるだろう?」
「さっき、ですか? どのお店ですか」
「あれだ……結婚指輪を買ったところだ」
「あっ……は、はい」
二人としては結婚指輪を買ったこと自体が、そんなに恥ずかしいことではない。
だがその後、街中でテオがヘルヴィに「可愛い」と連呼したのが、思い出して二人が同時に顔を赤くする理由だった。
「そ、その結婚指輪を、ここで嵌めよう。これが、テオの指輪だ」
ヘルヴィが気を取り直して、懐から指輪が入った箱を取り出す。
テオに見せるように蓋をあけると、テオは目を輝かせる。
「すごい綺麗です……! こんな高いもの、もらってもいいんですか?」
「もちろんだ。それに私の分もあるのだから、お揃いだ」
「お揃い……! いいですね!」
「テオ、手を出してくれ」
「えっ、あっ、はい」
「ふふっ、テオ、指輪は左手の薬指につけるのだぞ?」
「あっ、す、すいません」
特に何も考えずに右手を出してしまったテオは、恥ずかしそうに左手を差し出す。
ヘルヴィはテオの手を取り、丁寧に薬指に指輪を嵌めた。
「ふむ、サイズは大丈夫か?」
「はい、ピッタリです」
テオは薬指に嵌めた指輪を光に照らして、宝石の綺麗さをじっくり見ていた。
「……テオ、私のも嵌めてもらえないか?」
「あっ、はい!」
テオはヘルヴィから箱を受け取り、ヘルヴィの指輪を取り出す。
そしてヘルヴィが差し出した左手の薬指に、不器用ながらも嵌めた。
「ど、どうですか?」
「ふむ、私もピッタリだ。ありがとう」
「良かったです! あっ、ヘルヴィさんも左手出して、指輪一緒に見ましょう! 光に当てると綺麗ですよ!」
テーブルの真ん中あたりに、テオの左手が置かれる。
ヘルヴィも言われた通り、その横に自分の左手を置く。
とても高級な結婚指輪が、二人の薬指で光っている。
「お揃いっていいですね」
「ああ、そうだな」
「僕これ、ずっと外しません! ずっと付けてます!」
「ふふっ、そうだな。私もそうしてよう」
お互いにテーブルに前のめりになって話しているので、顔と顔が近い。
しかしもう二人ともこの程度では恥ずかしがらなくなっている。
ただ今は、幸せそうに顔を見合わせて笑っていた。
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