第88話 豪華な夕食



 その後、ヘルヴィとテオは身支度を終えて食堂へと向かった。


 とても広い部屋で、テーブルは縦に長い。

 十人以上が座れるテーブルに、ヘルヴィとテオ、二人の正面にイデアが座った。


「お二人様、旅の疲れは取れましたか?」

「私は疲れてなどいなかったが、なかなか良い部屋だったぞ。ベッドも大きく、風呂も大きかった」

「そ、そうですね、とても気持ち良かったです……!」

「ふふっ、それなら良かったです!」


 二人の反応、特にテオの方を見て、「絶対ヤった」と心の中で呟いたイデアだった。



 イデアが合図をすると、すぐに料理が運ばれ始めた。

 前菜から始まり、スープなど、色んな料理が一つの皿を食べ終わったタイミングで、次々と運ばれてくる。


 イデアとヘルヴィは慣れているので、全く動揺など見せずに一皿ずつ綺麗に食べていく。


 しかしテオはこのような料理の出し方など初めての経験で、最初はとても動揺した。

 前菜が運ばれた時に小さな声で、「あれ、これだけ……?」と呟いていた。


 それを聞き取ったヘルヴィがすぐに説明をして、テオは顔を赤く染めた。


 運んでくる人にテオは毎度「ありがとうございます」と小さく呟き、一皿ずつ慣れない様子ながら食べる。

 その度に食事の美味しさに顔を輝かせていた。


「これ美味しいです、ヘルヴィさん!」

「そうだな、なかなかの味だ」


 テオは隣にいるヘルヴィの方を向いて、感動したように言う。


 ヘルヴィもテオの料理には勝らないが、確かに美味しいと思いながら食べる。

 むしろ毎度自分の方を向いて、「美味しいです!」と言ってくるテオの方が美味しそうだ。



 二時間ほどかけて、三人はゆっくりと食事を楽しんだ。


「ご満足頂けたでしょうか?」

「はい! とても美味しかったです!」

「上出来だ、文句の付け所がなかったぞ」

「ありがとうございます! 料理長達も喜ぶと思います!」

「どうやって作るのかとか、味付けの仕方とかすごい気になります!」

「もしよろしければ、教わることも可能ですよ。料理長に話を通しておきましょうか?」

「いいんですか!? 教えてもらえたらすごく嬉しいです!」

「わかりました、あとで言っておきますね」


 テオは楽しみなのか、とても良い笑みを浮かべながらお礼を言う。


 やはりテオは素直な性格で、好感が持てる少年だと感じるイデア。

 裏表ない性格なので、話していて心地良い。


「今日はこの後どういたしますか? もう夜も遅いので、王都の案内は明日以降しようと思うのですが」

「ああ、それは構わない。ならテオは、料理を学んでくるか?」

「えっ、いいんですか!? だけどヘルヴィさんは?」

「私は今日の泊まる部屋を吟味しないといけないからな」

「えっ、さっきの部屋で泊まるんじゃ……?」

「いえ、あそこはほんの休憩場所にご用意しただけです。お二人様が泊まるお部屋は、もっと良い部屋をご用意しております!」


 あんな綺麗で広くて、風呂までついてる部屋が単なる休憩場所だと聞いて、テオは若干引いてしまった。


「す、すごいですね……!」

「だがイデアが用意する部屋と、イネッサが用意する部屋。どちらが良いかを見極めないといけないからな」

「ふふっ、イネッサちゃんに負けない自信がありますよ!」

「それは楽しみだ。そういうことだ、テオは料理を教わってくるといい」

「わかりました!」


 イデアは執事を呼んで、テオのことを案内するように伝える。


「ではテオ様、ご案内いたします」

「よ、よろしくお願いします」


 執事に下手に来られて落ち着かない様子のテオだが、やはり楽しみなのか笑みをこぼしながら食堂を出て行った。



 そして食堂にはイデアとヘルヴィの二人だけとなる。


「では私たちも行きましょうか。近くで私が経営している宿に、お二人様に泊まるに相応しい部屋を用意しています」

「ふむ、その前にお前と話がしたい」


 イデアの正面に座っているヘルヴィが、目を鋭くさせながらそう言った。

 少し背筋を伸ばして、イデアは笑顔で応じる。


「はい、なんでしょうか?」

「お前は私のことを、ジーナとセリアからどれほど聞いている?」


 どうやらヘルヴィはジーナとセリアから届いた、手紙の内容が知りたいようだ。

 特に隠すことは何もないので、素直に話す。


「ヘルヴィ様とテオ様の関係、それとヘルヴィ様のお強さを聞きました」

「……具体的に私がどれくらい強いと認識している?」

「ジーナとセリアの二人がかりでも子供のようにあしらえる、この世界で随一の強さと認識しています」

「ふむ……」


 あの二人が嘘を言う可能性は限りなく低いので、おそらく本当にヘルヴィは世界中探しても、類を見ない強さなのだろう。


 そう思っていると、ヘルヴィが一度ため息をついた。


「なるほど、お前は私を、過小評価しているな」

「……はい? えっと、そうでしょうか?」


 おそらく世界で一番強い、と評価しているのに、それがまだ足りないということだろうか?


「私は最強だ。これは揺るがない。どんな生物が目の前にいても、私の前では等しく弱者だ」

「……そうですか」


 本気で言っている、ということはわかる。

 おそらくそれが嘘ではない、ということも理解している。


「例えば、私は一つの魔法でこの世界を滅ぼすことが出来る」

「……はい?」


 一つの魔法で、世界を滅ぼす?

 それは世界中に広がる毒のようなものを、魔法で出せるということだろうか?


「違う。比喩でもなく、魔法一つでこの星を壊すことが出来る。私が今、本気で地面を蹴飛ばせば、星を破壊することが出来る。これが私の強さだ」

「……なるほど」


 嘘ではない……と判断は出来ないが、嘘じゃないとも判断出来ない。

 では試しにやってみてください、と言えるようなことでもないようだ。


「それが本当なのであれば……ヘルヴィ様、貴女様は何者なのですか?」

「そう、おそらくジーナとセリアはわざと私の正体を伝えていなかったようだが――」


 瞬間、イデアの目の前に漆黒の翼が広がった。



「――私は、悪魔だ」



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