第87話 一緒の風呂



 短い時間だからか、二回戦を終えたあたりで夕飯時になった。


 ヘルヴィとテオが通された部屋の中には、風呂も完備されていた。


 なので夕飯の前に入る。

 しかもテオの家よりも大きいので、初めて二人で入るとが出来る。


「早く入れテオ、寒いだろう」

「し、失礼します……」


 ヘルヴィが先に入り、テオがその後入る。

 テオは恥ずかしいからか、さすがにヘルヴィを正面から見ることは出来なかったようだ。


 しかしそれでもヘルヴィは離れることは許さないので、テオの滑らかなお腹に手を回して引き寄せる。


 テオの肩の辺りに、ヘルヴィの胸が乗っかる。

 もちろん二人とも裸だ。


 もう何度もヘルヴィの裸を見て、感じてるはずのテオだが、恥ずかしそうに耳を真っ赤に染める。


「ふぅ、気持ちいいものだ。テオ、熱くはないか?」

「は、はい、大丈夫です。すごく気持ちいいです」

「……テオ、もっと私に寄りかかっていいんだぞ?」

「えっ、あっ、その……重くないかな、って……」

「このくらい大丈夫に決まっているだろう。ほら、もっとくっつけ」

「あっ……!」


 さらにテオを引き寄せ、テオの背面とヘルヴィの前面がほとんどくっついた。

 体重をかけるのを躊躇ったテオだが、すぐに力を抜いて気持ち良さそうに湯船に浸かる。


「……あったかいです」

「いつもと同じ温度のはずだが、私もそう感じる。人肌というのは、良いものだ」

「はい……ヘルヴィさんが、あったかいです……」

「っ! ふふっ、そうだな。私も、テオの肌が良いものだ……」


 無意識に漏らしたであろうテオの言葉に、ヘルヴィの心臓が跳ねる。

 人肌というよりも、決まった相手、テオの肌が良いに決まっていた。


 なぜこうもテオは、自分の心を乱してくるのだろうか。

 これほど何度も何度も心を揺さぶられるのは、一万年以上生きてきたが全くなかった。


 これかも何千年、何万年生きようと、こんな存在に会うことはないだろう。


 だからこそ……一生、一緒にいたい。



 数分、数十分ほど湯船の中で二人くっついて、穏やかな時間を過ごした。

 その前まで激しい運動をベッドの上でしてたとは思えないほど、静かな時間だった。


「そろそろ上がるか」

「そうですね、夕飯もそろそろ出来ると言ってましたから」


 二人はそう言って風呂を出る。

 ヘルヴィが水気を飛ばすので、二人共に身体を拭く必要はない。


 髪の毛も本来ならすぐに乾かせることが出来るのだが、今回はあえてやらない。


「テオ、温風を出せる魔道具があるようだ。髪を乾かしてやるから、そこに座れ」

「あっ、ありがとうございます!」


 テオが椅子に座り、ヘルヴィはその後ろに立って魔道具で髪を乾かしていく。

 テオのサラサラの黒髪は指通しがよく、乾かしているヘルヴィも気持ちが良い。


 やってもらっているテオは、さらに気持ち良さそうに目を細めている。


「なんか、懐かしいです……おばあちゃんにやってもらってたのを、思い出します」

「その時もこの魔道具を使っていたのか?」

「こんな高価そうな魔道具、買えませんよ。普通に、タオルで頭を拭いてもらってました」

「ふふっ、そうか。よし、終わりだ」

「ありがとうございます! 僕もヘルヴィさんの髪乾かしたいです!」

「ああ、頼む」


 場所を交換し、今度はテオがヘルヴィの髪を乾かす。


 純白の光り輝く髪が、腰まで伸びている。

 それらをテオは丁寧に、宝物を扱うかのように優しく触って、乾かしていく。


「ふむ……気持ち良いな。魔法で髪を乾かすことは出来るが、今後はテオにやってもらおうか」

「僕もヘルヴィさんの髪触るの気持ち良くて、楽しいです。だけどこの魔道具高そうですし……」

「金ならある。無くてもこれから稼げばいい。王都で買うものが一つ決まったな」


 これから長いこと使うことになる魔道具。

 今使っている魔道具は最高級のものだが、それと同等かそれ以上のものを買うことになった。


 テオよりも倍以上の髪の量があるので、乾かすのには時間がかかった。

 だがテオは雑にならずに、最後まで丁寧にやり切った。


「終わりました!」

「ああ、ありがとう。テオ、そのまま私の髪を縛ってくれないか?」

「えっ、わ、わかりました」


 手渡された髪留めで、テオはヘルヴィの髪を縛る。


 初めてやることなので苦戦したが、もともと器用なテオは上手く纏めて縛ることが出来た。

 後頭部で髪の毛を一本の束になるように縛っていて、俗にいうポニーテールというものだ。


 ヘルヴィは立ち上がり、鏡の前で自分の姿を軽く見て満足そうに頷く。


「どうですか?」

「上出来だ。本当に初めてやったのか?」

「初めてですよ。女性の髪を触る機会なんて、今まで無かったですから」

「これからは私のはいつでも触っていいぞ」

「あ、ありがとうございます……!」


 ヘルヴィの髪を触れると聞いて、少し嬉しそうに微笑むテオ。


「似合ってるか?」

「はい、とてもお似合いです!」

「いつもの髪型とどっちが好きだ?」

「えっ、うーん……!」


 テオは今のヘルヴィの姿をじっくり見て、考え込む。


「選べません、どっちも好きです!」

「ふふっ、そうか。じゃあこの髪型にした理由は……うなじでも見たかったからか?」

「えっ!? ど、どうして……!」

「そんな熱心に見られれば気づくぞ」


 髪を下ろしていたので見えなかったうなじが、ポニーテールによって曝け出されていて、それをテオはずっと見ていた。


「そ、その……いつもの髪型も好きですが、うなじが見えると、なんだか色っぽくて……!」

「……テオ、この後夕飯なのだ。あまり淫らに誘わないでくれるか?」

「さ、誘ってなんか……!」


 夕飯まで後数分しかないので、誘われても時間がない。


 ヘルヴィは仕方なく諦めて、代わりに深い口付けを交わした。

 テオももちろん、強くそれを求めた。



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