第71話 永遠を


「だけど魔力量が増えただけじゃ、技術が追いつかないわよ」

「それはそうだ。それに関しても、テオには才能がほとんどない」


 教わってすぐに出来るという才能もある。


 テオだったら料理などは、一度その過程を見れば大体の料理は再現出来る。

 ジーナはその逆で、どれだけ教えてもらっても出来ない。


 だがテオは戦いに関しては覚えられず、ジーナはそれに関しては一瞬で覚える。

 常人が何回何十回も練習しないといけないことを、ジーナは一発で出来るだろう。


 だから魔力量が並んだとしても、実力が並ぶわけではない。


 しかし才能がないのであれば、魔力量をめちゃくちゃ増やせば並ぶことはできるだろう。

 どれだけ上手い技術があっても、それを上回る力で押し潰されるように。


「お前らと実力が並ぶぐらいに魔力量が増えるには、あと百年は必要だろう」

「……ちょっと待って、百年も、その……ずっとしてるつもり?」


 テオの魔力量が百年後には、二人を蹂躙できるほど増える。

 だがそれは、百年間ずっと一日も欠かさずし続けないといけないのだ。


「もちろんだ。毎日するぞ」

「……ほら、テオの寿命もあるし」

「不老不死にする」

「そんなこと出来るの!?」

「当たり前だ、私だぞ?」

「いや、貴女って本当に何者?」


 ヘルヴィが悪魔だということを、ジーナとセリアにはまだ話していない。

 だからただの人間……とは二人も思ってはいないが、同じ人間だとは思っている。


 しかもとても美人で若く見えるので、年齢は自分たちよりも少し上か同い年くらい。


 同年代ぐらいの人がこんな化け物じみていると思うと、自分たちももっと頑張らないといけない。


 実際にセリアは今まで少しサボっていた、魔法の基礎からしっかり練習するようになった。


「頂点を知ってなお、それに近づこうとするのは好ましいな。頑張るがいい」

「……心読まないでくれる?」

「ふむ、すまないな」

「あとさっきの話だけど、テオを不老不死にできるんでしょ? つまりヘルヴィさんってもしかして、不老不死なの?」


 先程までは容姿的に自分たちと同年代と思っていたが、不老不死なのであれば話は変わってくる。

 その美貌がずっと保たれ続けて、何十年、何百年も生きていたら、自分たちが全く敵わないのも納得出来る。


「良いところに気付いた。テオを不老不死にする方法とは違うが、私は不老不死だ」

「やっぱり。何十年、何百年生きてるの?」

「女性に年齢を聞くとは、躾がなってないな」

「やめて、躾って言われると前に貴方にされたことを思い出すから」


 また何かが漏れそうになるのを、セリアは下半身に力を入れて我慢する。


「で、何歳なの?」

「正確な数字は覚えていないな。しかし何十、何百という数字では表せないくらい生きている、と言っておこう」

「えっ!? そ、そんなに生きてるの?」


 さすがにそこまで生きているとは思っていなかったので、驚きを隠せないセリア。


「す、凄いわね……そんだけ生きてれば、その強さも納得だわ」


 確かに一万年以上生きていれば誰でも強くなるだろうが、ヘルヴィは違う。

 生まれた瞬間から、頂点だった。


 たとえどれだけ才能がある者が一万年以上生きて鍛えようとも、ヘルヴィには届かないだろう。


 それだけ、種族として、生物として違うのだ。


(それはまだ言わないでいいだろう。悪魔だということを伝えてから言ってもいいが)


 夜にテオと相談して、ジーナとセリア、それにフィオレにはそろそろ伝えることにしよう。


「だけど不老不死って、なんか凄い大変そうだわ。ずっと生きていたいと思うけど、それはそれでつまらなそうね」

「ふむ、あながち間違いではないだろう。私は最強だったから大変ということはなかったが、つまらないという点では合っているな」

「やっぱりそうよね」


 人間とは感性が少し違うので、一人でずっと生きているのは別に苦ではない。

 もともと生物としては一人で完結している。


 だがつまらないのは確かだ。

 人間に呼び出されて願いを叶えるということが何回かあり、多少刺激があったが、それでもつまらない時間を過ごしたのが圧倒的に長い。


「だがこれからは、テオがいるからな。つまらない時間は、限りなく無くなるだろう」

「全部無くなる、とは言わないのね」

「それはそうだろう。もしかしたらテオと喧嘩をするかもしれない。別れることはないだろうが、そのような時間を面白いと思える感性を私は持っていない」


 だがその喧嘩なども、つまらない時間ではないかもしれないが。


「テオは不老不死になることをどう思ってるのかしら? もうテオに言ったの?」

「もちろん、永遠に生きようとな」


 限りある時間ではなく、永久に。

 普通だったら永久の時間を生きるということは、少し怖いところだろう。


 しかしテオは――。


『ヘルヴィさんと、ずっと一緒に生きられるんですか? ずっとずっとですか?』

『ああ、そうだ』

『嬉しいです! ヘルヴィさんとずーっと! 一緒に生きたいです!』


 迷うことなく、臆することなくヘルヴィと一緒に永遠を生きることを選んだ。

 とても良い笑顔で、心底嬉しそうに。


 まだ永遠という長い時間をわかっていないだけかもしれないが、それでもヘルヴィは嬉しかった。


 すでに三回戦を終えた後なのに、すぐにもう一戦をするぐらいには。


「――と、いうことだ」

「……ただの惚気を聞かされた気分」

「ああ、ただの惚気だからな」

「腹立つわ……」


 なのでヘルヴィとテオはこの先永遠を生きることを、約束しているのだ。


 どれだけのことがあろうと自分たちは離れずに、幸せに暮らしていく。


 根拠はないが、なぜか二人ともそう確信しているのだった。



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