第61話 二人の秘密
「待たせたな、お前ら」
テオ達がいるところまで瞬間移動したヘルヴィは、三人に向かってそう言った。
三人を見るとなぜかテオ以外が疲弊したように地面に座っている。
「どうした、私がいなくなってから何かあったか?」
自分がいなくなる前よりも疲れているようなので、敵襲でもあったのかと疑う。
しかし戦った形跡や、敵の姿も見えない。
「さっきの馬鹿げた魔力は……ヘルヴィさんの、かしら?」
セリアが息を切らしながらもそう問いかけた。
それでも汗だくで、これまで見てきた中でも一番疲弊している。
ヘルヴィはそう言われて思い返すと、自分の記憶を封印していたときに出した魔力のことだと気づいた。
「ああ、私のものだ」
「やっぱりそうよね。とても凄かったわ、いえ、そんな言葉じゃ言い表せないほどに」
「あんなデカいただの魔力の塊、初めて感じたよ。攻撃もされてないのに、なんか凄い攻撃を受けた気分」
そう言われてようやく気づいた。
この星を滅ぼすほどの魔力を一箇所に集めたのだから、千キロ以上離れていたここにも影響は出ていたようだ。
「テオは大丈夫だったか?」
「は、はい、僕はなぜか大丈夫で……」
「そうか、良かった」
おそらく契約しているから、ヘルヴィの魔力の影響を受けにくいのだろう。
「テオ君至上主義だなぁ。私たちの心配もしてよ」
「そうだな、すまなかった。お前達でそれほど疲れるのであれば……ネモフィラの街の連中はどうなったのか気になるな」
「多分気絶している人もいると思うけど……」
後に街に戻り確認したのだが、思ったほど影響を受けている者は少なかった。
魔力などを感じ取れない街の人は、逆に影響を受けにくかったようだ。
傭兵ギルドやネモフィラ兵団では何十人も気絶したようだが、大事には至らなかった。
「まあどうでもいいか」
「街の人全員気絶させてる可能性あるのに、どうでもいいって一蹴しないでくれるかしら?」
「もうさすがヘルヴィさんだよ、略して『さすヘルさん』」
「あまり略せてないし、ダサいからやめろ」
「あはは……」
テオの乾いた笑いが、静かな森の中に響いた。
その後、テオ達は双子山の西の山頂に歩き出した。
幸いというべきか、テオが攫われた場所が西の山頂近く。
わざわざ東の山頂に戻ることもないので、そこから歩いて一時間ほどで目的の場所へ着く。
そして希少で見つけにくいはずの薬草をテオとセリアが探そうとするのだが……。
「……安定の速さね、テオは」
「な、なんで不機嫌なんですかセリアさん」
たった数分で集め終わり、依頼は達成された。
「なんか私たち、今回の依頼で役に立った?」
「さあ、どうかしら。盗賊団のボスもヘルヴィさんが倒して、テオが攫われたときは何もできなくて……」
「い、いや、道中の魔物とか、盗賊団のボス以外はお二人がやってくれたじゃないですか!」
「それもヘルヴィさん一人いれば別に私たちいらなかったんじゃ……」
「そうね……依頼の薬草はテオがさっさと見つけてしまうし」
「なんで二人ともそんなに気落ちしてるんですか!?」
二人が一番落ち込んでいる理由は、先程も言っていたがテオが攫われたときに何もできなかったことだ。
弟のように可愛がっているテオを、ヘルヴィが戦闘している短い間すら守れない自分たちに失望していた。
「私には敵にすらならない相手だったが、お前らには荷が重かった相手だ」
悪魔の中では下の方だったが、それでも人間にとってはとても強い相手だ。
ジーナとセリアだったら正面から戦えば勝てないこともないが、搦め手を使われたら勝負にもならない。
今回のように隙を突かれて簡単に負けてしまうだろう。
「最近は私たちと対等に戦える相手がいなくてつまらないと思ってたけど、まさかネモフィラに戻ってきてこんなに力不足を実感することになるなんてね」
「そうね、ヘルヴィさんはもちろん、あの盗賊団のボスも結構強かったわね。腕が気持ち悪くなったときはさらに強くなっていたし」
二人がこの世界でもトップクラスに強いのは、ヘルヴィも認めている。
そしてあの盗賊団のボスもそれに対抗するぐらい強かった。
しかし自分と、テオを攫った相手は人間ではなく悪魔。
この世界にいる者ではなく、魔界にいる者。
実力のピラミットがあるとすればジーナとセリアは最上階にいるが、ヘルヴィはまずそのピラミットにすら入っていない。
なので落ち込むことはないとは思うのだが、それを説明するには自分が悪魔だと伝える必要がある。
ヘルヴィとしてはこの二人、加えて受付嬢のフィオレには伝えても構わないと思っている。
しかし伝えないのは、意外にもテオがそれを望んでいないからだ。
(二人にはヘルヴィさんが悪魔って伝えた方が、落ち込まなくてすむかも……だけど、僕だけが知ってるヘルヴィさんの秘密で、それにあの悪魔の綺麗な姿を見られちゃうかもって考えると……うぅ、どうしよう……)
そんなヘルヴィにとっては嬉しい葛藤を、テオは心の中で繰り広げていた。
(い、いつか伝えよう。うん。だけど今は、まだ僕だけの秘密にしときたい……ヘルヴィさんが喋っちゃうならいいけど、僕からは……うん。ジーナさん、セリアさん、ごめんなさい……)
テオが伝えないことを望んでいるであれば、当然ながらヘルヴィが言うわけもない。
(ああ、嬉しいぞテオ。小さな独占欲だが、とても可愛らしく愛らしい……)
その心を覗いて、ヘルヴィは小さく微笑んだ。
ジーナとセリアにとっても、これからもっと鍛えなければという向上心になっているので、悪いことだけではないだろう。
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