第25話 依頼達成の報告
結局、テオとヘルヴィが受けた薬草採取の依頼は夕方過ぎに終わった。
いつもは夕方前には終わるのだが……遅くなった理由は、二人が一番わかっている。
「その、帰りましょうか……」
「ああ、そうだな……すまないな、こんなに遅くなってしまって」
「い、いえ、僕もその、時間を忘れてたというか……」
二人は恥ずかしくて顔を合わせられずに、ギルドへと戻った。
ヘルヴィは恥ずかしさに少し慣れてきたが、テオはまだ全く慣れていない。
なのでどちらかというと、一方的にテオが恥ずかしがってヘルヴィの顔を見れないだけである。
(顔真っ赤になって下を向いているテオ可愛い……)
夕方の街は、人が多くなる。
仕事帰りの人もいれば、夕飯の買い出しに商店街に来ている人もいる。
道が混んでいるので、下を向いていたら人に当たってしまう。
そして今にも、テオがすれ違う人と肩がぶつかり合う――。
「おっと」
「あっ……」
当たる寸前に、ヘルヴィがテオの肩に手を回して自分の方に寄せる。
テオの顔がヘルヴィの胸の間に突っ込むように挟まってしまった。
「いつまでも下を向いてたら危ないぞ」
「ふぁ、ふぁい……っ!」
ようやく顔を上げたテオだが、自分の顔の位置がヘルヴィの胸の中ということに驚く。
「ふぁ、ふぁの……!」
「んんっ、テオ、そこで喋るな……くすぐったいだろ?」
少し胸元が開かれた服を着ているので、直にテオの息が当たってしまう。
「〜〜っ!」
耳まで真っ赤になるテオを、上から見下ろしながら別の意味で頬を赤く染めて見ているヘルヴィ。
そのまま口を塞いでやりたいが、この場所が商店街のど真ん中であることに気づく。
道行く人のほとんどが、いきなり始まった二人の情熱的な抱擁を見ていた。
ヘルヴィは特に周りに見られて恥ずかしいわけではない、こんなところでキスをするのは見世物にされてる感じで良い気分はしない。
「テオ、行くぞ。早く依頼達成を報告しないと、家に着くまでに日が暮れてしまう」
「あっ……は、はい」
身体を離したとき、一瞬テオが残念そうな顔をしたのをヘルヴィは見逃さなかった。
テオの顔の横に口を近づけ……。
「帰ったら、思う存分触ってもいいんだぞ?」
「――っ!? いや、その……!」
驚いて思わず後退ったテオが見たのは、ヘルヴィが妖艶に笑った顔だった。
その後、本格的に顔が見れなくなったテオは、ヘルヴィに手を引かれてギルドへと向かった。
「どうしたのテオ君? 顔から火が出るんじゃないか、ってくらい真っ赤だけど」
「聞かないでください……」
依頼報告をしているときに、フィオレにそう問いかけられたが何も答えられないテオだった。
状態が良い薬草を渡し、依頼報告を終える。
そして二人は帰ろうとした、そのとき。
ギルドの入り口の扉が開かれた。
勢いよく開かれたので、中にいたほとんどの者がそちらを向く。
テオとヘルヴィも、帰ろうとしていたので当然そちらを向いていた。
そこには女性が二人いた。
一人は戦士の格好をしているが、露出している肌面積は多めだ。
軽戦士はこういう服装を好んでいるので、そういうことだろう。
髪は赤色で肩ぐらいの長さだ。無造作っぽく見えるが、軽く整えられている。
顔立ちは可愛い目で、ギルドに入ってすぐに周りをキョロキョロと見渡す。
もう一人はどう見ても魔法職の格好をした女性だ。
帽子も魔法使いっぽい、とんがり帽子だ。少しヘタれている感じが熟練な雰囲気を醸し出している。
綺麗な金髪が背中の真ん中ぐらいまで流れていて、少しウェーブがかっていた。
目は少しつり上がっていて、美人という印象を受ける。
むさ苦しい男どもが入り浸っている傭兵ギルドに女性が来るのなんて、あまりない。
今日はいつもいる男たちがいないから静かだが、いたら騒いでいることだろう。
そして中にいる人数が少ないということで、戦士の格好をしている女性が探していた人物はすぐに見つかった。
「あっ! テオ君、久しぶり!」
パァッと笑顔になったその人は、駆け足になってテオに近づいていく。
その後ろを魔法職の女性がついていくが、テオを見つけたからか少し嬉しそうだ。
「えっ、ジーナさん!? それに、セリアさん!?」
テオが二人の女性を見て、その名を呼んだ。
「やー、覚えててくれてたんだ」
「当たり前ですよ! お久しぶりです、ジーナさん!」
「うん、久しぶり!」
戦士の格好をしたジーナは、嬉しそうにニコニコしている。
「セリアさんも、お久しぶりです」
「ふふっ、そうね。相変わらず元気そうで何よりよ、テオ」
「はい、セリアさんもお元気そうで良かったです」
魔法使いのセリアは、頬を緩めて軽く笑った。
「いやー、だけどテオ君は何も変わらないねー」
「そうですか?」
「うん、ほら、身長とかさ」
「うぅ……言わないでくださいよ、気にしてるんですから」
ジーナとセリアよりも身長が低いのは、パーティを解散したから変わってなかった。
「私は好きだけどなー、ほら、撫でやすいし」
ジーナはそう言ってテオの頭に手を伸ばした、が……。
「私の許可無しに、触ってもらっては困るな」
その腕を、ヘルヴィが掴んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます