第2話 召喚からの
「何これ……?」
それはとても古い魔法の本の間に挟まっていた。
汚く、ズタズタで、誰がどう見ても古臭い本。
普通に魔法を勉強するなら、最新の本が良いとされている。
新しい魔法の研究結果などが書かれていることが多く、学べるものは多いからだ。
だがそれすら知らないテオは、まず初心者の自分は古いものから調べた方がいいと考えたのだ。
そしてその本の間に挟まっていた、紙を見つけた。
本の内容とは全く関係ないもので、ただ挟んであるので紙を取って読む。
「悪魔の、召喚術……?」
そこには魔法陣が描かれており、上の方に『悪魔の召喚術』と書いてあるだけだった。
テオは悪魔というのをほとんど聞いてたことがなかったので、調べてみた。
ある文献には、「悪魔とは人を惑わす最低の生き物である」とあった。
他にもとても悪い印象を受けるものばかりの言葉ばかりが出てきた。
しかしテオには、調べた本のほとんど全てに書いてある言葉が気になった。
「願いを一つ叶える……その代わりに、大事なものを奪われる」
その大事なものというのがなんだか書かれていないが、願いを一つ叶えるという言葉に惹かれた。
もしかしたら、悪魔に「自分を強くしてくれ」と言ったら、その願いが叶うのかもしれない。
テオはそう思ってしまい、すぐに実行に移す。
悪魔の召喚のやり方は調べていたら見つかった。
老夫婦と一緒に暮らしていた家で、召喚を行う。
地面に魔法陣が描かれた紙を置いて、その中心に自分の血を一滴垂らす。
それが召喚のやり方だ。
テオはナイフで自分の手首を軽く切る。
痛みに顔を歪めるが、パーティの人に役立たずと罵られて腹を蹴られたときよりは痛くない。
そして、血が一滴……召喚陣に、落ちた。
「わっ、わわっ!」
その瞬間、召喚術から光が溢れ始める。
神秘的な光に、テオは思わず目を瞑り顔を手で覆う。
数十秒経って、光が収まり目を開けたそこには――美女が、浮かんでいた。
テオが今まで生きてきた中で、これほどの美女に出会ったことがなかった。
悪魔の容姿については少し文献に載っていたが、ツノと翼があるということぐらいしか書いてなかった。
まず女性だということも驚いたが、その美貌に思わず見惚れてしまう。
悪魔の女性が何か言っているが、聞き逸らしてしまった。
そうだ、何か願い事を言わないと……!
テオが欲しいものは、今まで「力」だった。
しかし今は……。
「僕と、け、結婚してください!」
「……はっ?」
この悪魔の女性を、お嫁さんに欲しいと思ってしまった。
長い長い沈黙が、二人の間を包む。
いや、もしかしたら二人が長いと思っているだけで、本当は数秒だったかもしれない。
最初に動いたのは、悪魔の方だった。
「お前は、何を言っているんだ?」
いや、意味はわかっている。
テオが言ったのは、男性が女性に言うまさに求婚の言葉だった。
だが、なぜ自分が言われたのかわからないのだ。
「まさかこの私に、一目惚れをしたとでもいうのか?」
それこそまさかだった。
悪魔である自分。
この容姿は人の世を生きてる者からしたら、忌避の対象だ。
誰がどう見ても人外のツノ、そして翼。
純白の髪も悪魔の象徴だ。
そんなやつを好きになる、さらに求婚だなんて、余程の馬鹿でもない限り……。
「は、はい! 一目惚れしました!」
「なっ!? う、嘘をつくな!」
「嘘じゃありません! おじいちゃんから、嘘はつくなって言われてきましたから!」
おじいちゃんという者が誰か知らない悪魔にとっては、テオがそう言われたなんて知ったことではない。
顔を真っ赤に染めて「嘘ではない」と言ってくる男。
しかし悪魔には、心を覗く力がある。
(どれだけ表面を嘘で固めても無駄だ。私には全てが見える。お前が心の中で何を企んでいるのか見てやろう)
悪魔はそう思い、心を覗く魔法を発動した。
そして――。
(綺麗、美しい、麗しい…… いや、そんな言葉じゃ語り尽くせない! こんな女性初めて出会った! 目がツンと上がっている感じが凄く良い、好き。唇もプルプルだ、触ったらどれくらい柔らかいのだろう。目なんてパッチリで紅い瞳でとても綺麗……純白の髪と黒いドレス、それにツノや翼がなんて対比的になっててとても美しい。あれ、なんか顔が赤くなってきた? ああ、美しいだけじゃなくて可愛いなんて、ズルすぎる! それに言ったらダメだと思うけど、スタイルも良いし――)
見るのをやめた。
(待て待て待て、なんなんだこの男は!?)
テオの心を見て熱が上がって赤くなった顔を見られないように、すごい勢いで顔を背ける悪魔。
悪魔は長く生きてきたが、これほどの好意を向けられたことは今までの人生で一度もなかった。
今まで自分を召喚した人間は欲望のままに願いを告げ、それを叶えると自分から逃げようとする。
代償を支払うのが怖いからだ。
もちろん、一度も逃したことなどなかったが。
しかし今目の前にいる男は、今までの奴らとは全く違う。
願いを告げてきたのだが、その願いが意味不明だ。
(こんな悪魔と、結婚したいだなんて……!)
顔を背けたが、チラチラとテオの様子を伺う悪魔。
しかしテオは、悪魔が顔を背けたのが首を横に振ったと勘違いしていた。
「す、すいません……こんな願い、無理でしたよね……」
涙目になり俯いているテオを見て、悪魔の心臓がキュンと鳴った。
(な、なんだ今のは……この私が、男に可愛いと思うなんて……!)
ドキドキしながらも、悪魔は言う。
「わ、私に叶えられない願いはない。そんなもの、存在するわけないだろう」
「えっ、それじゃあ……!」
悪魔の言葉に顔を勢いよく上げ、表情が明るくなった。
その姿を見てまたキュンキュンする悪魔は、それを表に出さないようにしながら。
「け、契約は成立だ。お前と、け、け、結婚してやろう!」
「は、はい、よろしくお願いします!」
今ここに、新たな夫婦が生まれた。
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