願いを叶えてもらおうと悪魔を召喚したけど、可愛かったから結婚を願いました
shiryu
第1話 悪魔
それはまさに――悪魔だった。
こめかみ辺りから漆黒のツノが二本生えており、腰のあたりには黒く染まったの翼が広がっていた。
服はツノや翼と同じ、漆黒のドレス。
豪華な装飾がなされており、あまり肌を露出していないにも関わらず、その妖艶さは異常だった。
漆黒とは真反対である、純白の髪が艶やかに流れて、腰の辺りまで届いている。
「ふむ、久しぶりにこの世界に召喚されたな」
真っ赤で薄い唇から放った声はとても綺麗で、悪魔の前にいる男は聴きいってしまう。
男は魔法陣から出てきて空中に浮いている悪魔を見上げ、呆然としている。
悪魔のとても美しい顔立ちに、男はずっと見惚れてしまって喋れない。
「さて、私を呼んだ人間よ。願いはなんだ。願いを叶える代わりに、お前の大切なものをいただくぞ」
悪魔はニヤリと笑ってそう告げる。
悪魔の力は強大。
人間には叶えられない夢や野望も、悪魔の手を借りればほとんどが簡単にできてしまうだろう。
だがその夢を叶えたら、悪魔は人間から代償として何かを貰っていく。
願いに応じてそれは大きくなり――命を持っていくこともある。
何も答えない男を見下ろしながら怪訝な表情を浮かべる悪魔。
「どうした? 代償を気にして願いを告げるのが怖くなったか? しかし私を召喚したからには、それは許さん。お前の心の中を覗いてでも――」
この悪魔は人の心すら見通せる。
願いを言わない男に痺れを切らし、無理やり覗こうとしたのだが。
それをする前に、男は願いを叫んだ。
「僕と、け、結婚してください!!」
「……はっ?」
◇ ◇ ◇
テオ・アスペルは、不憫な男の子だった。
彼は親に捨てられ、ある老夫婦のもとで育てられた。
小さな頃に捨てられたので、実の親の記憶はない。
彼にとって親とは、その老夫婦であった。
老夫婦には子供はおらず、テオは初めてできた子供、孫のような存在だった。
とても愛し、大事に育ててきた。
テオも優しい老夫婦が大好きで、いつも一緒にいた。
しかし老夫婦の寿命は、彼が大人になるまで待ってはくれなかった。
テオが十二歳の頃、老夫婦はほとんど同時に亡くなってしまった。
彼はとても悲しんで、これ以上ないほど泣いて泣いて……。
絶望に打ちひしがれたが、老夫婦に心配させないように一人でも頑張って生きることを決意する。
街を出たら魔物が至るところに生息するこの世界で、生きるのに必要なものは一番は力だった。
力があれば魔物を倒し、その素材を売って金を得ることができる。
金がなければ、生きることはできない。
十二歳で身寄りがないテオを雇ってくれるようなところはないので、仕方なく魔物を狩ることを主としている傭兵ギルドに所属した。
しかし剣も握ったことがない、魔法も使えないテオには弱い魔物すら一人で狩ることができない。
なのでいろんなパーティの手伝いをしていた。
矢面に立って戦う傭兵達を補助する荷物持ちなどが主な仕事だった。
雑用のようなものなので、報酬は他の人と比べて格段に少ない。
しかしテオにはそれしかできないので、文句は言えない。
むしろお金をもらえるだけありがたいのだ。
こういう雑用係はパーティにとって意外と役に立つものだ。
なにせ自分たちが持つべき回復ポーションを運んでくれるし、魔物の素材も回収してくれる。
戦いに集中できて、とても楽ができるのだ。
しかし最初は感謝をするが、それに慣れてくると当たり前となってしまう。
色んな荷物を持って移動するテオに、「遅えよ!」と怒鳴る。
魔物の素材の回収も手間取ると、同じように怒鳴る。
そして魔物にやられて依頼に失敗をすると、「お前が弱いせいだ!」と雑用のテオのせいにしてくる。
戦いに参加をしないという契約の元、パーティを組んでいるにも関わらずだ。
それを何度も何度も繰り返し、パーティを追放されてきたテオ。
その度に傷ついて塞ぎ込みたくなるが、生きるためには働かないといけない。
十四歳のテオは昨日、何度目になるかわからない、パーティ追放を受けた。
もう慣れたものだと思ったが、やはり悲しくなる。
しかも今回追放されるときに言われたことが、テオを酷く傷つけた。
「なんでお前はそんなに弱いんだ? 親に剣とか魔法を教わらなかったのかよ」
その言葉に、自分を育ててくれた老夫婦を思い出す。
とても優しく育ててくれた老夫婦だったが、自分に何か残したかと言われたら、特に何もなかった。
少しだけのお金と、小さい家を残して亡くなった。
自分が弱いせいで、老夫婦にも悪口を言われてしまった。
そして「なんで何も教えてくれなかったんだ」、と一瞬でも恨んでしまった自分の情けなさに腹が立つ。
追放された翌日、テオは街の図書館で本を読んでいた。
今までは、もっと魔物の素材を上手く剥ぎ取れるように、と色んな魔物の本を読んでいた。
しかしこの日は自分自身が強くなりたいと思っていたので、魔法の本を読んでいた。
少しでも参考になれば、と考えてだ。
そして、テオは見つけてしまった。
――悪魔の、召喚術を。
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