【五人目】

「おーい、ユウ。大丈夫か?」

「ん、んん……? レントウ……?」


 ぼんやりと瞳を開くと、そこには王子様かと見紛うほどの美しい顔立ちをした少年が、ユウを覗き込んでいた。

 どうやら空から落ちたようだが、奇跡的に傷一つない状態で森の中に転がっていた。あれだけ高高度から落ちておいて傷一つないとは、一体どんな奇跡なのだろうか。


「大丈夫かよ」

「うん……平気だよ」


 ユウは少年の心配を素直に受け止めて、それからゆっくりと起き上がる。

 そして気づいた――今、自分が寝ていた場所は綺麗な花畑の中心だったのだ。


「綺麗……」

「そうだな」


 同じように花畑を見渡した少年は、からかうような笑みでもってユウに言ってくる。


「お前、まるで眠り姫のようだったぜ」

「え? 眠り姫はユーシアさんでしょ?」

「は?」


 少年が怪訝な表情を浮かべて、ユウは慌てて口を噤んだ。

 異世界で出会ったあの狙撃手のことを話したところで、もう会えないかもしれない男のことなど、この少年が知る由もないのだ。だから、多分言わない方がよかった。

 ユウは取り繕うように「なんでもない」と言って、素早く立ち上がる。


「戦いはどうなっちゃったの?」

「もう敵の軍勢はどっかに行ったよ。今はモコが残党を追い回してんだろ」

「そっか。じゃあ帰ろうか」


 ユーシアという男の名前が気になるらしい少年だったが、ユウのなんでもなさそうな振る舞いで「まあいいか」と判断したようだった。相棒とも呼べるドラゴンを呼びつけて、その背中にひらりと飛び乗る。

 少年はドラゴンの手綱を握りしめて、それからユウへと手を差し伸べる。


「ほらよ。ひとっ飛びで家まで帰ろうぜ」

「……なるべく速度は遅くていいんだけどなぁ」


 ユウは苦笑しながら、少年の手を取った。

 彼の腰で揺れる鎖で雁字搦めにされた魔導書に、異世界の仲間たちと撮影した写真があることを、魔法使いの少年はまだ知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る