【そして最後に、姫君と勇者は】
「おらエッタ、もうちょっと寄れって。恥ずかしがってんじゃねえよ今更」
「そ、そんな……だって勇者様の隣だなんて恐れ多い……」
「【疑問】先ほどまで勇者に抱かれて守られていたのに、今更か?」
「ぴええッ!!」
顔を真っ赤に染めたエッタに、勇者を押しつけようとするユフィーリアは楽しそうである。恥ずかしがるエッタにユーバ・アインスが追撃して、さらに彼女は泣きそうなぐらいに瞳に涙を溜めた。
ドラゴンは消え去り、追っ手もこない。これ以上なく平和な世界の果てにて彼ら二人は末永く暮らすことになり、七人の異世界の勇者はお役御免と相成った。こうしてわちゃわちゃしているのは、最後に写真を撮ろうとユウが提案したからだ。
写真と全員して首を傾げたが、なにやら景色や人物の絵を一瞬にして記録するもののようで、それはいいとユフィーリアとユノが食いつき、面倒臭そうなユーイルをユーリが捕まえて、写真に使われる『かめら』とやらの再現はユーバ・アインスが担うことになった。
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないかい。どうせ夫婦になるんだから」
「夫婦だなんてそんな!!」
勇者の少年がエッタと同じように顔を赤く染めて恥ずかしがり、その隙にユーイルが勇者の少年の左手とエッタの左手を引っ張ってユウの眼前に突き出す。
「おい、魔法使い。この二人の左手に指輪でも作ってやれ」
「お任せください!! そういう魔法なら大歓迎です!!」
ユウはいきいきと答えて、魔導書から指輪作成の為の魔法陣を呼び出す。二人の指先に銀色の魔法陣が現れて、銀色の輪っかを作り上げる。無骨な意匠だが、立派な指輪となった。
左手の薬指を縛る銀冠に、改めて二人が顔を赤く染める。もう倒れないか心配だが。
ユーバ・アインスはすでに構築が終わったカメラを設置して、首を傾げながら発動時間をセットする。「【宣言】発動まで三〇秒だ」と告げると、ユウがユーバ・アインスを呼び寄せる。
「ユーバさんもこっちに!!」
「【疑問】当機が写ることに意味はないが」
「そんな無粋なことを言うんじゃないよ、ユーバ」
「お前さんも写ったらいいんじゃないかねぇ」
「いいじゃねえか、記念だから」
「協調性がねーのはいただけねーぞ」
「ユーイル・エネンよ、それは貴様にも返ってきてないか?」
六人に手招きされて、ユーバ・アインスは渋々と歩み寄ってくる。勇者と姫君を真ん中に置き、両脇にユノとユーリとユフィーリアが座る。背後にはユーシアとユウと逃げそうになるユーイルが捕まり、ユーバ・アインスが最後に加わる。
「あ、あの、やっぱり恥ずかしいです」
「せめて誰か間に入ってくれませんか?」
「だったら誰か赤ん坊の格好をするかい? 三人で幸せになりますって」
「そりゃあいい。一番若いユウにやってもらおうか」
「ええ、僕ですか!?」
「【提案】おしゃぶりなら当機も有しているが、必要か?」
「なんでオマエおしゃぶりなんか持ってんだよ」
「煙草の代わりに持っていたんじゃないかねぇ」
「皆の衆よ、もうすぐ三〇秒が経過するぞ。構えよ!!」
そして。
設置された『かめら』からぱしゃ、という音を聞いて。
「行ってしまいましたね」
「行ってしまいましたね」
残された姫君と勇者は、二人で手を取り合って平和な世界を眺める。
この世界は、二人も見たことがなかった。ここまで連れてきてくれたのは、七人の異世界からやってきた勇者だった。彼らはもう姿を消してしまったが、二人の手の中に残った一枚の絵の中に笑っている。
金髪で無精髭を生やし、白銀の狙撃銃を抱えた男は朗らかに笑っている。
海賊帽子を被って眼帯をつけた銀髪赤眼の女性は、隣にいる勇者の肩を抱いていた。
金髪で貴族服を着た少女は、綺麗な佇まいで微笑んでいた。
銀髪碧眼で黒い外套の女は、隣にいる姫君に寄り添っていた。
分厚いローブを着た銀髪の魔法使いは、そのおどおどとした態度とは対照的な明るい笑みを浮かべていた。
写真に写りたくないらしかったガスマスクの青年は、仕方なさそうな様子で立っていた。
端っこに写る純白の男は、やはり眉一つ動かさない無表情で直立不動のまま立っていた。
「いい人たちでしたね」
「いい人たちでしたね」
「…………あの、姫君」
「はい、勇者様」
二人で顔を見合わせて、
「あなたの名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「……エッタとお呼びください、ロイ様」
世界の果てまで逃げた勇者と姫君は、自らの立場を捨てて幸せの為に歩み始めた。
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