第7話 疑惑


-------

-------



「拳ちゃん。この写真を見てくれ。あの『男』の学生時代の写真だ」


「ちょっと待ってくれ。こいつは『櫂』じゃないか?」


「そう。『進藤 櫂』だ」


「まさか『櫂』が似顔絵の『男』? そう言えば翔に見せてもらった写真の『男』も確かに『櫂』の成長した姿だ」


「拳ちゃん。『櫂』の事は良く知ってるんだろ?」


「ああ、『櫂』は俺のボクシングジムの後輩で素質があると思ったから可愛がってたんだが急に辞めてしまって残念に思ってたんだ」


「美和さんも知り合いだったんじゃないか?」


「確かに何度か美和もジムには来てはいたが」


「その時美和さんに目をつけたのかも知れない?」


「だって『櫂』はまだ中学生だったんだぜ。目をつけるって何だ?」


「その頃『櫂』の両親が離婚して母親が出ていったんだ。美和さんは『櫂』の母親に良く似てたそうだよ」


「だからストーカーになったと言うのか?」


「美和さんに母親をダブらせてたんじゃないかな?」


「だからって何故美和を殺す?」


「それはまだわからないよ。まだ何も確証はないんだ。もう少し調べて見るからに待っててくれないか? 拳ちゃん」


「そうか。すまない。マサ、よろしく頼む」



-------

-------



「翔。何か分かったか?」


「拳さん、ひとつだけあの人に関して情報があります」


「『櫂』の事か?」


「そうです。『進藤 櫂』さん。心療内科に通ってるみたいです」


「心療内科? 『櫂』が?」


「あのOLの事件の後、直ぐに通い出したみたいです」


「どういう事だ? 『櫂』は心を病んでると言うのか?」


「そこの所は守秘義務とかで詳しい事はわからないんですが・・・」


「・・・そうか」




「どうだろう、翔。俺が『櫂』に直接会うってのは?」


「それは危険なような気もしますが・・・でもはっきりけりをつけるには良いかもしれません。俺もついて行って良いですか?」


「ああ、翔がいてくれると心強い」


「明日『櫂』さんは老人ホームに慰問に行く予定です」


「そうか。翔、誰か事務所のスタッフを一人明日香につけてやってくれ」


「分かりました。じゃあ明日迎えに来ます」


「ああ、よろしく頼む」



-------

-------



さっきマスターが私の部屋に来た。


私はほったらかさてたから少しご機嫌斜めだ。


マサさんや翔さんが入れ替わりに来てたから。


マスターが

「明日香。俺は明日出かける」って言った。


「えっ!私はどうなるの?」って聞くと


「翔の事務所のスタッフが居てくれるから安心しろ」って言ったけど・・・私は嫌だった。


マスターと離れるのが。


「やだよ。私もマスターと一緒に行きたい」って言ったんだ。


「だめだ。危険過ぎる」ってマスターは言った。


「何で? マスターは俺から離れるなって言ったじゃない」


私は譲らなかった。


「言ったが・・・」


マスターの声が小さくなる。


「だったら連れてってよ。もうここに閉じこもってるのやだよ」


私は少し大きな声を出した。


「しかしな、明日香の命に関わる事だから」


マスターは反撃しようとしたけど


「マスターが守ってくれるんでしょ?」


って私が言うと


「ああ、明日香は俺が守ってやる」


「だったら連れてって」ってわがままを言った。


「・・・じゃあ、俺の言う事を守るんなら連れて行く」ってマスターは折れてくれた。


「やったー。明日はデートだね」って私は喜んだ。


マスターは

「お前はお気楽だな」って言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る