第4話 惨劇
私とマスターの暮らしている部屋はマンションの6階、東側の角部屋601号室。
そして事件があった部屋は501号室。
私達の真下の部屋だ。
その部屋には若い夫婦と産まれたばかりの女の子が住んでいた。
事件が発覚したのは初孫を見に来た夫側の父母が連絡が取れないとマンションの管理人に連絡して部屋を開けてもらったから。
しかし、そこは・・・
悲惨な状況だった。
ドアを開けて直ぐ、玄関で嫁が血塗れで倒れていた。
そしてリビングの壁にもたれ掛かるようにして息子が倒れていた。
背中にはナイフが刺さったままだった。
両親はしばらくパニックになっていたが、赤ちゃんの泣き声で現実に引き戻された。
赤ちゃんは無事だった。
私とマスターは喧しいパトカーと救急車のサイレンの音で事件に気づいた。
パトカーと救急車が止まったのは、私達のマンションだった。
マスターは
「何か良くない事が起こったようだ」と言って険しい顔をした。
私もあまりのパトカーの多さに余程の事が起きたんだと思った。
私達が事件の詳細を知ったのは1時間程して武田刑事が聞き込みに来た時だ。
「やれやれ、また悲しい事件が起きてしまいました」と武田刑事は言って詳しく話してくれた。
私は
「赤ちゃんは大丈夫だったの?」って聞いた。
「今、祖父母に付き添われて病院に居ますが、無事だそうです。それだけが救いです」
「良かった・・・でも可哀想」と、私は思った。
殺された若い夫婦はもちろん可哀想。
赤ちゃんは何とか助かったけど産まれたばかりで両親がいなくなっちゃたんだから可哀想。
祖父母も息子と嫁が殺されて、しかもその現場を見ちゃたんだから可哀想。
みんな可哀想過ぎる。
私はマスターを見た。
マスターは見たこともない複雑な表情をしていた。
唇は固く閉ざされ、目は怒りと哀しみが同居している。
武田刑事もマスターを見つめていた。
「マスター、この事件の犯人は警察が必ず逮捕します。くれぐれも軽はずみな事はしないでくださいよ」と武田刑事が言った。
「あたりまえだ。警察が捕まえないでどうする。それに軽はずみな事って何だ?」と、マスターが突然怒鳴った。
私はびっくりしたけど、武田刑事は冷静だった。
武田刑事は哀れみのような目でマスターを見て
「あなたの事情も理解していますし、警察が嫌いな事もわかります。あなたが優秀な探偵だった事も知ってます」と言って、一旦言葉を置いた。
そして
「私はあなたが好きなんですよ。あなたの哀しみがどんなに深いのかはわかりませんがどうか私にあなたを逮捕させるような事だけはしないでください。お願いします」と言って帰って行った。
マスターの過去に一体何があったのだろう?
マスターが自分から話さない限り、私からは聞いてはいけないような気がする。
余程の事なんだろうな。
心配そうな私を見てマスターは
「大丈夫だ。明日香は必ず俺が守ってやる。もう愛する人を失いたくはないからな」って言ってくれた。
『愛する人』って言葉に私は状況もわきまえず
「デヘヘへッ」って笑ってしまった。
マスターはそんな私を見て少しだけ微笑んでくれた。
マスターはまたマサさんに電話してた。
電話が終わると
「明日香、引っ越しするぞ。身の回りの物だけ持って行けば良いから」って言った。
私は突然で驚いたが、今はマスターの言葉に素直に従う。
って言うかマスターを無条件で信頼してた。
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