第2話
忘れもしない中学一年、県内でも珍しいことに弓道部があった。それを知った時、自分も犬夜叉のかごめのように弓道がしたくなった。そこで、何人かの友達に、一緒の部活に入りたいからと必死にお願いをした。
「たまきは何部に入るん?」と聞かれたときには、よっしゃぁと内心でガッツポーズをした。彼女は吹奏楽部に気持ちが片寄っていたが運動部も捨てがたいという不均衡さであった。運動部に気があるなら、自然に弓道部に誘導ができる、と珠希は考えた。
だから「弓道したいねんな」と答えた瞬間の、友達だと思っていた彼女の頭の中に衝撃を受けた。
はぁ? 弓道?
以外の思考が無かったのだ。なんとも驚いた。人の体臭と同じように望まないうちに知覚していて煩わしい人の思考が、まるで台風が過ぎた日の青々とした空にのぼる太陽のようになんのかげりもなく輝いていた。地上で怒鳴ったとしても太陽が動かないように、「は? 弓道?」という混じり気のない彼女に何ができるというのだろうか。
ちなみに彼女を入れて5人の友達がいた。それぞれに弓道部に入るように打診した。すると「ヒィ、弓道?」「ふっ、弓道w」「へぇ、弓道……」「ほぉ、弓道!」というものだった。弓道は楽しかったものの、彼女にとってテレパスの力が、ただの騒音以外の何でもないということを思い知らされた。
テレパスが役立つ時といえば、電車で目の前の婦人が妊娠しているか肥満かを見分けるときやバイト先で先輩の無言の指示を理解するくらいだった。
十七はもっと大人だと思っていた。大人なら落ち着いているから、この騒音も少しはましになるだろうと思っていた。
ところがどうだろうか。
自習が終わって、次の時間に班活動をしなければならくなったが、こいつら必要なことは殆ど喋らないくせに騒音だけは一人前なのだ。自分と田中、藤井、青樹、そして中谷という席が近い連中で組んだものの、男二人のさっきまでの威勢はどういうわけか消えた。女子の方が丁寧やろうしと、青樹に提出物をおしつけて駄弁りはじめた。またしても中谷は押し黙ったままだ。青樹は頬がプルプルと震えていた。頭の中は殺すの文字が奔流していた。文学少女も殺意に襲われれば複雑な語彙を捨てて利便性のある言葉で思考するようだ。田中と藤井は、青樹さん色白でボブカットでエロいと考えていた。中谷は蝉の抜け殻じみていた。抜けている男だったと思うが、修行僧のような無心であった。これが禅の思想なのだろうかと珠希は興味深かった。
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