■2──識別コードA‐008(1)
■2──識別コードA‐008
識別コードA‐008、個体識別名「
製造年一九三六年、A‐009と並んで現在生存中の「一桁台」。
頭髪は
訓練カリキュラムにおける成績を開示。白兵戦闘:クラスB。指揮能力:クラスA。
品行方正で思想上の問題点もなく、規律違反及び命令違反の実績なし。
保有
一点。一点だけ、彼女には問題があった。
それは──
■
──記録番号1942‐07‐05。
「箱庭」敷地内、学舎棟にある医務室。
「さっさと、しなさいよ」
少しだけ、震える声。その声の主はA‐008、「
わずかに上気した頬。
少し痛む、と。そう警告するや
「……っ」
もぞもぞと握った拳を握り直す彼女。私は手先がぶれないように、ゆっくり、ゆっくりと押し子を引く手に力を込めていく。
およそ三十秒ほど
「……ええそうね。だいぶ痛かったわ、この下手くそ」
きつい調子でそう返すと、
そんな彼女を横目に、私は検体ラベルの貼られたスピッツに血液を分注していく。
刺入部を軽くさすりながら──
「それで。検査の結果は」
彼女の言葉に私は端末からカルテを開き、表示された
画像検査及び各種生理検査では目立った変化はなし。その他、神経学的にも
ただし──
「……ああ、そう」
表示された視力検査の結果を提示する。
視力は、測定不可。ほとんど何も見えていない──あるいは、
一応眼鏡で矯正はしているものの、それも焼け石に水と言うほかない。
そんな報告に、彼女はむすっとした表情のまま、小さく肩をすくめる。
「当たり前よ。どうせいまさら、良くも悪くもならないわ。こんなの、やるだけ無駄よ」
否定的な態度を見せる
「分かっているわよ、そんなことは」
「……ねえ先生。私が
静かな。けれどどこか
それは
「じゃあ、精々
そう吐き捨てて彼女が席を立とうとした、ちょうどその時のことだった。
「失礼しまーす。
気の抜けたようなのんきな声と共に医務室に入ってきたのは、
彼女の姿を認めるや
先程までの
「こ、
「あらら、どうしたんですか
ぱっと顔を青ざめさせると、
「それはいけません、いけませんよ先生! そういったことをご要望でしたらまず私に言って下さればよいですのに!」
何やら盛大な勘違いを垂れ流し続ける
すると
「ちょっと
「大丈夫ですか、
「ふみゅう……」
借りてきた猫みたいに大人しくなった彼女を抱いたまま、
「ダメですよ、先生。あんまり
気をつけよう、と私が返すと彼女はにやりと笑みを浮かべ、「分かればよろしい」と
そんな彼女たちの背中を見送りながら、私は小さなため息をついた。
A‐008、「
過去六ヶ月の訓練データでは白兵戦闘:クラスB。指揮能力:クラスA。
品行方正で思想上の問題点もなく、規律違反及び命令違反の実績なし。
保有
一点。一点だけ、彼女には問題があった。
問題点というのは──そう。
彼女が私を、ひどく嫌っているらしいということだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます