第28話 回復

回復   

     

6病室に入室した。


以前のナースステーションの横と違って、付き添いのベットが置けたので非常に助かった。


というのは前の病室は付き添いベットがなかったために、夜中の付き添いはずっと座ったままでしかできなかった。


途中で階下の待合室のベンチを使ったためなりゆきと一緒にいれなかったのである。


今度は一緒なのでそれこそ、一日中話しをしたり、食事をしたり、絵本を読んであげたりできるようになった。


最初は流動食だけであったが、2日ぐらいでおじやが出てきた。


入院後はじめての、固形物の食事だったのでおいしそうに食べていた。


「おほうはん、おいひいなあ」と喜んでいた。


ただ自分でまだスプーンが持てないため、ベットに横たわりながら補助しての食事であった。


このころになると、面白い話をすると、笑顔が見えだした。


まだ目はどこを見ているか定かではなかったが、意志やギャグが通じるのでこちらも話に力がはいった。


3日目になるとベットを少し上に傾け、半分起き上がった状態で、自分でスプーンを持たせての食事をした。


何回もスプーンを床に落としては拾いの連続であった。


やっとスプーンにおじやを入れて口に持っていこうとしても首がすわっていないために、口のはしから液体がこぼれ出た。


4日目くらいに、90度の角度でベットをおこしても、しっかりすわれるようになっていた。首はあいかわらずダランとしていたが、電車のおもちゃを動かしたりして遊べるようにはなっていた。


5日目くらいに、足の運動の効果があってか、自分で曲げのばしできるようになった。


このころは目の焦点もだいぶん戻ってきており、どこを見ているかがわかるようになっていた。


目の前の指の動きにもしっかりついてこれるように戻ったので一安心した。


横に付いている時は、百人一首を読んで聞かせてあげた、反復して読むので発音はおぼつかないものの、20首くらいは暗記できていた。


記憶力も問題なし。



小児科のボウリング大会があって特別参加させてもらった。


わたしがだっこしたまま、紙で作ったピンをボールで倒すのである。


全然検討違いの方向に飛んだが、看護婦さんが軌道修正して5本ほど倒れた。


ごほうびに紙で作ったメダルをもらってうれしそうであった。


一度大きな雷が病院の近所に落ちた夜があった。


病院内で停電こそなかったものの、これがあのポンプで治療している時であったなら気が気でなかったことであろうと思い感謝したものだ。


6日目、山口先生が車椅子を持ってきてくれた。

「すわれるようになったから、これに乗ってもいいですよ。廊下にでてもいいですよ。」

と言っていただいた。


初めての車椅子なので本人は結構うれしそうであった。


車椅子を押しながら、廊下やプレイルームといって遊ぶ部屋に行ったりした。


「おとうひゃん、そといこうよ」といってねだるので、看護婦さんの許可をとって、人口芝生のテラスを散歩した。


「あれ、おおさかいかだいがくってかいてあるよ」と、病院の壁面に書いてある文字を見ながらなりゆきが言った。


「漢字もわかるようになったんだなあ」と、おひさまがポカポカする中、非常にうれしかった。


ある日「スーパーウインチ」というラジコンカーのおもちゃをわたしの友人がお見舞いに持ってきてくれた。


これが今から思うと手先のリハビリによく効いたのであった。


手元のコントローラーで車の向きをかえたりバックさせたり、とにかく椅子やベットに当たらないように操縦するだけでもかなりの、手先の訓練になった。


文字どおりゲーム感覚なので本人も飽きる事無く熱中していた。



10月2日


プレイルームという子供か遊ぶ部屋でお月見会があった。


まだ正式に病室から出れないためなりゆきは参加できずであった。


雑菌への抵抗力がまだ足りないらしい。


私だけが参加して他の病室の子供たちがお月見団子を作って満月の空を見ながら自分の病気が良くなるようにとお祈りしている姿を見た。


「みんなが元気になってこの病院から出れるように」と私も真剣に祈ったものである。


一週間ほどしてから、正式に山口先生から、病室を出てもいいですよという許可がおりた。


これで大手をふって、プレイルームにいけるなあと喜んだ。


おぼえているのはこのころ、プレイルームのTVでは日本シリーズの「巨人対広島」の最終戦をやっていたことである。




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