第25話 呼吸機を外す



9月12日


空気の比率を酸素2、窒素3に変更した。


また一歩普通の空気に近づいた。


口の中の舌が、吸入パイプがよっぽど邪魔らしくてチロチロ動きだしたのである。


紫色の抗菌剤を塗られた舌がパイプの感触をたしかめるようにじょじょに活発に動きはじめたのである。


9月13日


空気の比率を酸素1・5、窒素3・5に変更した。


かなり普通の空気に近い数値だ。


そしてこの日の夕方、待ちに待った瞬間がついに起こった。


「ブファッ」とクジラが海面に出たときのような大きな音がしてついになりゆきが自分で息をしたのであった。


「やったあ!息をした!なーくんようがんばった、ようがんばったなあ、看護婦サン、息をしましたよ!」


看護婦

「本当ですね!よかったですねえ、先生をすぐ呼んできますので待っててくださいね」


山口先生

「本当だ息をしはじめましたね、よかったですねえおとうさん」


「ハイ!一時はもう呼吸しないでこのまま目覚めることなく、一生をすごす覚悟ができていました。よかったです。ありがとうございました」


なりゆきは息をはじめたとたん、手と足の動きが急に活発になりだした。


自分の呼吸のタイミングとは無関係にパイプを伝わって空気が送り込まれてくるのがよほど苦しいのか手足を、バタバタしはじめたのである。


足もこの時はじめてまともに動きはじめた。


両目がゆっくり開いた。


まだ焦点が合わなくロンパリのままであったがとにかくうれしかった。


「おはよう、なーくん!わかるか、おとうさんやで」泣きながら話し掛けた。


まだ目の焦点があわないらしくて、ボウッとしたうつろな目であった。


まだわたしを認識はしていなかった。


ますます口の中のパイプを取ろうと舌を激しくうごかしはじめた。


山口先生

「おとうさんたち、口のパイプをとる処置をしますのでしばらく部屋を出てて下さい」


2時間後

看護婦

「どうぞ、処置が終わりました入ってください」


ドキドキしながら、病室に入ったのを覚えている。


一番目についた口のパイプが取り外されたなりゆきがそこに横たわっていた。


また麻酔でねむっているらしく静かな寝息をたてていた。


かわって1か月間お世話なったポンプの「シューシュー」の音が消えていたのである。


「今のこの寝息はこの子の意志でたてているんだなあ」と思うと、なんだか全快したような気分になった。


「なーくん、パイプ苦しかったろ、もうないよ」

先生が言った

「さあ、今度は麻酔からさめて第一声になにを言うかですねえ」


ドキドキした。

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