コードサイン

@a0124635

第1話 コードサイン



ジュウウウゥゥゥゥ。。


肉が焼ける。うだるような暑さの中、肉汁が気だるそうに滴り落ちていく。

対照的に忙しく流れ落ちる額の汗を何度も拭いながら、

何の動物のものだかわからない肉を焼き続ける。


酒焼けした醜い声の労働者たちが、列をなして肉を買い求める。

「おい、早くしろ!腹が減って死んじまいそうだ」

「手が遅いんだよ、テキパキ動きやがれ!」

「オオモリ!シルダク!ソースダク!」

怒号に臆せず、列を乱す客がいないか注視し、冷静に対応する。

「うるさい、ロクデナシども。ルールを守らない奴には絶対に売らないぞ。おとなしく待っていろ。」


ジュウウウゥゥゥゥ。。


ため息が出る。




砂漠の町ベルンの夏の熱波は毎年何十人という人を殺している。

摂氏40度を越える暑さの中でも、焼いた肉はよく売れる。

それくらいしか食べるものがないからだ。ベルンは貧しい町ではないが、野菜・穀物をすべて他の町からの輸入に頼っているため、食事が高価になってしまう。


唯一、周辺の砂漠に住む獣の肉は貴重な食料である。餌になるような動植物は少ないにも関わらず、どこからともなく膨大な数の獣が現れ、砂漠に住みつく。その種類も

年々増しており、次々新種が発見されるため、狩人たちはその全てを記憶することをあきらめたという。何の獣の肉ともわからない肉が、狩人によって毎日大量に搬入され、消費しきれず腐ってしまうことも多い。


俺はそんな質の悪い肉を使った、貧乏人向けの料理店で働いている。

薄給できつい仕事だが、仕事を選んでもいられない。

ただ、客を適当に扱っても問題ない点は、俺に向いている。


もし10年前の俺が

10年後自身がこんな仕事をしていると知ったら、

声を上げて泣き喚くことだろう。



「おいゼン、調子はどうだ?仕事の方は問題ねえか?」

裏から店長が戻ってきた。今日は腰の持病が悪化したため、店を俺一人に任せて病院に行っていた。もっとも仕事中に勝手にいなくなることはしょっちゅうなので、いつも俺一人で店を営業しているような状態だった。要するに、テキトーな人だ。


「今朝、ルールを守らない二人組の客がいたので、注意したら殴られました。昼にはこの前食い逃げした客が性懲りもなくまた来たので、警察に引き渡しました。

あと、、」


「あー、もういい、わかった。うまくやってればそれでいいのさ。

 それより、俺の腰がこんな調子だから、今日の仕入れをお前に任せる。

 手順は覚えてるな?」


「ええ、しかし、交渉まで俺がするんですか?」


「いいや、交渉はもう済んでる。お前は肉を運ぶだけだ。

 もう約束の時間は過ぎちゃってるから、早く行ってくれ。」


「は?今なんて?」


「場所はいつもの市場の奥、狩人はサリトロさんだ、急げ。」



呆れる俺を追い立て、店長は厨房に向かっていった。


店長はテキトーが過ぎる。それについては間違いない。

しかし、、、

怒りを抑えて、行きかう人でいっぱいの大通りを駆け出した。

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