第11話 リガールの街④

窓から照らされる太陽の光が、部屋の周辺を明るく照らす。海沿いのしょっぱいような潮風が鼻をすぅっと通る。

青い髪を肩くらいに整えた短さをしている。青色のシャツの上に袖のない黄色のトレンチコートを来ており、白いスウェットパンツを身につけている。

春花は体を起こすと既に起きていた秋斗と智也が朝食の準備をしていた。春花が起きたことに気づいた秋斗が朝の挨拶をする。

「おはよう春花!」

「おはようお兄ちゃん」

続けて台所にいる智也も気づく。

「春花おはよう」

「おはよう智也」

春花はベットの直ぐに置いてある茶色のブーツを履いて四角いテーブルに設置してある椅子に腰かける。

「なんだか色々あったね」

春花が珈琲を飲んでいる秋斗に言う。

「まあな。この大陸でも帝国の影響があるってひしひしと感じたぜ。大陸渡ったらもっと帝国の攻撃が過激になるだろうな」

「うん、けどホッカイドウは楽しかったな」

「飯がまず美味しかった、流石海鮮を中心に栄えていただけあるわ」

そう、今まで春花達が旅をしていたこの大陸は旧・ホッカイドウ地方であり、本土と離島としての姿だったが、前世紀の土地が歪んだり急激な地盤沈下等で現在はトウキョウが離島のようなものになっている。現在のホッカイドウと言っている場所は本土とくっついた一部の地域として扱われている。

帝国は除外されたトウキョウに隔離都市を築いて兵器の開発や本土への侵略を繰り返している。

「またここの地域に来れるかな?」

「飯はうまかったけど、アテムで嫌な思いしたからな。リガールとセト村には帰ってやってもいいけどな!」

「アハハ、まだお姉さんのこと覚えているんだ」

「当たり前だろ!ゼシカちゃん元気にしているかなぁ〜あははははは!!」

「朝からキモイぞ秋斗。あとジェシカじゃなかったっけ」

「あれ、そうだっけ?ジェシカちゃんも可愛いけど、ここの宿屋の受付人も相当可愛いぜ!」

「お兄ちゃんは長髪が好きなんだね.......」

「ひっ!!春花、違うんだ!俺は誰よりも春花のことを愛している!!」

「春花、秋斗の分もしっかり食べるんだぞ」

「わかったそうする」

「やめて!わたくしにも食べさせて!」

朝の騒動は平和の証拠でもあるかのように、春花達は朝食の時間をゆっくり味わった。きっと、この先安心してご飯を食べられないと思うと、不思議と一つ一つのやり取りやご飯が大切に思えてくる。春花はそっと笑みを浮かべてご飯に手をかける。

「美味しい.......」

小さく呟いて日頃からお世話になっている秋斗と智也に心の中でお礼を言う。


ーこれからも、一緒にいたいな。ー






リガールに大きな船が浮かばれていた。帝国側への資材や食料を積んだ船に多くに人間が乗船している。春花達もその一員で、客室の部屋で密かに過ごしていた。

「外はまだ変化ないようだ。このまま帝国側の大陸に渡れそうだ」

「そうか、一応帝国の人間がいるかもしれねえ。船が安全でもあまり顔を外に出すなよ。」

現在春花達は深くフードを被っていた。帝国行きの船は安全を考慮して全ての荷物確認が義務付けられているため、リガールにも帝国兵が何人かいた。

リガールとアスタリスク帝国は互いに貿易国としてやり取りを行っているため、帝国側も無闇にリガールに攻撃できない。

しかし、英雄の子孫であり指名手配として帝国に追われている春花達がいればどうだろうか。総動員を動かして春花達を取り押さえるだろう。

だが、先日春花達は住民を死骸から救った借りがある。春花達とリガールの住民は互いに顔を合わせていても帝国に売るようなことはまずできない。リガールの民は比較的平和を望む人間が多く、争い事が起きるようなことはないはずだ。

「このまま安全にシトラス城に行けたらいいんだがな」

「それは問題ない。シトラス城は途中で寄る場所で、終点がアスタリスク帝国城になっている。この船が一番最初に訪れる場所はシトラス城だから安全ではある」

「窮屈なのは出発までか」

「ああ、そうなる。だが船内にも帝国兵がいるかもしれない、注意を怠らないでくれ」

「どこいっても自由はないのか」

「みんなを守るためにも早く帝国を倒さないと。」

「その前にやることがある。新しい武器が必要だ」

「ん、どういうことだ?」

秋秋斗智也に問出した直後に船が動き出した。

「出航か、新しい武器は剣や斧なんかじゃない。武力だ」

「俺らが人集めて帝国と殺り合うのか?」

「マーグレットの話だとシトラス城には腕の経つ騎士団があるらしい」

「本当にマーグレットって何者だ?」

「敵の情報は持っていて当たり前だ。だから真っ先にシトラス城に行ったんだろう。その騎士団はそれぞれ魔力はないが戦法も近接的でしかも死骸との戦闘は前線で負傷者も抑えているほど実力は確かだそうだ。百戦百勝にして闇の力を光り輝く聖剣にて沈める、白薔薇騎士団。王の護衛団でもあるらしい」

「王の護衛か.......シトラス城の王はどういう人なの?」

「穏やかではあるが、共に騎士団と前線で戦っているらしい。」

「待て、王も戦うって!しかも前線で」

「過去にマーグレットは前線で戦うシトラス城の王を見たことがあったらしい。あまりの刺激で当時の記憶はうろ覚えだそうだ」

シトラス城の王の凄さに驚く春花と秋斗は唖然していた。通常王や軍の上層部は拠点か後方等安全な場所で兵に指揮をとるが、どうやらシトラス城の王は積極性が高く白薔薇騎士団と同様強いらしい。

「なんだが会うのが怖くなってきた。いきなり首切られたりしねえかな。アテムの町みたいな展開になったら終わるな」

「少しでも軍事力が欲しいんだ。いくら英雄の子孫が嫌われようが招き入れるはずだ」

秋斗は納得がいかないように不安な顔だ。

話し合いをしていると朝まで踏み入れていた大地が既に地平線によって消えていた。船はゆっくりと左右に揺られながら走行している。海には数多くの魚が並行して泳いでおり、空には鴎のような鳥が飛んでいる。

しばらくの沈黙で部屋の窓から外を眺めていた春花は立ち上がる。

「ちょっとだけ外の様子見てくるね」

「それなら俺行こうか?」

普段率先しない行動に秋斗は春花に問う。

「ううん。大丈夫」

春花は小さな客室から退出し、狭い道が続く廊下を歩く。船の甲板を出るには左右に設置された出入口の扉から出る必要がある。春花は船の揺れに持っていかれないよう足に力を入れながら扉を目指す。

人通りもないせいか扉はすぐに見つかり、すんなり外へ出ることが出来た。扉を開ければ心地よい潮風が頬を伝い、青い海と青い空が春花を出迎えてくれる。

甲板には多くの乗客や作業員、帝国兵が海や空を眺めて団欒と過ごしている。春花も広い甲板に足を運んで、目の前の光景に集中する。


お父さん、私みんなと一緒に帝国と戦うんだ。お父さんの仇を絶対とる。だから、待っていてね。


父・瑞島槙侍に想いを伝える春花。するとふと帝国兵二人の会話が耳に入ってくる。

「最近帝国の方針ってどこか妙じゃないか?」

「お前もそう思うか?指揮官や上官は全員本部の方に付きっきりで連絡できないし、俺ら自信が動かないと仕事ないって」

「だよな、俺兵士やめて農家でもやろうかな」

「お前知らないのか?食料や商品や芸術品等が帝国兵が回収しているらしいぜ。どうやら腐魔研究に使うらしいぜ」

「まぢかよ、帝国から抜け出そうかな」

「となると思って調べたら、内部関係者だけじゃなく街の住人まで帝国領域外への出入りを禁じているらしい」

「それ本当か?どうして俺たちにまでそれを報告しないんだ」

「さあな、上の考えていることはわからん。ただ、世界征服や魔獣開発やらとんでもないことを企てている噂があちこちに上がっている」


帝国兵の二人の話が本当なら、帝国内部で情報の枯渇が発生していることになる。もし、今私たちが攻め入ったとしたら、帝国側はそれを対応することは出来るだろうか。もし、出来なかったら、帝国内でふんぞり返っているお偉いさん方を根絶やしにすることが出来るかもしれない。お兄ちゃんたちに伝えに行かなきゃ。


春花は話をそっと持ち帰るように客室に戻ろうとした。しかし、春花が甲板に出てから船が一向に動いていないことに気づく。その刹那、誰かが大きな叫び声を耳で聞いた。

「あのでかいのはなんだ!?」

男性が空めがけて指を指していた。その行き先に目をやると、毒々しい色を身にまとった巨大な蛸が甲板に体を預けていた。

乗客や作業員たちは悲鳴をあげながら逃げ場のない船内を駆け巡る。春花はすっと腰に着けていたレイピアを抜く。

「私が相手です」

「ニンゲン…ゴトキニ…クライツクシテヤル」

春花は猛スピードで蛸の魔物めがけて走り出す。レイピアを光輝かせて蛸の胴体を突いた。しかし、弾力性が非常に高く、その剣もろとも弾き返され、春花は大きく尻もちを着いた。


硬い。ただのタコじゃないのは百も承知。だが、決定打がまったく無い。魔法で焼き殺そうにも智也しか炎魔法を使えないし、お兄ちゃん並みの力は私には無い。私が使えるのは細々としたレイピアに槍、風魔法だけ。みんなを呼んでいる時間もない。こういう時、お父さんはどうするだろうか。

春花は様々なことを考え出す。しかし、魔物はそれを許すはずがなく、触手を大きく振りかざし春花を叩きつけ、さらに吹き飛ばすように弾き飛ばす。

「っがはぁ!!」

壁に大きくたたきつけられた春花は肺の空気を一瞬で失い、酸素を求め荒く呼吸をする。一瞬の迷いが敵に攻撃チャンスを与えてしまった。

今ここに戦えるのは私しかいないんだ。なら、私が戦うしかない。ここにみんなが来る時間稼ぎにはなる。

春花は無理やり立ち上がり、すぐにレイピアを構えて再び蛸めがけて走り出す。

「百連突貫!!」

レイピアを疾風のごとく何度も蛸の胴体に貫くよう突き出す。しかし、結果は変わらず、傷一つ付かないまま再び触手によって薙ぎ飛ばされる。

「くっあ!!」

荒々しい呼吸は止まらず膝をつくが、勢いに任せてすぐに立ち上がる。そのまま駆け出し魔法を詠唱する。

「風魔法・ウィング!!」

小さな竜巻が刃を持って魔物に襲いかかるが、弾力性の防御力では傷を与えることは出来なかった。

「どんだけ厄介なの。今度は一閃突き!!」

素早くレイピアから槍に持ち替えて魔物の懐目掛けて一閃を貫くが、やはりゴムのように弾き返される。春花はバックステップをして、降り注ぐ触手の降下攻撃を交わして、物陰に隠れる。

「あいつに少しでも傷を与えられる決定打があたしには持っていない、どうすれば」

遠距離で戦えば長い職種によって振り飛ばされたり叩きつけられたりし、近距離で戦っても攻撃そのものが効かない。容姿的の死骸や腐魔では無いが死骸対策用の技を使ってダメージを与えることも出来る。

春花はすぐさまレイピアに光の力を送り出す。レイピアは閃光のように白く輝き、より鋭さを感じる。幸い今日は晴れ。太陽の光が剣の光を吸収して力を蓄えている。これなら戦える、そう確信した春花は魔物に再び警戒しつつ、戦いの構えをとる。

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