第9話 リガールの町②-アスタリスク帝国城(Empire Ver.)①
「力を求めるな。」
一瞬、智也が言ったことがわからなかった。私が力を求めている?確かにジャルハヴァクが言う6神を求めていたが、いやリガールを襲っていたギルヴァルドに向かってドスウィングを放とうとしたのは事実だ。
「力を求めれば己の自我を失う。そうなれば、敵に隙を与えているのと同じだ。」
「けど、さっきの死骸は──」
「ああ、さっきの死骸は確かに普通のギルヴァルドとは違った。だが、中位魔法すらできなかったのに、上位魔法をやろうとしても、詠唱できるわけないだろ。」
「!?」
途中で遮られて指摘された。元々春花が唱えることあできる魔法はウィングだけだが、リガールへ向かう途中に現れた腐魔に対して2段階上の上位魔法・ドスウィングを詠唱した。その間をとって中位魔法のアルウィングを唱えたのか、不発に終わっていた。
「慢心すればあいつらの思うつぼだ。それじゃ帝国には勝てない。」
智也の言葉一つ一つが重くのしかかっていく。全てだたしいことだ。心のどこかで力を求めていたのかもしれない、父の仇のために。世界の平和のために。
「早めに気づけてよかったな、感謝したまえ僕に。」
「ありがとう、智也。」
「んじゃ、せっかく港町に来たんだ。観光でもしねえか!」
秋斗が張り切って立ち上がったところに、ドアが思いっきり開いた。
「大変だ!海門にも死骸がいるぞ!」
頭にバンダナをまきつけ、白いタンクトップの男は叫ぶ。
「ハハ、ですよね。」
秋斗が呆れ返って斧を持つ。男は混乱しているのか秋斗に抱きつく。
「どうか助けてくれ!」
「おう、今行くからな。」
3人は顔を合わせて頷いて、部屋を出る。
海門はリガール最下層に設置された浅橋の向こう側に位置する大きな門だ。船での貿易時に海の魔物や海賊が町に侵入するのを防ぐ役割を持っている。時折暴走した帝国から守る時もあったそうだ。
秋斗達が浅橋にたどり着いて近くにいた男性に問う。
「おい、海門に行くにはどうすればいい。」
「船で海門の中に入るしか方法はないです。」
「よし、今すぐ船を出せ。俺らが船動かして死骸駆除をする。」
秋斗がとんでもない提案をする。秋斗に船の運転ができるとは思えないが、必死に男性から船の操縦方法を学ぶ。
智也と春花は船に乗り込んで、戦闘準備をする。
「春花......。」
「うん、もう大丈夫。ありがとう。」
さっきまで慢心を抱く寸前だった春花は、先程までと違って目の前のことに集中していた。
すると、船が突然動きだして、海門に向けて走り出す。船が動いたことを確認したのか、海門の扉がゆっくりと動き出す。鈍い音をたてながら門が開く。中からは死骸の特徴である赤紫色の目の光が輝いていた。
智也がいきなり立ち上がり銃を構える。そして、銃口を海門の中に向けて発砲する。
「二重効果・ホーリーレイ!」
放たれた先には死骸がいなかったようだ。しかし、海門の中を明るく照らすように、ホーリーレイの光の玉が太陽のように輝く。
「今だ!全速力で船を走らせろ!」
「了解!」
智也の合図で加速する船はあっという間に海門の中に潜入する。
死骸はジャドが30体、ギルヴァルドが20体、マシュマリウムが50体、シャークが30体と下位死骸が戯れていた。
「こんなにいるのかよ!多いな!」
この狭い海門の中に死骸が各種20体以上が密集していた。流石に長期戦は免れないであろうこの状況に、更なる悪夢のような存在がいた。
「おいおい、奥にいるのって中位ランクの死骸じゃねえか!」
下位級の死骸の奥に、オークのような筋肉質で巨大な体を持ち、両手にはそのからだと比例する大きさの斧を持っている死骸・ガルメリカが10体いた。
「ハハハ、中位死骸が10体もいやがる。流石に今回はきつそうだぜ。」
秋斗が顔を引きつりながら言う。
「まずは下位級をなんとかしようか。」
春花がそう提案して、各々死骸対策用の技を繰り出す。
「二重効果・ホーリーレイ!」
現在船の周りにいるのは下位級のジャドがまとまっていた。智也の閃光と増加の二重効果が付いた弾丸を連続で20発を発砲して、100発の輝く弾丸が死骸を貫いて、次々と死骸を灰に変える。しかし、攻撃を読んで避けた死骸が何体かいた。
「そこまでっ!一閃突き!」
智也の弾丸を避けるために跳躍した死骸には春花の一閃突きによって灰になる。秋斗も続いて斧を振って死骸に攻撃する。
「くらいやがれぇ!ライトブレイカー!」
斧が光り輝きジャドを左右半分に切り裂いて灰にする。春花達は大半の死骸が消えて足場ができた頃を見計らって船から飛び降りて、残りの死骸と戦い出す。
「智也の銃って意外と役立つな。」
「何のために改造していると思っているんだ。後ろからの魔法同様、より戦闘にサポートできるように工夫を加えている。」
当然のことだろと言わんばかりの顔で智也が返す。そして再び広範囲に弾丸が行く増加+閃光のホーリーレイを発砲する。
「まだ行くぞ、ホーリーレイ!」
小柄なジャドは1発当たっただけで灰となり、ほとんどは図体が大きいギルヴァルドと空中をさまようシャークだけとなった。
「君たちには刺激が強いやつをあげよう。閃光と強化弾の二重効果・ホーリーレイ!」
智也は即座に弾丸を変えて5回発泡した。強化弾は通常の威力の5倍と回転数が増した弾丸で、ギルヴァルドの筋肉にいとも簡単に入って爆発して灰になる。
「下位級は僕に任せて、春花達はガルメリカを頼む!」
「わかった!」
智也は2人に中位級の死骸を任せて、1人銃と杖を構えて下位級の死骸の群れを前にする。
「さて、君たちの相手は僕だ。」
「ギシャアアアアア」「ギャアアアアアア」「ウグボオオオオオオオオオオオオ」
各死骸の特徴的な声が聞こえる。どの声も聞いていて不愉快と感じるものばかりだ。どうしてこのような生物が生まれてきたのかと不思議に思う。
「一気に終わらせる!!四重詠唱、アルファイア!!」
智也は杖先から炎の塊を4つ出して、杖を振って死骸の群れに放り込む。炎は真っ先に死骸の方へ飛んでいき爆笑する。残っているジャドは全て灰となった。残るはギルヴァルドが五体とマシュマリウムが三体、シャークが8体だ。
「二重効果・ホーリーレイ!」
智也は左手に持っていた銃を構えて、マシュマリウムに向けて発砲する。放たれたホーリーレイは増加弾の効果で30発に増え、ゼリー状の体をもつマシュマリウムはすぐに弾丸が入り、次第に輝き出して白く爆発する。
「残りはギルヴァルドとシャークだけか。四重詠唱・アルアイス!!」
今度は智也の頭上に氷の槍が4つ出現してシャーク目掛けて発射する。
「甘い!!」
智也は透かさず放たれたアルアイスに発砲して、粉々にした。目の前で氷が粉砕されて何事も無かったことに驚いたシャークは首をかしげている。しかし、シャークは次第に小さく灰になっていき姿を消していく。
「氷全てが消える訳では無い。小さな刃となって、その鱗の隙間に傷を与える。さらに弾丸には閃光弾が入っているよ。」
遅れて閃光弾が輝き出して周辺を明るく照らす。眩しいのか目をそらすような素振りを見せるギルヴァルドに向けてホーリーレイを10発放つ。
「二重効果・ホーリーレイ!」
今度は強化弾を加えた二重効果でスピードと威力が上昇した弾丸だ。各ギルヴァルドに弾丸が命中して次々と灰になる。偶然当たらなかったギルヴァルド一体は悪足掻きで鋭い爪を智也に降りかかる。
しかし、その動作をしっかり見ていた智也はタイミングよくバックステップをして魔法を詠唱。
「二重詠唱・アルライト!」
ギルヴァルドの周辺に光の玉がふたつ現れて爆発する。爆発に飲まれたギルヴァルドは、輝きが収まった時には姿がなかった。
「本当に役に立つな。」
己の開発の良さに改めて強さを自覚する。いずれ1人で死骸退治ができる時代ができるのではと自惚れしてしまう。
日本国の中央部に位置する旧トウキョウ。円を描くような巨大な隔離都市、アスタリスク帝国城では、死骸の確保と大陸の前進、解放軍の対峙、腐魔の開発と様々な業務を行っている。
今や世界を轟かせているアスタリスク帝国では、最強の四戦士であるデストロイヤーが帝国軍の指揮を行っている。
昨日リガールに死骸を送り込み、リガール近辺の封鎖の準備を行ったデストロイヤーの剣の使い・ノア・フォルグは、帝国城の冷たい通路を歩いていた。目的地はこの通路の奥にある次期国王であるスタイナー・メルクがいるであろう一室だ。リガールへの突入準備が出来たことを報告するためだ。既に空中艦隊には何体かの腐魔を備えさせていた。
目の前に王子の部屋の扉が見える。この中に入れば、再び殺し合いが始まる。毎回王子に報告する度に胸を痛めるフォルグは、意を決して思い扉を開ける。
「失礼致します。アスタリスク帝国、北大陸の支部、デストロイヤー、剣の使い・ノア・フォルグでございます。」
「入りたまえ。」
私の言葉に反応する男は銀髪の頭を全て後ろにやり、アスタリスク帝国を尊重する衣装を身につけ、椅子に腰掛けている。
「リガール地域の市街の送りを終え、リガールへの突入準備も終えております。」
「そうか。」
スタイナー・メルクはそう答えてしばらく考える素振りを見せる。私はその行動に、何かしてしまったのかと恐怖する。
「先日、アテムへの襲撃で壮大な被害を受けただけでなく、1人の我が兵が行方をくらませたそうだな。」
多くの兵をアテムに向かわせ成果をあげることが出来なかったことはこの男にも情報が入っていた。この被害はフォルグ自身も驚いていた。なにより驚いたのが、たかが1人と見捨てて戻った別のデストロイヤーから聞いた話だったが、まさか王子にまで情報が行っているとは思わなかった。
「大変申し訳ございません。至急捜索願を──」
「構わんさ。どうせ解放軍を展開しているシトラス城に向かったのだろう。いずれシトラス城にも攻め入る、その時に殺せばいい。」
「よろしいのですか、我が国の情報が敵国に渡ってしまっても。」
「言っただろう?構わんさ。我々が何を企んで世界に攻め入っているかなんて、他の地域に知れ渡っているだろ。」
スタイナー・メルクはニヤニヤと悪巧みをしているかのように呟く。
「それに、リガールは捨てておけ。死骸の群れにリガールの住民に太刀打ちできまい。いずれ無人の廃町になるだろう。」
何を言い出したのかがわからなかった。せっかくリガールへの突入準備を徹夜でしたのに、結局突入はしないということか。
「それより、ゲルツのことだが、情報は貰えたのか?」
スタイナー・ゲルツ、我がアスタリスク帝国を収めている国王の名だ。メルクから直々にゲルツについての情報を集めるよう頼まれていた。
「はい、スタイナー・ゲルツは各地を帝国に収め、腐魔開発用の敷地を増やすこと。そして、次期国王の名はスタイナー・メルク様に捧げると、元老院は仰っていました。」
「そうか、私の時代は近いか。ならば、黄金竜の力を手に入れなければな。ノア・フォログよ、私と共に破滅の社へ赴くぞ。」
「私とですか!?」
この部屋に来て驚かされてばかりだ。私の肩書きであるデストロイヤーは、帝国の上位幹部、国王や王子、元老院を護衛するための組織でもあるため、面識は普通の兵士より多いのだが、王子直々に外出とは滅多にない。王子が幼い頃はよく一緒になって遊んではいたのだが、王族としての責務を果たすようになってからは、しっかりと地位を差別するようになった。
「昔は共に外に出て遊んだではないか。何、力を得るだけだ。君も、黄金竜の力とやらが欲しくはないか。」
「私は.......。」
口篭る。力は欲しい。しかし、この者が考えていることがわからない。一体なぜリガールの突入をやめて私と社へと提案したのか。私はこの男の考えが恐怖で仕方がない。きっと、この男は何か別次元のことを数多く考えているのだろう。おそらく、この男が王となった時には、アスタリスク帝国のゆく道は変わり世界を束ねるのだろう。世界最高の支配者となるに違いない。
私は彼の鋭い目付きをした眼差しに目をやり答える。
「御意。」
私は王子とともに、破滅の社へ行くことを決意した。
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