MESSENGERⅡ 〜龍神に選ばれし子孫〜

黒鐵桜雅

第Ⅰ章 勇者の末裔と帝国の進軍

第1話 セト村

30年前、新の光の勇者・瑞島槙侍が因幡黎と対立し世界は平和を取り戻したかに見えたが、運命はそれを許さなかった。

運命の歯車は止まったのではなく動き始めたのだ。因幡黎を倒したと共に、日本はどこからともなく光の光線を受け大爆発の祭りだった。崩壊しかけていた日本にトドメを刺されたのだ。

これは因幡黎の策略ではなかった。大天空城にいた瑞島槙侍と椎名愛里沙はその報告を受け酷く絶望を味わうことになる。

日本がさらなる崩壊への道を断つために再び旅に出る彼等だが、圧倒的な敵の数に太刀打ちできなかった。新の光の勇者は日本中を覆い尽くすほどの数の魔物を相手に名誉の死をされた。それは椎名愛里沙も同様だった。





現在MESSENGER2世紀では新たに魔王軍と名のつく組織が現れ、街や村を襲っては人を虐殺すると耳に入れたくない話がある。その中に何人かは人間も加担しており、自分の命を守るため魔王軍に働き入れたのだろう。

もはや地球規模で破壊のターゲットとなっている。

ある時、町中にある噂が広まっていた。それは人間が龍の力を宿し魔物と対峙する姿。龍の力を操る6人の勇者、新たな救世主の誕生かと人間達は希望に満ち溢れていたが、彼らが現れることは無かった。





もし運命が決まっていたとして、君たちはあらゆる選択肢に対して、どちらも結果が悪影響を及ぼす場合、選択する行為を諦めるだろうか。どんなに抗って選択しようとも結果の具合は変わるが、行き着く先は変わらない。矛盾だらけの世界にどれほどの人間が苦しみ考えたのだろう。

私の名前は紅井春花、短くまとまった青い髪で水色のシャツに黄色いロングコートを羽織っている。そして茶色いブーツに背中に銀色の剣を背負っている。両親は既に他界していて、誰に事情を話しても信じてはくれなかった。この世界を1度は救った瑞島槙侍と椎名愛里沙の娘だと言うこと。

それでいて似ても似つかない青髪はサラサラと風になびいて揺れている。

「待たせたな、買い出し行ってきたぞ春花」

「お兄ちゃんありがと。」

彼は私の兄の紅井秋斗、兄はお父さんに似て細い体をしていて食事をまともにしていないような細さだ。筋トレをしているから力は大丈夫だと言っているがそういう問題じゃない気がする。

そんな私たちの面倒を見てくれるのが彼、稲垣智也。

「兄妹揃って相変わらず仲がよろしいようで、勇者の末裔。」

「何を言うか、仲が悪いよりかはいいだろう。さ、飯を食べよう。今日は肉だぞ、春花沢山食べるんだぞ。」

「春花さんより秋斗、お前が食え。」

「流石に1日2食はダメだよ。いざって時に戦えなくなるよ。」

「ハハハ、春花に心配されちゃ兄失格だなおい!」

「自覚あるならさっさとその肉の5割は腹に溜めておけ。」

「仕方ないな、春花を守るためなら食費なんか怖くない。」

「春花さんよこんな兄で大丈夫か?僕はとても心配でしょうがないんだが。」

智也はすごく心配そうな顔でこちらを見つめる。兄は何事も無かったように料理をする。

今私たちがいる場所は村から少し離れた場所にある山の空洞の中、つまり野宿の最中である。

「すっかりここも馴染んできたな、最初はここを標にするのが嫌だったが。」

「つべこべ言わずにたまには料理を手伝え。春花よ今日は何味がいい。」

「わかったよ、あと返答権を僕にもくれないかい。理不尽極まりない。」

「俺の料理食うんだ、よそ者の意見なんざ聞かんよ。」

「手伝わないぞ」

「あーん、ごめんごめん聞くから聞くから本当に旅路の準備しないで!!」

「あたし照り焼き味食べたい」

「「了解した!!」」

馬鹿な男どもである。妹思いでありながら常に妹を笑わせようと務めてくれ料理はずばぬけて上手く、小さい頃からずっと食べてきた。智也は兄の制御役で私たちを取り締まっているサポート役だ。もちろん女性との関わり方も素晴らしい。

春花はそんな仲がいい二人を見ているだけで幸せだ。ずっとこのまま一生を終えられたら良いのにと思うことさえある。しかし、現実は甘くない。私たちに降りかかる使命がその証拠である。

今や帝国と化した魔王軍は私たちを指名手配犯として位置づけている。

「そういえば、村になにか異変はあったのか。」

「いや、特になかったな。相変わらず指名手配の紙が貼られたままで、帝国にこれといった動きはない。そんなことより肉屋の女の子!!ジェシカちゃんって言うんだけど可愛かったなぁ〜!!」

「そのジェシカちゃんは置いといて、帝国は汲まなく僕達のことを探すことだろう。いずれここにも帝国がやってくるはずだ。早いに越したことはない、明日の明朝ここを出る。証拠は全て消すぞ。」

ジェシカちゃんと嘆く兄は放っておいて、私と智也は今後の旅路について話していた。兄は鼻歌を歌いながら肉を焼いていた。

「いくら勇者の末裔でも無理は禁物だ。なるべく戦闘を最小限に抑えて次の安全地帯へ行くぞ。」

「わかった、けど回復薬がそろそろ切れそうだからまた村に行かなきゃ。買ってきてもらえばよかった。」

「3人同時に村へ行くのは危険がある。かと言って離れ離れになった時のリスクもある。ここは前者を取って明日調達するとしよう。僕も村の様子を見てみたい。帝国がどこまで潜んでいるかの情報も集めておきたいしね。」

「お前ら食事の前に難しい話をするなよ、食事はみんなで楽しくやるものだ。」

「逆にお前は危機感というものを覚えて欲しい。いつどこから帝国が攻めてくるかわからないんだぞ。」

「だが食事時は楽しまなくちゃ、体も休まらん。」

「それもそうだね、お肉焼けた?」

兄の野太い声の返事を聞いてそれぞれ食事の準備をする。明日はまた旅に出る。兄が作った照り焼き味の鶏肉にかぶりつく。いつになったら安心した食事ができるのか脳裏に浮かべながら、私はこれからどうするのか考えていた。


出口から明るい光が差し込んできて目が覚める春花は2人を起こし旅の荷物を背負う。

「よし、焚き火の跡も消えた、忘れ物はないか?人間がここにいた証拠を絶対に残さないでくれ。」

智也が言い、忘れ物がないかくまなくチェックする。

「よし行くか、まずはセト村だな。そこで薬や食材等の買い出しを行う。」

「ジェシカちゃーーーー」

「ジェシカちゃんの肉屋は所持金に余裕があったら行くとして、優先は薬と食材...特に野菜だな。昨日肉だけだから栄養の偏りがないように。」

智也は秋斗の口を塞いで説明を続ける。

「あんまりじゃないですかねー、肉……」

「お前は肉じゃなくてジェシカちゃんに会いたいだけだろ。」

「もちろーーーー」

「さ、早く行かないと村の人も活発になるからね。」

春花は秋斗を無視し先陣を切る。秋斗は涙を流しながらとぼとぼ歩く。

3人は眩い光をくぐり抜け外に出た。東から照り付ける太陽の光は心地が良く、この大草原に見合っている。3人は春風とともにセト村へと目指すのだった。





私達は約1週間ほど滞在していた標を去り、標から北に位置するセト村を目指す。ここは日本でありながら約30年前まで技術が発達していた場所とは思えないほどの荒れ果てたとである。

現在は道なき空間で草原で埋め尽くされている。そして30年前から生息している魔物も存在する。今は日本を崩壊に導いた主原因であるアメリカ政府が各魔物の生体を研究し名称をつけた。

蝙蝠型で大きな目がひとつあり、まるで鰐のような硬い革で覆われた緑色の魔物は「パクト」、そしてまるでスイッチ型照明のような円盤型の魔物は「アガリア」と今では各魔物に名前がつき判別しやすくなったが、未だ真新しい魔物は出続けているらしい。

それも帝国の影響でより強固な魔物が生産されているらしく、初代光の戦士を討滅するくらいの実力だ。

現在紅井達が目指しているセト村はおそらくサイタマケンと言われた場所だろう。紅井達は軽快な足取りでセト村を目指すが、魔物に見つかっては撃退していた。

「はいはい、またパクトのパタパタちゃんのお出ましだぜ。」

「みんな行くよ!」

もちろん草陰やら上空やら地中やらからいきなり襲ってくる時もよくある。

春花は鋭いレイピアを取り出し秋斗は柄が長い斧を取り出し智也は小さな杖を取り出す。春花と秋斗は近接で攻め智也は後方からサポートし攻撃するタイプだ。

春花の素早い剣突で魔物を追い込みその隙に秋斗が斧でぶった斬るのがいつもの戦略だ。逃した魔物は智也が魔法のファイアで焼き尽くす。

「なんか魔物の相手も慣れたな。」

「最初は全員ビビりながら戦ってたもんな。」

「しょうがねえだろ、あいつら本気で殺しにくるからよ。」

「それに対してあんたらの父さんは魔物を連れて旅した時もあったそうじゃねえか。」

「よく考えたら良い魔物だったのかもな。」

「何言ってんだ、魔物は人間や動物の憎悪が生み出したものだろ。可哀想だがしっかり殺して成仏させないと。」

「うん、そうだね。」

魔物は死んで行ったもの達の憎悪や思念、絶望などの感情に執着してかつてのガイバオ塔が生み出したもので、帝国はさらに人間を腐らせて魔物にした腐魔として開発を続けている。いずれにせよ帝国が行っている腐魔開発政策と侵略行為を止めないとどんどん人が殺されるだけだ。

「魔物と相手するのはいいができれば夜までにセト村を出て標を確保したい。夜には死骸が出るからな。」

死骸とは夜に出現する魔物のことで腐魔とは違って自然が生み出したゾンビのようなもので同じように人を襲うが光には弱い。また感染する可能性もあり、死骸に攻撃されたり噛まれたりすると死骸になることもある。

「それなら雑談してないでいくぞ。春花大丈夫か。」

「うん、大丈夫。」

一行は武器をしまい再びセト村を目指す。





セト村は非常に小さな村で人口も50人くらいのもはや集落のような場所だ。しかし、村の中心に位置する広場で人が集結していた。

「何かあったのかな。」

「昨日までの暖かい雰囲気じゃないな。」

昨日秋斗はセト村で買い物をしに来ていた。そのため村の雰囲気は知っているのだが何やら険悪な雰囲気だ。すると智也がセト村周辺の様子を見てくる帰りだったのか険しい表情でやってくる。

「大変だ、アスタリスク帝国の空中艦があった。おそらく村人が捕われているのは帝国が占領しているからだろう。」

「どうして帝国がここに·····。」

「答えは腐魔の材料調達や俺らの身柄確保の情報収集だろう。いずれにせよ村人が危ない。どうする、このままここを立ち去るか攻めるか。」

「村人を見捨てられないよ、助けなきゃ。」

「さっすが我が妹だ、おい智也!春花がこう言ってんだ攻めるぞ。」

「ふっ、わかったよ。合図とともに攻めるぞ。」

智也の指示に従って春花は東側、秋斗は西側に移動する。そして智也はファイアを空中にはなった瞬間、春花と秋斗は村の中に入る。偶然ファイアにつられてやってきた帝国軍兵を春花はレイピアで一突きで胸を貫く。続いてそれに気づいたもう1人の帝国軍兵を秋斗が後ろから斧でぶった斬る。その隙に智也が村人の安全を確保するためにブバリアを発動した。ブバリアは物理専門の障壁だ。守る対象が小規模の時に使う魔法だ。

騒動に気づいた帝国軍は一斉に襲いかかってくる。

「さーって、久しぶりに手応えがある奴らの相手だぜ!」

「羽目を外すなよ秋斗!」

「元気があっていいね。」

それぞれマイペースなのかさほど恐怖感はなかった。次々と帝国軍兵は倒されていきしまいには降伏と手を上げる「人間」もいた。

通常帝国軍兵の多くは腐魔なのだが、帝国の兵士として志願する者もいるのだと感じさせる。

「人間の兵士は殺すな。あくまで腐魔型帝国軍兵を殺すんだ。主導権はこっちが握っている。押し切るぞ!」

智也の掛け声に合わせて春花達も叫び倒す。秋斗は騒然としている中楽しそうに優雅に兵隊を倒していく。

すると、帝国軍の空中艦が動き出した時に智也は叫ぶ。

「秋斗!あの空中艦は帝国の純魔法空中艦第1方面・ルシファーだ。上空にいられたら魔法で燃え死んでしまう。僕を勢いよく空に放ってくれ!」

智也が秋斗に命じる。

「よしどんと来やがれ!」

秋斗は武器をしまい両手で足場を作る。秋斗から距離を取った智也は全速力で秋斗の足場めがけて走り勢いよく空へ飛んでいく。そして智也はファイアの1段階強烈なアルファイアを解き放つ。空中艦の下方に設置された大きな大砲に魔法を放つ。見事、アルファイアがルシファーに命中し派手に爆発する。

しかし、アルファイアが直撃したはずのルシファーには傷一つなかった。そのまま大砲の照準をこちらに向け一発だけ放たれた。地面に大砲が直撃し爆発する。

直撃した地面の周りにあった建物は焼け、爆風で村人や春花達は吹き飛びそうになる。核爆弾じゃなくて良かったと思う。

「あいつら容赦ないな。」

「だが俺らの奇襲でルシファーは帝国に帰るようだ。あらかたの兵士は倒したからここはもう安全だろう。」

ルシファーは一発だけ大砲をよこしてそのまま南方に進んで行った。村に潜んでいた帝国兵は既にやっつけたのか、残りはいなかった。

村人は一斉に安堵して身内の安全確認を行う。泣きわめくものや抱きつき合う者もいる。

そんな中秋斗だけジェシカちゃんまっしぐらに声をかけていた。

「ジェシカちゃん、怪我はないかい。怖かったな。」

「あ、うん。ありがとう。けど私も戦えたんだよね、店に銃を所持する義務があるから。」

秋斗はえっと驚き、ジェシカが見せた長細い銃にさらに驚く。

「あ、そっすか。」

秋斗の女性のタイプは守ってあげたい女性で決まりだなと思う場面だった。秋斗は白目を向いている。

「可愛いにはいろいろな種類があるって学んだな。帝国に感謝だな。」

「うるさいぞ智也。」

「あははは、君たち旅人ならアイテム必要でしょ。助けられたからタダで持って行っていいよ。」

「感謝する。薬と食料を頼みたい。」

「あとジェシカちゃんの愛をーーーー」

「愛はなくていいから防具も見てみたい。今まで変えてこなかったから服がボロい。」

ジェシカは苦笑しつつ急いで店へ向かった。いじけた秋斗を置いていき春花と智也はジェシカの後を追う。





ジェシカの店にて智也は真剣な眼差しで帝国に襲われたことを聞いていた。

「目的は土地の戦略。人を殺してまでここの土地を獲得したかった理由はなんだ。」

「わからない、ここで生まれた私は何があるかなんて聞かされてないしただの平地だよ。」

「帝国の目的が腐魔開発のためだったらほかの地域にも既に施設が設立されていてもおかしくないな。」

「俺たちの居場所が知られていたらどこにもいけやしねえ。それより、あの飛空艇を逃しちまった以上これ以上長居はできねえ。」

「そうだな、ジェシカさん色々お世話になった。」

「はい、どうかご無事で。」

ジェシカは深深と頭を下げる。

「俺らは光の勇者の子孫だが大層な立場じゃない。頭上げてくれ。」

「また村が襲われたらメッセンジャーに連絡してください。IDは3578です。」

「ありがとう春花さん。けど帝国もメッセンジャーの使用に規制かけると思うから注意してね。」

メッセンジャーとは携帯電話が使うことが出来なくなったため、遠方の方と連絡することが出来るいわば手紙のようなものだ。

「わかった、大事な商品なのにタダにしてもらってありがとうね。」

2人は感謝し合い笑い合う。

「現状最も近い町はアテムだな。あそこには情報屋がいるはずだ、少しは帝国の情報を持っているといいが。」

「よし、ジェシカちゃんの愛のパワーも頂いたことだし、フルマックスでアテムに行こうや。」

相変わらず緊張感の感じられない秋斗のセリフでその場は穏やかになる。秋斗の存在も少しは必要なのだと感じた春花は、帝国とやり合う日が来ることを考えていた。

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