第17話
学校からの帰宅時もまた、亨は燦の前を歩いていた。もちろん、燦の周りには来栖家の魔術師達が潜んでいる。
「大した隠形だな…」
亨は、燦の周りを人知れずに囲む魔術師達に対してぼそっと呟く。亨は本日予定がなく、家で過ごそうとしていたのだが、急遽学校で燦に来栖家にて会議が行われることが告げられたのだ。
『…例によって来栖家でか…光流殿、苦手なんだよな…。』
苦い表情を浮かべる亨。光流が亨を嫌がるように亨もまた光流があまり得意ではないのだ。嫌いに思っている相手を好きになることはさすがに難しいものである。何とか回避する方法はないかと思案しているうちにとうとう来栖邸についてしまう。
「悩んでも仕方ないか…」
乗り気ではないもののチャイムを鳴らす亨。すると、光流が応答し、
「鍵は開いている。」
そっけなく言い放たれ、速攻で切られる。
「…やれやれ、だな。」
言われたとおりに門をくぐる亨。玄関の扉を開くとそこには光流がいた。
「やあ、ようこそ。こちらへ。樹生と京一殿、恒一君はそろっている。」
「わかりました。」
素知らぬ顔をし無難に答えるも、不満な顔を隠しきれていない光流に、亨も内心は穏やかではない。リビングには在原樹生、巣鴨京一、巣鴨恒一がそろっていた。
「皆様、お久しぶりです。」
「ああ、久しぶりだね。」
「久しぶり、亨君。」
「お久しぶりです。」
次々に応じる3人。亨はリビングに入り、空いている椅子に腰かけて、十数秒後、燦も帰宅し、リビングに入り亨の隣に座った。
「全員そろったようだな。」
今回仕切るのは、会場提供もしている光流であるため、音頭をとる。リビングの大きなスクリーンの電源を入れると、零美と烏間の姿が現れる。
『皆さん、お疲れ様です。まあ、あいさつは無駄時間なので進めましょう。じゃあ、光流さんお願い。』
零美のあいさつはそこそこに会議が始まる。
「まずは、巣鴨殿、お願いいたします。」
「はい、斉宮の動きについて。詳しくは息子の恒一の方からですが…花田流星などを使い、合宿の偵察を行うことは確かなようですね。」
『詳しくお願いします。』
「承知しました…恒一。」
「はい…花田流星と根来香帆の二人は、6月14日から1週間互いにかぶらないように休学する予定を立てているようです。」
『…なるほど、あからさまですね。ちなみにどうやって調べたのですか?』
「…昼間、学校のコンピュータにウイルスを仕込み、夜間にアクセスしました。もちろん痕跡は、魔術などを使いほぼ完全に消去しています。」
『前回出し抜かれましたからね…。まあ、今回は事前に休学申請を行う可能性は高かったですし、おそらく事実でしょう。』
前回というのはもちろん斉宮家に行かれたときである。このやり取りを聞いて手を挙げる亨。
『どうしたのかしら、亨さん?』
「…斉宮が我々がつかむことまで想定していた、ということは?」
『…あの老人ならあり得ますね。ただ、あなたたち二人への指示は変わりません。ばれないように手を抜くこと。いいですね?』
「「承知しました」」
二人のしっかりとした返事に満足そうに微笑む零美は続けて亨に注文する。
『亨さんには追加の指示をします。合宿前までに一度彼らの顔を見ておいてください。』
「…ばれないように、ですか?」
『はい、ばれずにこっそりとお願いします。』
「わかりました。」
『よろしく。』
一連のやり取りが終わったことを確認し光流が次の話題を投げる。
「燦、例の合宿についての詳細は?」
「はい…日程については6月14日から1週間を予定しているようです。合宿内容はまだ正確には決まっていないようですが…チーム戦を行うようです。」
『…チーム戦、ですか。チームはどのように決定するんです?』
「各学年、5~6名のグループを任意で作り、合宿中の成績などを鑑みて一学年から、1グループずつを選び3グループで1チームを作るそうです。」
『なるほど…』
このチーム作成方法のところで大人たちは全員黙ってしまう。理由は簡単で燦の立場である。
「燦嬢の警備のためにはできれば一人同じグループであることが望ましいですが…」
こう言うのは巣鴨京一。確かに来栖燦の警備のためを考えるのであれば、同じグループ内に有栖院家の人間を入れたいところではある。しかし、彼が言い淀んでいるように現実は難しい。
「…御当主様、この際、修行を切り上げてでも夏樹を合宿に参加させるべきです!」
「いや…樹生、そういいたいのはわかるが…流石にすぐの実戦投入は厳しいだろう?自分の娘のことぐらい考えてやれ。」
樹生の過激な考えに慎重論を唱えるのは燦の父である光流だ。
「…私も花田たちと同様に休学をしますか?そうすれば、内部では亨、外部では私がカバーできるでしょうが…」
「いえいえ、私のためにそこまでリスクを負うことはしなくても…」
『ええ、恒一さん、あなたまで斉宮の老人に確信を与えるようなことはしなくていいわよ。』
恒一の考えは燦と画面の零美に否定される。しかし、恒一は折れない。
「確かに確信を与えないことは重要ですが…有栖院家の次期当主の候補を失うのは手痛いはず…我々巣鴨家は、来栖家を推さず他家を推しますが、指名時期まで残っていなければなりません。」
「…恒一殿、弱かったから淘汰された、と考えるべきでは?」
恒一の主張に水を差したのは亨であった。口を挟もうとする光流や恒一に先んじて、主張を展開する。
「あまり、やりたくないのですが…御当主様、有川家当主代理として、当家の人間を使ってもよいでしょうか?」
『工作を行うつもりですか……仕方ありません。許可します。』
承諾した零美の顔は苦渋に満ちていた。
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