第35話 旅の支度

 ランサーたちと飲み物を飲んでいると、二階からデロデロに疲れたようすのケニーと相棒が降りてきた。

「ああ。ズルい!!」

「……よこせ」

 ケニーが叫び、俺の背中に杖の先をゴリゴリ当てながら、低く渋いこえで相棒がいった。

「お、お前、これ猫ミルクだぞ!?」

「……」

 相棒は俺の隣に座り、俺の前にあった猫ミルクの皿を自分の前に引き寄せ、一気に飲み干した。

「あれ、コーベット。変な顔してどうしたの?」

「……」

 俺は問答無用で相棒の顔に猫パンチを叩き込んだ。

「い、痛い。なんだよ!!」

「……よし、直ったな。たまに、おかしくなるからな」

 俺は店の奥をみた。

「おーい、全員揃ったから、昼飯頼む!!」

「あいよ!!」

 店の奥から兄ちゃんの声が聞こえ、いい匂いが宿中に広がった。

「それで、行きたいところはありましたか?」

 ランサーがグラスをテーブルに置いて、小さく笑った。

「それがもうメチャクチャでさ。一回休憩しないとダメ……」

「うん、僕もよく分からなくなってきたよ」

 ケニーと相棒が苦笑した。

「まあ、別に急ぎませんので、あまり根を詰めないでください」

 ランサーが笑った時、全員分の昼飯が運ばれてきた。

「そういえば、私は見たことないのですが、この世界に二つとない杖があるとか。場所だけは分かるのですが……」

 ウダヌスが虚空に地図を広げていった。

 もう、この程度では驚かない。

 そう固く何かに誓って、心の中でいった。

「緑の点が今いる場所、それがある地点は赤い点で表示しています。チヌーク群島の中の一つの島ですね」

「ああ、魔法使いなら一度は聞いたことがあるはずだ。『グレッグ・ノートの杖』っていってな。使用者の魔力を大幅に跳ね上げるって曰くもあるぜ。まあ、人間用の杖なんか装備できねぇから、最初から興味なかったんだ」

 俺は昼メシに口をつけながらいった。

「そんな便利なものがあるんですね。一つどうでしょう。行ってみるというのは?」

 ランサーが小さく笑みを浮かべた。

「俺は構わないぜ。お宝として売っても、結構いい金になるだろうしな」

「ちょっと待って、ウダヌス。その場所をこの地図でいうと」

 少しテンションが上がった様子のケニーが、地図を片手にウダヌスに迫った。

「はい、えっと……変わった地図ですね、チヌーク群島がここなので、この細長い島です」

 ウダヌスがケニーの地図を指さした。

「ありがとう……。なるほど、アルカフォン王国の領地だね。今回は、お宝探しってどう?」

 ケニーが笑みを浮かべた。


 結局、他の案もないということで、「グレッグ・ノートの杖」の杖を探しにチヌーク群島まで行くこととして、今日はその準備をすることにした。

「まずは、船を押さえないと話になりません。確かアルカフォン王国のポート・リブリアから、群島内で唯一人が住んでいるカミオレ島……先ほどの細長い島までは定期航路が出ていいるはずです。これが、最短距離で確実な行き方でしょう」

 ランサー笑みを浮かべた。

「そのポート・リブリアまで、ここから船でいくわけだな」

 俺が聞くと、ランサーが頷いた。

「これは、私だけでいきますね。他の皆さんは、ウダヌスさんから詳しい情報を聞いて下さい。では」

 ランサーが席を立ち、宿の外に出ていった。

「おっと、これは私がメインだな。知ってるとか分かってる事を、全部教えて欲しいんだけど」

 ケニーが地図を片手に、ウダヌスに問いかけた。

「えっと、私もここにあるという程度しか分からなくて。向こうで情報を集めてみてはいかがでしょうか」

「……なるほど、一理あるね。なにかしらあると思うから、そっちの方が正確かもね」

 納得した様子で頷くケニーに、俺は笑った。

「おいおい、準備が終わっちまったぞ。このくらいは聞いとけ。地下か地上かくらいは分かるか。装備が変わってくるからよ」

「はい、その程度なら。地上です、山の頂にありますね。私の視点で見る限り、どうも馬車の往来があったり、半ば観光地のようになっているようです」

 ウダヌスが苦笑した。

「か、観光地!?」

 ケニーが声を上げた。

「うん、なるほど。マックドライバーの地図にないわけだ。面白くないって」

 相棒が笑みを浮かべた。

「ということは、軽装でいいってことだ。まあ、散歩みたいなもんだろ」

 俺は笑った。


「軽装っていっても一応山だし、念のため着るものを用意しておこう」

「うん、あとは非常食だね。これも重要だよ」

 ケニーとコリーが言葉を交わした。

「ごめん、猫チームとウダヌスは宿にいて」

「うん、お願いね」

 ケニーーとコリーが宿から出ていくとほぼ同時に、ランサーが戻ってきた。

「国際航路なので当日券があるか不安だったのですが、運良く特等のキャンセルが出たようで、無事に購入できました。バラバラに部屋を確保するより、安上がりなんですよ。この人数であれば。出港は夕方で、到着は明日のお昼くらいの予定です。そちらはなにか分かりましたか?」

「まあ、ある程度はな。どういうわけかわからねぇが、馬車でいける上に、半ば観光地なんだと。今、ケニーとコリーは服と食料を買いにいったぜ。念のためだと」

「そうですか、用意するのは悪い事ではありません。夕方まで間がありますね、ゆっくりしましょう。

 ランサーがソファに座り、小さな笑みを浮かべたのだった。

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