第26話 帰ってきたら

 馬車をどこかに駐めにいったランサーが戻ってくると、すでに準備万端の俺たちは一階の食堂で待ち構えた。

「皆さんやる気満々ですね、私は鞄を置いてきます」

 ランサーは苦笑して、二階へと階段を登っていった。

「これ、私の予感なんだけど、間違いなく仕事の依頼も取ってきたよね」

「うん、極力無駄にしないがモットーだからね」

 ケニーとコリーが笑った。

「おいおい、マジかよ。旅から帰ってすぐか?」

「うん、こんなの旅の内にも入ってないはずだからね」

 コリーが笑みを浮かべた。

「タフだねぇ……。まあ、ここにくれば分かるだろ」

 しばらくすると、ランサーが降りてきて食卓を囲んだ。

「はいよ、お待ち!!」

 タイミングを合わせて、朝メシが運ばれてきた。

「では、いただきましょうか」

 ランサーがいって、朝メシがスタートした。


「さて、旅が無事に終わったところで、次は仕事ですね。今までなるべく避けていた、魔物討伐の依頼がありまして、場所はこの街の裏手にある草原地帯なのですが、このところ異常に魔物が増えてしまって、農業を営む方々にとっては死活問題になっているようです。これは、私としても見過ごせないもので、この後掃除しにいきませんか?」

 ランサーが笑った。

「ほら!!」

「でしょ?」

 ケニーとコリーが小さく笑った。

「おい、相棒。どうするよ?」

「コーベットも僕も嫌っていえないでしょ。分かってるくせに」

 相棒が笑みを浮かべた。

「はい、了承と受け止めます。対象地域が広いので、この仕事には街の自警団も加わります。一暴れしましょう」

 ランサーが笑みを浮かべた。

 

 朝メシを終えた俺たちは、今まで使っていない門から歩きで街の外にでた。

 そこには、整然と畑が並び知らなかった街の一面がみえた。

「この畑の向こうからです。急ぎましょう」

 俺たちは速歩で畑が並ぶ先を目指した。

「本気で広いな。でも、確かにあちこちに荒らされた痕がありやがる……」

 生憎植物の名前は分からないが、そこで栽培されているなにかが盛大に掘り起こされたり、茎だけになっていたりしていた」

「ここでみているだけでもこれです。なんとかしないとと、自警団が見張りをしているのですが、効果がないどころか魔物に襲われて怪我する方まで出ているようで……」

 ランサーがため息を吐いた時、その自警団と思われる連中が集結している地点についた。

「貴殿ですかな、腕利きの冒険者というのは?」

 禿頭でタンクトップ、顔の彫りが無駄に濃いオッチャンが声を掛けてきた。

「はい、自衛団長。冒険者は私たちだけのはずなので、その通りでしょう」

 ランサーが返した。

「なるほど、猫の手も借りたいというのは、このことをいうのかな。事実、その通りだからな」

 はげの……禿頭のオッサンが笑った。

「……ああ、猫の手を貸しにきたぜ。相棒、周囲の魔物を探査しろ」

 俺は怒りを込めた笑みを浮かべ、相棒に声を掛けた。

「そうくると思って、もうやってあるよ」

 相棒は笑って、俺の額に手を当てた。

 その状態で、おれは周辺探査の魔法を唱えた。

 俺の魔法ではなく、相棒の魔法で探知した魔物の所在が分かった。

「オッサン、猫の手をなめるなよ」

 呪文を唱え、頭上の無数の光りの矢を生み出し、俺は小さく笑った。

「な、なに、魔法だと!?」

 禿頭のオッサンが驚きの声を上げた。

「まあ、みてろ……シュート!!」

 頭上にあった矢が一斉に飛んだ。

 遠くの方で地鳴りのような音が聞こえると、俺は笑みを浮かべた。

「今のでほとんど倒しちまったかもな。あとは、ちまちま撃ち損じを倒せば、掃除完了だぜ。どうよ?」

 禿頭のオッチャンはしばしポカンとしていたが、やがて首を横に振った。

「よ、よし、各班迅速に行動しろ。あんたらもだ!!」

 オッサンはそのまま、傍らにあった馬に乗って草原を走っていった。

「なに、怒っちゃったの?」

 コリーが笑った。

「こういうところが、妙に可愛いんだよね」

 ケリーが笑みを浮かべた。

「猫の手も借りたいっていったから、お望み通り貸してやっただけだ。いくら探しても無駄だぜ、相棒の周辺探査魔法の効力を考えたら、馬でもなかったら回り切れる距離じゃないし、魔物は根こそぎ始末したからな!!」

「まあ、こんなのコーベットしか出来ないと思うよ。数が多いと一発当たりの威力が落ちるから、同じ目標に三発撃ち込むんだもん。まあ、派手にいくなら効果的だけどね」

 相棒が笑った。

「さて、どうなりますかね。あの自警団長が納得すれば、仕事は終わりです」

 ランサーが笑った。


「仕事が無事に終わりました。お疲れさまです」

「あれやるのはいいんだが、かなり体に負荷が掛かるんだよなぁ」

 結局、俺の攻撃魔法でケリがついたようで、草原をうろついていた魔物が消えたと警備団長が納得し、俺たちは昼には宿に戻った。

 タイミングがちょうどよかったので、俺たちは一階の食堂に集まり、昼メシを食べようとしていた。

「また無茶ですか?」

 ランサーが苦笑した。

「無茶って程でもねぇけどな。もう一度やれっていわれたら、なかなかキツいぜ」

「うん、一日一回が限度だね。まあ、二度もやる機会って、滅多にないけどね」

 相棒が笑った。

「はい、お待ち!!」

 元気よく兄ちゃんがメシをテーブルの上に置いた。

「ああ、朝は魔物退治だったんだってな。お疲れさん!!」

 兄ちゃんが笑った。

「大した事じゃねぇよ。ムカつく事いわれたから、思わず派手な攻撃魔法でやっちまったからな。お陰でそこら中痛ぇぜ」

 俺は苦笑した。

「魔力痛か、限界一杯じゃねぇか。まあ、十分休むこった」

 兄ちゃんは笑みを浮かべ、店の奥に引っ込んだ。

「なんだ、魔法の事しってるのか……」

 ランサーが笑みを浮かべた。

「ここを持つ前は、魔法学校で学んでいたと聞いています。もっとも、魔法は使えないようですけれど」

「まあ、魔法学校に通ったからといって、必ずしも魔法を使えるとは限らないけどな。これは、意外だったぜ」

 俺が苦笑すると、ケリーとコリーが俺をみた。

「そうだった、この前見学にいった魔法学校に入学したいんだけど」

「明かりの魔法だけじゃ、ちょっと寂しいよ」

 口々にいってきた二人に、俺は苦笑した。

「入学金の他に授業料が必要だが、魔法のランクによって違う料金が違うぜ。明かりみたいに基礎的な魔法なら、無料で教えてくれるがな」

「最初は無料の魔法で十分だよ。どんなものか分かったら、レベルアップすればいいし」

「うん、それでいい」

 ケニーとコリーが真顔で頷いた。

「まあ、やれば分かるが、どんどん次が欲しくなる。俺や相棒の場合、村の魔法学校の教師が暇つぶしに面白がって教えてくれたから無料でここまできたが、まともにやったらいくら掛かるか分からねぇぞ。ここの学校はしっかりしてるから、しっかり金は取るだろうな」

「そ、そっか、お金か……」

「ある程度は持ってるけどね……」

 ケニーとコリーはため息を吐いた。

「コーベット、メンレゲの学校なら、あるいはそこそこは教えてくれるかもしれないよ。エルフに教えるなんて滅多にないって」

 相棒が笑みを浮かべた。

「あるいは、エルフの……ダメか。忌み子とかいわれて、追い出されちまったんだもんな。酷ぇもんだ」

 俺がため息を吐くと、ケニーとコリーが笑みを浮かべた。

「今は早いから、将来の目標に取っておくよ」

「うん、なにしろエルフの寿命は長いから」

「はい、落ち着きましたね。まあ、今すぐ憶える必要はないでしょう。猫チームがいるので」

 ランサーが笑った。

 

 俺たちが昼メシ後の雑談をしていると、慌てた様子で自警団長が宿に飛び込んできた。

「非常事態だ。今度は東門に魔物が迫っている。先ほどの西門の魔物とは関係ないと思うが、迫り来る魔物をなんとか食い止めなければならん。自警団として討伐を依頼する」

「東門ですね、分かりました」

 ランサーが立ち上がり、続けてケニーとコリーや俺たちが立ち上がった。

「よし、相棒。魔力譲渡だ」

「分かってる、もうやった」

 相棒が笑みを浮かべた。

「準備完了ですね、いきましょう」

 ランサーの声に頷き、俺たちは宿を飛び出したのだった。

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