第27話 二度目の討伐

 この街に門がいくつあるか知らないが、魔物が迫っているという東門も普段使っている門とは違った。

 こっちは畑等はなく、出てすぐに草原だった。

 すでに自警団のメンツが駆けつけていて、自警団長と俺たちが外に飛び出ると、背後で門が閉ざされた。

「逃げ場はねぇってか。燃えるじゃねぇか」

「コーベット、分かってるだろうけど、もう一回あれは無理だからね。魔力譲渡だけじゃ半分も回復できないから」

 相棒が頷いた。

「分かってるよ。地道に戦うしかねぇ」

 俺は苦笑した。

「お前たちの持ち場は、一列目の後方だ。魔法が主体ならそこがベストだ」

「あいよ!!」

 怒鳴る自警団長に怒鳴り返し、俺たちはすでに隊列が組まれている中を走った。


「コーベット、この辺りがいいよ」

 周辺探査の魔法で敵の位置を確認した相棒が、隊列のいい感じな場所で声を上げた。

「分かった、この辺で止まろうぜ」

 ランサーとケニーが俺たちの前に立ち、俺と相棒、コリーがその背後に立った。

「うん、もうすぐ最前列とぶつかるよ……きた」

 相棒の声と共に、前方にいた自警団員が盛大にすっ飛ばされるのが見えた。

 前方はたちまち魔物の群れに飲み込まれ、俺たちの前に姿を見せたのは、ゴブリンという小人ような魔物だった。

「ゴブリンかよ、大した事ねぇ。怖いのは数だけだ。相棒、あれいくぞ!!」

「あれね。省魔力戦術だ」

 俺と相棒は呪文を唱えた。

 いきなりゴブリンたちの足下にあった地面が消え、大群がそのまま落下した。

「どうよ、イタズラで作った落とし穴の魔法はよ!!」

「本当に、どうでもいい魔法ばかり作ってたもんね」

 相棒が笑った。

「え、えっと……」

「こ、これって、私たちの勝ち?」

 ランサーとケニーが困った顔をした。

「油断はするなよ。よじ登ってきたヤツだけ倒せばいい。集団で一気に突っ込んでくるから面倒なだけだ」

 俺は笑った。

 結局、残った他の自警団員と共に、登ってきたヤツをちまちま倒すという、ひたすら面倒な作業を繰り返した


「これも面倒だね。よし、たまには僕がやろうかな」

 いい加減ちまちました作業が面倒になり始めた頃、相棒が呪文を唱えた。

 すると、落とし穴の中の空間にヒビが入り、落とし穴の中のゴブリンどもを根こそぎ吸い取って空間が元に戻った。

「強制転移か。魔力消費が激しいから、あんまやらないヤツだな」

 強制転移とは、相手を無理矢理どこかに飛ばす魔法だ。

 攻撃魔法ではなく、転移系魔法の一つとされるが、どこに飛ばすかは術者すらわからないという、多用厳禁の迷惑な術だった。

「うん、これでコーベットと一緒で、今日はもうちゃんとした魔法は使えないかな」

 相棒が苦笑した。

「ったく、魔法なかったらタダの猫だぜ。面倒になったからってよ!!」

「だって、何日かかるか分からないもん。これでいいよ」

 相棒が笑みを浮かべた。

「さて、これで私たちの仕事は終わりですね。宿に戻って休みましょうか」

 ちまちま作業から解放されたランサーが小さく笑みを浮かべた。

「全く、久々に剣を使ったと思ったら、地味な事させて」

 ケニーが苦笑した。

「まあ、文句があるなら相棒にいってくれ。帰って寝ないとヤバい。今は二人揃って魔法がほぼ使えない状態だからな」

「では、私は団長と話してきます。先に戻っていて下さい」

 ランサーがいってこの場を立ち去り、俺たちは再度開門した東門を潜って宿に向かった。

 宿に戻ると、俺たちは自分の部屋に入った。

 ベッドの上にデロンとだらしなく転がると、相棒が笑った。

「お疲れだね。あの落とし穴の魔法ですら、僕がサポートしないといけなかったくらいだし」

「ああ、ぶっちゃけ無理をした。今日はもうダメ……」

 俺は軽い目眩と激しい疲労感に襲われ、そっと目を閉じた。


 自覚していた以上に無理をしたらしく、目を開ければ窓の外は夜になっていた。

「うわ……どれだけ寝たんだよ。相棒もいねぇし……」

 俺は大きく伸びをしてからベッドを降りた。

「どこにいったかな。滅多に、俺と離れて行動しねぇのにな」

 俺は苦笑して、部屋の猫用出入り口から廊下に出た。

「おっ、出てきた」

 出た先にはコリーがいた。

「まさか、待ってたんじゃないだろうな」

 俺は苦笑した。

「半分は正解。ケニーとムスタが一緒になって寝ちゃったから、ここには頻繁に足を運んでたんだ。昼ご飯食べてないし、お腹空いたでしょ。まずは食事だね」

 コリーが俺を抱く抱えた。

「相棒のヤツ、ずいぶんケニーと仲良しじゃねぇか」

 俺は小さく笑った。

「何かと気が合うみたいでね。もちろん、一番信用してるのは相棒のコーベットだけど、暇だってムスタがウロウロしてたら、ケニーが話し相手になってさ。次はどこにいくかって、地図を見て騒いでたよ」

 ケニーが笑った。

「その前に休めっての。まあ、今寝てるなら問題ねぇな。メシいこうぜ」

「うん、いこう。下でランサーがお酒を飲んでるよ」

 コリーに抱かれたまま、俺たちは階下の食堂にいった。

「あら、起きましたか。これを……」

 ランサーが笑い、小さな革袋をテーブルに置いた。

「これは?」

「魔物討伐二回分の報酬の分け前です。猫チームは多めにしてありますよ。実際に働いているのは、あなたとムスタですからね」

 俺を抱いたコリーは、テーブルとセットの椅子に座った。

「いつ起きるか分からないということで、実はかなり心配したのですが、無事で何よりでした。さて、コーベットは食事ですね。すぐに出てくると思います」

 ランサーが笑うと、兄ちゃんが煮魚定食を持ってきた。

「あっ、すいません。同じものを一つ」

「あいよ」

 兄ちゃんはランサーが差し出したグラスを持って、食堂の奥にいった。

「それにしても、落とし穴の魔法なんて、どこで使ったのですか?」

「……いや、どこでっていうか、シャレで作っただけだぞ」

 ケニーが吹き出した。

「あの魔法の効力をみて、自警団の団長が真顔で『一回目の攻撃は難しいが、これならイケるかもしれん。団員に教わるように伝達せねば』とかいい出しちゃってさ。まあ、なんとか思いとどまらせたんだよ」

「……ぜひそうしてくれ。そこら中穴だらけになっちまうぜ」

 俺は苦笑した。

 メシを食いながらランサーやコリーと雑談し、気がつけば夜も深い時間になっていた。

「あらら、もうこんな時間ですか。少し飲みすぎました。申し訳ありませんが、私は先に休みますね」

 ランサーが小さく笑みを浮かべ、階段を登っていった。

「よし、私たちも部屋に戻ろう。もう起きて相棒が戻っているかもね」

 コリーが小さく笑った。

「そうだな。アイツは俺がいねぇと、無駄に心配しやがるからな。もう戻った方がいい」

「じゃあいこうか。部屋の前まで抱っこしてあげよう」

 コリーが俺を抱きかかえ、階段を登っていった。

「ここだね。もし戻ってなくて落ち着かなかったら、私の部屋にきなよ。全室猫用出入り口完備だからさ」

 部屋の前で俺を廊下に下ろし、コリーが笑った。

「まあ、その時はその時だ。ちゃんと寝ろよ」

「分かってるよ。じゃあ、おやすみ」

 コリーが自室に引っ込み、俺も自分の部屋に入った。


「あれ、どこいってたの?」

 部屋の中でソワソワしていた相棒が声を掛けてきた。

「起きたからメシのついでに、ランサーとコリー相手に無駄話してただけだ。寝たから大分調子はいいぜ」

 俺は笑って相棒が乗っているベッドの上に乗った。

「そっか。ごめん、暇だったからウロウロしてたら、ケニーに声を掛けられて次の旅はどこまでいこうかって考えてるうちに、二人揃って寝ちゃたよ」

「謝ることねぇだろ、この宿にいる限りは安心だろ?」

 俺は苦笑して、ベッドの上で丸くなった。

「そうだね、やっとここが安全な場所だって認識できるようになったよ。だから、平気なんだけどね」

「だろ、俺もだよ。俺は寝られるか分からねぇ、お前も寝たんだろ。無駄話でもしようぜ」

「分かった。なにを話そうかな」

 相棒が小さく笑みを浮かべたのだった。

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