学校の怪団

てこ/ひかり

第1怪 校舎裏の幽霊

「コラ、そこ!」

 登校中の生徒たちがごった返す下駄箱に、凛とした声が響き渡った。


「ちょっと貴女! スカートが3・42㎝、短いわよ!」

「ゲッ。会長……」

 人混みをかき分けて、腕に『生徒会』の腕章をつけた女子生徒が飛んで来た。下駄箱に集まっていた他の生徒達は、もうその光景が慣れっこになっていたのか、『自分にその矛先が向いては堪らない』と慌てて教室に向かって逃げ出した。


「『校則違反』ですっ」

 『生徒会』の腕章をつけた女子生徒が、『違反』した生徒をその場で厳しく窘めた。

「ダメじゃない、清く正しく美しく有らなきゃ」

「だって清澄会長、3㎝なんて誤差じゃないですかぁ」

 注意された女子生徒が泣き出しそうになりながら訴えるのを、下駄箱に残った物好きな野次馬達が、周りからヒューヒューと騒ぎ立てた。


「良いぞ、もっとやれ!」

「何ならここで着直したって良いぞ!」

「貴方たちも、さっさと教室に行かないと『校則違反切符』切りますよ!」

「ヤベェ。逃げろ!」


 清澄と呼ばれた女子生徒会長の、美しい切れ長の目でギロリと睨まれ、野次馬達は蜘蛛の子を散らすように退散していった。『違反切符』を切られた女子生徒は、がっくりとうな垂れた。

「そこ! 昨日より3分46秒遅刻してますよ! 急いで!!」

 間髪入れず、下駄箱に清澄たからの新しい怒鳴り声が響き渡り、さらなる悲鳴が沸き起こる。それから彼女は次から次へと、怒涛の勢いで赤い切符を配って行った。



【2X20年。


 科学技術の発展によって、全ての怪奇現象、心霊現象、オカルト、怪異、秘境の地、宇宙の謎、伝説、伝承、神秘……その他諸々の『おかしなもの』の存在が、全否定された現代。


 AIの情報管理によって犯罪は激減し、人々は未来永劫の”平和”と”幸福”を手にしていた。


 過去の歴史や膨大な情報の中から蓄積された『悪いもの』や『間違ったもの』、『汚らしいもの』は、中央統制局が開発したスーパー”マザー”コンピューター:『審美眼』の判断によって事前に排斥され、誰もが『清く正しく美しく』生きられるようになった。


 中でも『審美眼』によって選ばれた一握りの人間達は、それぞれ『統治者』、『王』、『大統領』、『リーダー』と行った役職につき、人々を導いて行く事を義務付けられ……】



「何難しそうな本読んでるのよ、たからちゃん?」

「ど、道明寺先輩っ!?」


 昼休みの図書室。

 薄暗い部屋の中で不意に背後から声をかけられ、清澄たからは慌てて分厚い本から顔を離した。振り返ると、いつの間にか彼女のすぐ後ろに、前生徒会長・三年生の道明寺が静かな笑みを携え立っていた。道明寺は後輩の頭を軽くポンと叩くと、彼女の横に腰掛けた。


「たからちゃん。今朝も張り切ってたみたいじゃない? 私のクラスの生徒も、『切符』切られたって大騒ぎしてたわ」

「あ、ありがとうございますっ。でも、道明寺先輩の『清正美うつくしさ』に比べたら、私なんてまだまだで……っ」

「もちろん”清正美うつくしい”ことは大事だけれど、初日からあんまり張り切り過ぎて、体を壊さないようにね」

 横で小さくなって恐縮する後任者に、道明寺が優しくほほ笑んだ。


「私たちは『審美眼』によって生徒会に選ばれた、いわば精鋭部隊エリートなんだから」

「はい……」

「いずれは官僚や政治家、企業や組織のトップに立って、人々を導いていく立場にあるのよ。貴女はもう、貴女だけのものじゃないんだからね」

「はい、分かっています」

 たからが少し頬を紅潮させつつ、夢見心地な目で道明寺を見つめた。

 道明寺は、そんなたからの秘めたる想いを知ってか知らずか、いたずらっぽい笑みを浮かべながら、ふと薄暗くなった窓の外を見上げた。


「そういえば……」

「え?」

「いえ、ね。ここのところ変な噂があるのよ。放課後になると、怪団が出るとか何とか……」

「怪団?」

 道明寺の言葉に、たからはたちまち表情を固くした。


 怪団だなんて、何ともふざけた名前の集団だ。『名は体を表す』ではないが、良からぬことを企んでいるに違いないのは、一"耳"瞭然であった。


 たからは眉をひそめた。

「何者なんですか? そいつら」

「さぁ……ただ、その怪団と関係あるのか分からないけれど。最近東校舎の裏に、幽霊が出るって生徒たちの間じゃ持ち切りなのよね」

「まさか、そんな幽霊だなんて……」

 たからは思わず吹き出した。この科学の時代に、幽霊なんて今時小学生でも信じていないだろう。

「じゃあ何ですか? その怪団とやらが、ウチの学園にいもしない幽霊をけしかけて、何か悪さをしようとしている?」

「うーん……分からないわ。でも、そういうちょっとした出来事が『風紀の乱れ』かもしれないと思うと、気になってね」

「……ありがとうございます、道明寺先輩」

 たからはメガネ型の解析コンピューター:『AIグラス』を嵌め直し、勢いよく椅子から立ち上がった。 


「任せて下さい! この学園の”平和”は、私が守ってみせます!」


□□□


「ここね……」


 早速東校舎の裏にやって来たたからは、物陰に潜み辺りを伺った。

 彼女の顔にかけられた『AIグラス』が、次々に空中に四角い”検索結果”を映し出す。

「【人体反応ナシ】、【高度エネルギー反応ナシ】か……」


 『AIグラス』は校舎の壁に使われている素材や、緩やかに北から吹いてくる風の速度、日の入りの時間などを即座に分析・計算し、事細かにたからに伝えて来た。今朝、彼女が生徒に迅速に違反切符を切れたのも、この『AIグラス』のおかげだった。


 しばらく待ってみたが、特に変化はナシ。たからは肩をすくめた。もちろん、幽霊の反応なんてある訳がない。

 この現代に幽霊なんていない。問題は幽霊の存在照明よりも、そんな馬鹿げた噂を流している人物が、この学校のどこかにいるという事である。恐らくその人物が、例の怪団に違いない。生徒会長たるもの、一刻も早くその人物の身柄を確保して、この学園の『綻び』を排除しなくては。そう思い、たからは改めて気を引き締めた。


 は現場に戻ってくるかもしれない……そう思ってたからがしばらく身を潜めていると、案の定、向こうから見知らぬ人影が姿を現した。


 その人物は……この学園の制服に身を包んだ、ヒョロッとした男子生徒だった。


 新入生だろうか、たからはその子に見覚えはなかった。だが、彼のその身なり……まるで寝起きのようにボサボサの頭(おまけに茶髪である!)、だらしなくはみ出したシャツ、無造作に開け放たれたボタン……に、彼女は思わず気絶しそうになった。


(嘘でしょ……!? こんなに清正美うつくしくない人間が、まだこの学園に……いえ、この現代日本に生き残っているというの!?)


 たからは涙目になって、必死に吐き気を堪えた。校則違反なんてレベルじゃない。こんなに巫山戯た格好の人間は、歴史の資料集でしか見たことがなかった。たからが言葉を失っていると、男子生徒は欠伸(もちろん校則違反である)を連発し、草むらに屈み込み、何やらゴソゴソとカバンから箱を取り出し始めた。


「ちょっと……!?」

 たからが慌てて物陰から飛び出すと、男子生徒は驚いたように彼女を振り返った。

「貴方、こんなところで何やってるの!?」

 ぼんやりと立ち尽くす男子生徒に、たからは怒りに任せて唾を飛ばした。

「何よそのだらしない格好!? もはや犯罪じゃない!」

「嗚呼。貴女が噂の新生徒会長……」

 男子生徒が眠たそうな目で、ようやく合点がいったように頷いた。


「初めまして。ボクは……」

「待って! それは何!? その、手に持っているものは!?」

 たからが男子の自己紹介を遮って、ぎょっとして彼の右手を指差した。彼の右手には、野球ボールほどの大きさの四角い箱が握られていた。男子生徒は一瞬戸惑いを見せたが、やがて嬉しそうに顔を綻ばせた。


「これは、【幽霊発生装置】です」

「は?」

「作ってるんですよ、ボク……」

 呆然と立ち尽くすたからを前に、彼はニィィ、と唇の端を釣り上げた。


「……【学校の怪談】を」


 その途端、”ひゅるるるる”と小気味良い音がして、二人の間を冷たい北風が通り過ぎていった。『AIグラス』のカウントダウンは『0』になり、いつの間にか日の入りしていた校舎裏は、今や巨大な影に飲み込まれようとしていた。


「が、学校の……?」

 重苦しい沈黙の後、たからがようやく言葉を絞り出した。

「怪談です。怖い話。七不思議。幽霊とか、妖怪とか、お化けとか」

「な……!?」 

 嬉しそうに頬を染める男子生徒に、たからは絶句した。それは、ジョークのつもりなのだろうか。笑っていいものかどうか、彼女には分からなかった。

「一体どうして、そんなものを……?」

「どうして、って……だって楽しいじゃないですか」

 男子生徒があっけらかんと笑った。それから彼は草むらに屈むと、ひょいと何かを拾い上げた。

「見てください、これ」

「ぎゃああッ!?」

 彼が差し出して見せたものに、たからは思わず悲鳴を上げた。


 それは、毛虫だった。

 黄緑色をした、全身に夥しい量の繊毛を生やした、うねうねと蠢く虫ケラ。


 東校舎の裏に、生徒会長の絶叫が響き渡った。


「可愛くないですか?」

「やめて! そんな汚らわしいもの、見せないで!!」

 男子生徒が毛虫を指で撫でるのを見て、たからは全身に悪寒が走るのを感じた。

「この幼虫はミカドアゲハと言って」

 彼の言葉に反応して、彼女の『グラス』の片隅に成長した蝶の映像が”ポップ画面”で現れた。

「ひッ……!?」

「まだ孵化して間もないんですけど、成虫になったらとても『美しい』アゲハ蝶になるんです。だけど毛虫ってだけで、みんなコイツを毛嫌いして。『美しくない』って排除するんですよ。機械の言いなりになって」

 不本意だ、とでも言いたげに男子生徒が口を尖らせた。たからは黒い羽を持ったアゲハが舞う映像を、涙目になって見つめていた。


「臭いものに蓋をしてばっかりじゃ、本当に美しいものを見失いますよ。ボクは幽霊だって、同じだと思うんです。『恐怖』は人間にとって、とっても大事なモノなんじゃないかって」

「ヒィ……!?」

「そうだ」

 彼は腕に乗ったミカドアゲハの幼虫を差し出しながら、屈託のない笑顔で鼻くそをほじった。


「会長も、ボクと一緒に怪談を作りましょうよ。部員……いえ、団員になって下さい」

「ヒィィ……ッ!?」

「ボクと一緒に、この清く正しく美しい”だけ”の世界を、メチャクチャにしてやりましょう!」


 そこでたからはとうとう意識を失い、救急車で緊急搬送された。

 

□□□


「信っじられないッ!!」


 一週間経っても、たからはまだ怒っていた。

 屈辱以外の何物でもなかった。まさかこの私に、鼻くそをほじりながら毛虫を見せつけてくるだなんて! 確かに成虫になったアゲハ蝶は美しかった。だけど、そんな問題じゃない。

「何が【学校の怪談】よ! バカじゃないの!?」

 放課後、彼女は怒りに任せて赤い『切符』を切り続けた。会長がご機嫌ナナメだったので、生徒たちは戦々恐々として家路へと急いだ。


 不思議なことに……あの東校舎の裏で出会った男子学生を学校のPCで検索にかけても、一向にヒットしなかった。この学園の生徒の情報は全てPCによって管理され、生徒会長は職務の遂行に限って、自由にそれを閲覧する権限が与えられている。

 なのに検索に引っかからないのは、普通なら有り得ない事だった。

 画面上で無情に光る"not found"の文字の前で、たからは首を傾げた。考えられるとすれば、彼は実はこの学校の生徒ではない部外者か、あるいは……。

「……バカバカしい。幽霊なんて、いるわけないじゃないの」

 たからはさらに鼻息を荒くした。


「会長。ちょっといいですか」

「ん?」

 すると向こうから、数名の女子生徒たちが戸惑いながらたからに声をかけてきた。そのうちの一人は、昨日彼女が『切符』を切った女子生徒だった。

「実は、東校舎の裏から、何か変な物音がするって……私たち、会長に報告してこいって言われたんですけど……」

「何ですって?」

 たからはたちまち顔を険しくした。心当たりは、ある。例の学校の怪談を作ってるとか言う、男子生徒だ。たからは女子生徒たちにお礼を言うと、急いで校舎の裏へと駆け出した。


 後に残された生徒たちが、不穏な笑みを浮かべるのも知らずに……。


□□□


「何よ? 何もないじゃない」


 校舎の裏に辿り着いたたからは、怪訝な顔をして辺りを見渡した。例の男子生徒も、誰も見当たらない。拍子抜けしたたからが、肩をすくめて帰ろうとした、その時、

「きゃああっ!?」

 突然足元が脆くも崩れ、彼女は落とし穴に落ちてしまった。


「なっ……何よこれッ!?」

 自分の身長ほどはあろうかと言う巨大な穴に、すっぽりとハマってしまったたからは、目の前の出来事が信じられずに愕然とした。皺一つなかった制服は今や泥だらけになり、手足には擦り傷が無数に出来上がっていた。落ちた時に腰を打ったのか、上手く立ち上がれなかった。


「へへ……」

 たからが底で呆然と空を見上げていると、突如下卑た笑い声が聞こえてきて、数名の男子生徒が穴を覗き込んできた。

「あ、貴方達……」

「いい気味だな、生徒会長サンよぉ」

 全部で5〜6名の生徒たちの顔に、たからは見覚えがあった。誰も彼も、彼女が『違反切符』を切った『素行不良』の生徒達に違いなかった。


「見てないで、助けなさいよ……」

 彼女のかすれ声に、男子達の間から歓声が上がった。

「何言ってんだ、バーカ」

「『審美眼』に選ばれたからって、毎日偉そうにしやがって」

「自分の立場が、分かってんのか」

 男子生徒の一人が、ニヤニヤしながらホースを担いできた。たからの目が、たちまち恐怖で染まった。

「あ、貴方たち! こんなことしてタダで済むと思ってんの!?」

「うるせえ! 俺たちゃ『違反切符』を押し付けられて、”正しく”てめえを恨んでるだけだ」

 怯えるたからに、生徒たちの中でも一際巨大な、リーダー格の男子が穴の上から凄んだ。


「それとも何か? 誰かを恨むことすら、俺たちゃ許されてないのか!? そんな息苦しい世の中の、どこが”正しい”って言うんだよォッ!?」

「だけど、そんなの”美しく”ないわ……」

「てめえら、やっちまえ! このクソ女に、目にものを見せてやれッ!!」

「きゃああっ!!?」

 男子たちが一斉にホースを構え、たからは思わず目を瞑った。



 ……だが彼女がいくら待っても、上から水は降ってこなかった。



「な、何だッ!?」

 その代わり、男子たちの戸惑った声が校舎裏に響き渡った。

 たからが恐る恐る目を開けると、辺りはまるで火事にでもなったかのように、真っ黒な煙に包まれていた。


「何だ、こりゃあ……!?」

「兄貴ッ、ホースが切られてますッ!」

「何ぃ!? 誰がやったんだッ!?」

 黒煙の中、男子たちの怒声が交錯した。古ぼけたスピーカーから突然オドロドロしい音楽が鳴り出し、生徒の一人が飛び上がった。

「兄貴! これって……まさかあの、噂の幽霊……!?」

「有り得ねえ! この現代社会に、幽霊なんているわけねえッ!!」

「お、おい!? あれ!」

 すると、男子生徒の一人が空を指差した。


 その時、たからは穴の中から確かに見た。

 黒煙の隙間、夕焼け空の見える空間に、真っ白な布のようなものがふわふわと浮かんでいるのを。さらに黒煙のあちこちから、白い布が次々に「ぬっ」と現れた。

「ぎゃあああっ!?」

「幽霊だぁ!!」

 一人が逃げ出すと、他の生徒たちにも恐怖は伝染し、やがて皆が一斉に走り出した。


「……有り得ねえ!」

 残されたリーダー格の男子は、取り囲む布を睨みつけ一人気を吐いた。

「巫山戯やがって! 正体を見せやがれ!!」

 巨漢の男が白い布の一つに突進した。だが布の向こうには誰もおらず、男はそのまま壁に激突した。たからは穴に嵌ったまま、急いで『AIグラス』を起動させた。


 たからは思わず「あっ」と声を上げた。サーモグラフィーに映し出されている映像……白い布を動かしている正体は……”アゲハ蝶”であった。

 中に隠されたミカドアゲハ達が、体に紐で結びつけられた布を持ち上げ、ふわふわと浮いているのだった。

「バカな……!?」


 だが男は、黒い煙もあってか、仕掛けられたアゲハ蝶には気づいていない。驚いて目を見開く男子の後ろに、不意に【生体反応】が現れた。彼女はもう一度「あっ」と呟いた。その人物は後ろから男子を棒でぶん殴ると、あっけなく気絶させた。それからその人物はたからの落ちていた穴に近づくと、黒煙の中から、彼女に向かって細い手を差し出した。


「やれやれ」

「あ、貴方は……」

「まさかこんな穴を掘っているとはね。大丈夫ですか、会長サン」


 その人物は……ボサボサの頭、はみ出したシャツ、開け放たれたボタン……この間この校舎裏で出会った男子生徒に違いなかった。彼が首から下げた例の【幽霊発生装置】からは、モクモクと黒い煙が湧き出続けていた。黒煙に囲まれ、辺りをアゲハ蝶が飛び交う中、男子生徒はのんびりと自己紹介を始めた。


「ボクは、小泉七雲。この学校の”怪団”の、団長です」

「あ、ありがとう……」

 たからが手を握り返そうとすると、彼は何を思ったか、さっと手を引っ込めた。

「な……何してんのよっ!?」

 てっきり助けてもらえるものと思っていたたからは、目をひん剥いた。七雲と名乗った男子生徒が、穴の上からひょうひょうと意地悪い笑みを浮かべた。

「清澄新生徒会長。助けて欲しかったら、貴女もボクの怪団に入ってください」

「はぁ!?」

「だってホラ、清正美うつくしくないものは、世間じゃ肩身が狭いんですよ。だけどさっきご覧の通り、【幽霊】だって、時には役に立つでしょう?」

「それは……」

 たからが口篭った。

「生徒会長が後ろ盾になれば、ボクとしても実に心強い」

「……っ」

「さぁ。貴女もボクと一緒に、この清正美しい世界をメチャクチャにしてやりましょう! きっと楽しいですよ」

 七雲がカラカラと笑って再び手を差し出した。穴の中で、たからは歯噛みした。悔しいが、この男に助けられたのは事実である。ここは一つ、協力するフリをして助けてもらうのが得策であろう。彼女個人としては、幽霊だとか怪談だとか、そんなウカガワシイものは一切信じる気にはなれなかったが。

「分かったわよ……」

 やがてたからは覚悟を決めて、彼の鼻くそをほじってない方の手を握り返した。


「入ってあげるわ。貴方のその、学校の怪団って奴に!」


 こうして、新生徒会長・清澄たからと、小泉七雲の”清く正しく美しい”怪談作りが幕を開けたのだった。

 

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