孤毒

班目凛海

孤独

第1話 孤独の孤立

桜並木の木漏れ日が、僕の右肩を照らした。その木漏れ日に、これまでの日々はただの幻となった。今まで当たることのなかったその光は、僕を暖かく包み込む。


空っぽの心に反響するピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調「月光」 第1楽章は、これからの孤独を物語っていた。僕はベートーヴェンを聞くような男ではなかった。それも相俟って、悲壮感が心の中を掻き回す。


僕は独りだ。


否、この世に孤独でない人間などいない。日本国民老若全員が孤独だ。IT企業の社長、プロサッカー選手、主婦や医者、学生にサラリーマン、誰しもが孤独だ。大人子供関係なく孤独だ。


しかし、彼らは今日も生きている。明日も明後日も生きて行く。100%と断言しているわけではないが、僕よりも人生これから起こる何かに期待している。僕たちにはそうすることができなかった。


理由はわかっている。


僕たちと彼らで違う点がある。


それは、抵抗力だ。


僕たちには、孤独に対する抵抗力がなかったのだ。SNSの普及など、多種多様な社会事情によって他人に関心を持つことが少なくなってきてしまったこの社会で、僕たちは孤独を感じたまま孤立してしまった。


誰にも関心を向けられないこの世界で、僕たちは生きる意味を失ったのだ。私たちそれぞれが、ただ生きる意味として抱えていた形骸的な夢も忘れてしまった。


そんな世界で虚ろになっていた僕たちは、夜の海で出会った。僕たちは、支え合って生きてきた。いまにも倒れそうな二人がぶつかった時、互いを支える形で留まった。互いの孤独を支えるように、僕たちは今まで生きてきた。僕にとって、彼女は支柱だった。大黒柱だ。


彼女を失い倒壊した僕の心に、木漏れ日が差し込む。異様に暖かく、それでいて優しい。僕は太陽のもとに生まれたかった。

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