異世界ラーメンガイド

諸田 狐

序章

 セルリア歴5340年魚の月二十


 さて、どこから話したらいいものか。

 今、僕は見知らぬ地で此処の支配者部族パクスに捕らわれ、死を待っている。

 牢獄は狭く、一八〇センチ近くある僕の身長では頭が天井にあたってしまうし、横になって寝転がるとしても足を曲げないと寝れない。

 どうしてこういう状況になったかというと、一日ではとても話しきれない。信じられないことに、ここに来てから、様々なことが出くわしたのだ。

 いまここには、ワブの書という分厚い本がある。この本は読む度に内容が刻々と変わってしまうという、なんとも摩訶不思議な書物なのだが、これに、僕がここで経験したことが鮮明に記録されている。

 おっと、決して自分で書いたものではない。たとえ自分で記したものでも、事実と異なることは勝手に書き換わってしまうのだ。

 実はこの世界に転移してすぐに手に入れた本で、当初はただの書物だと思っていたが、暫くしてとんでもない秘密がこの書物にあることが判った。

 何故か、この本は自分の身の周りのことが予言されているかの様に記してあるのだ。

 だがその予言はかなり適当で、実際は三割割も的中することは無いから、予言をあまり信じて行動してしまうと取り返しのつかない間違いをしてしまう。

 だが、逆に言えばそれでも三割は当たることがあるので、まるっきり信じられない物でも無い。

 そしてその七割の間違った予言も、いつの間にか正しい出来事に書き換わってしまう。

 だから、たとえ僕が死んでも、この本がある限りここで体験した記録はすべて残っている。この世界に来て僕がどういう生活を送ってきたか判るはずだ。

 特にここで知り合えた人々は掛け替えのない思い出になった。

 もし、この本を手にとって読んでもらったら、彼、彼女たちは僕にとって本当に大切な友達だったと理解してもらえるだろう。

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