第47話 れっつごー・The Sea!

♦梨花side♦


「……海?」


「そーですよ、海です! 夏と言えば?」


「戦争」


いやんヴィゼル様ったら悲しいわ……。


「海とか花火とか行きましょーよ! 今って休戦中なんですよね?」


「ああ、そうだが……」


「なら、ねっ? 今のうち、ですよ!」


上目遣いで頼み込む。


「お願いします、ヴィゼル様♡」


彼の頬が少しだけ赤くなった。


「……ドレス姿でそれは反則だ。はぁ……」


半ば諦めたように頷いた。


「仕方ないな、貴様の頼みだ。良いぞ」


「やったー!! ヴィゼル様大好き!」


こうして、私は見事バカンスをゲットしました。


♦一週間後♦


「ヴィゼル様っ! 早く早く! 行きましょう!」


「朝から元気だな貴様……う、熱い……眠い」


カッと照りつける太陽の下、私達は王城から少し離れたビーチにやって来た。


軽装国王も見れて一石二鳥。


休戦中だからかは知らないけど、人が沢山いた。

……というか、休戦中だからって皆気を抜き過ぎなんじゃ? (ブーメラン)


そんなこんなで私は水着に着替える。

今日の為に街に行って買ってもらった。

勿論ヴィゼル様に。


「ヴィゼル様、背中に日焼け止め塗ってください」


「ああ……その前によく見せろ」


涼しげな水色のビキニ。ボーダーに薄い青の花飾りが付いていて可愛い水着だ。


ヴィゼル様は超・軽装。

白地に謎のロゴが書いてあるTシャツに、紺のズボン。

あとは顔バレしないように、サングラスと帽子(麦わら帽子みたいで可愛い)を着けている。


……かっこいいっ!


ヴィゼル様はぽつりと呟いた。


「……来て良かった」


「ですね!」


彼は日焼け止めを手に出してのばす。


「ほら、後ろ向け」


「はい」


手が背中に這う。


「ひょえ」


くすぐったい……。

半ば挑発的に滑る手。


「そんなとこ……あっ、だめっ」


「駄目なのか? 塗らないぞ」


もー……この人……!!


「いじわるー!!」


「はは、光栄だ。……よし、終わったぞ」


「あ、ありがとうございます」


ちょっと好奇心で聞いてみた。


「ヴィゼル様も塗ります?」


真っ白美肌の更に言うならミケランジェロも絶賛の肉体美なヴィゼル様は首を傾げた。


「ん? ああ、別に構わないぞ」


「貴様がそこまでして私の肌に触れたいと言うのなら喜んで受けよう」


……。なんか別の意味で捉えられている……しかもあながち間違ってないし……。


「やっぱ良いです。存分に日焼けしてください」


……日焼けしたヴィゼル様もきっと神!


「ふっ、ではそうしよう」


少しだけ伸びてきた髪を掻き上げ、彼は海へと向かう。


私も続いて、水に足を浸した。


「ひゃー冷たい」


「本当だ。涼しいな」


太ももまで水が来る所に行って、私はヴィゼル様に水を掛けた。

なんの前触れもなくいきなり飛ばしたのに、見事躱かわされた。


「……貴様、汚いぞ」


「避けたのに言わないでください!」


「はっ、私を誰だと思っている? 貴様ごときにこの私が……っ?」


私はヴィゼル様に抱きついた。そんでもって今度こそ水を掛けたのだった。


「いぇーい、私の勝ちですね」


「随分と大胆な姫だな」


水着の紐がバツン、と引っ張られて弾かれる。


「ふぇ」


「殆ど素肌で私に抱き着くとは……貴様そういう趣味なのか?」


……ばひゅん(恥)。


「ええええええちちち違いますよぉおお」


「ほう?」


だめだーこの人絶対信じてないよー


「私はどちらでも構わないが。……良い買い物をしたものだな」


どうやら彼はこの水着がお気に入りらしい。


「はい、じゃあ違うことにしてくださいね。これは水をかけるためにやったんです」


「へぇ」


……余裕しゃくしゃくの笑みを浮かべるヴィゼル様。


「……。そんなことよりヴィゼル様、泳ぎましょうよ」


「断る。私は水着では無いからな。貴様一人で泳げば良い」


「えーそんなのさみちい〜。と言うかヴィゼル様、あなたもう濡れてますよね」


「そんなの知らん。貴様のせいだろう」


「うぅ……っ、酷い……っ」


ぐすぐすと嘘泣きをしていると、呆れたようなため息が聞こえた。


「……はぁ。ではそうだな……手でも引いてやろうか」


「流石ヴィゼル様! 男の鏡!」


「男の反対は女だろう……」


何やら呟いた後、彼は手を出した。


「ほら、掴まれ」


「はいっ」


ぎゅ、と手を握る。


私は脚で水を掻いた。こりゃ楽や。


「たのしいです〜」


「それは良かったな」


ゆったりと海を進む。

流石軍人、腕力やばい。


「……この角度から貴様を見るのは新鮮だな。水が無ければ色々見えたのだろうが」


「ちょっと雰囲気壊さないでくださいよこの変態陛下」


「今日はお忍びと言うやつだから私は陛下ではない。ヴィゼルだ」


何言ってんのこの人


「じゃあ変態ヴィゼル様で」


「手離すぞ」


「わーやめてやめてごめんなさぃい」


そんなこんなでぷかぷかと進む。


「梨花、喉が渇いた」


「確かビーチサイドにカフェがあったと思います。行きましょうか」


「そうだな」


近場まで進んだあと、砂浜に降りた。


「あー、楽しかった」


「やる方はそこまででもないが……貴様が満足したならそれで良い」


いけめん。すき。


「ヴィゼル様って性格イケメンですよね」


「そうか。同意を求められても困るな」


私はくすっと笑った。

カフェに入ると、ナチュラルな雰囲気にほっとする。


適当な席に着き、向かい側に座った彼は帽子とサングラスを外した。


「さて、どれにしようか」


あああああ素顔かっこいいっ


「ヴィゼル様、パフェ食べたいです」


「ああ、好きにしろ」


「じゃあクレープも追加で」


「太るぞ」


私は無言で彼の脚を蹴った。


「痛いのだが。……おい、頬を膨らませるな。可愛いから」


ゆるりと浮かんだ笑みと共に頬から空気が抜ける。


「……えへへ」


「梨花、ついでに昼も食うか」


「あ、お昼は私作ってきましたよ。コハクちゃんと一緒にバスケットに詰めてあります」


「ほう、それは良いことを聞いた」


ん? と彼は動きを止める。


「何故バスケットにコハクが入る?」


「なんか中が気に入ったみたいで、出てくれませんでした」


くくっと笑った。


「そうか。あいつらしいな」


結局、私はいちごパフェとレモンスカッシュ、ヴィゼル様はアイスコーヒーを頼んだ。


「ヴィゼル様ってコーヒー飲むんですね。普段紅茶ばかり飲んでいるので知りませんでした」


「そういえば、王宮には紅茶が多いな。今はただ単に暑かったからだ。冷たい紅茶は好かんしな」


「なるほど」


程なくしてコーヒーとレモンスカッシュが運ばれてきた。


「いただきまーす」


弾ける液体が日光に反射してキラキラしている。おっしゃれぇ。


「ヴィゼル様、ストロー使います?」


「ああ、貰おうか」


カラン、と氷の良い音が響く。


「ヴィゼル様ブラック派ですか」


「ああ」


「意外ですね。甘いもの好きなのに」


はは、と笑いが零れる。


「そうかもな」


店員さんがパフェを運んでくれた。


「お待たせ致しました、いちごパフェです。ごゆっくりどうぞ」


「パフェー!」


上にはソフトクリーム、それにホイップクリームがたっぷり使われていて、いちごがたくさん乗っている。


「……流石、高いだけあるな」


「え、いくらしました?」


「コーヒーの約十倍」


コーヒーの値段を教えてくれないのが怖い。


「……すみません」


「まあ、たまには良い。しっかり味わえよ」


「はい、そこはもう」


クリームといちごを掬って口に運ぶ。

ん……!


「おいひい……♡」


至福。さいっこう。


「梨花」


呼ばれて見ると、ヴィゼル様が口を開いていた。


「……くれないのか?」


かっこいいっ。かっこよすぎる。その顔やめて欲しい。好き。


「……はい、あーん」


「ん、甘い。美味い」


「ですよね〜」


その後も黙々とパフェを食べていると、ヴィゼル様が口を開いた。


「梨花、結婚式の日程だが……来月の半ばに決まった」


ぽん、と頬が赤くなる。


「それは良かったです」


「反応が可愛らしいな。……勉強の方はどうだ?」


「最近は頑張っていますよ。歴史も殆ど終わりましたし」


基本的な文字の読み書きとか計算とかも教えて貰って、一通り出来るようになってきた。


「そうか、偉いな。梨花は頑張り屋さんだ」


「でへへ〜」


私、べた褒めに弱い。


「……ヴィゼル様に似合う女の子になってみせますから」


改めて決意を述べると、ヴィゼル様は手を伸ばして頭を撫でた。


「私の為に頑張ってくれる姿を見ると駄目だな。どうしようもなく愛らしくなって……離せなくなる」


「離さないでくださいね、ヴィゼル様」


ヴィゼル様は照れたように笑った。


「ああ、そのつもりだ」


続く

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