第46話 お姫様って……なに?
♦ルーカスside♦
オレはルーカス。大将……今は違ぇな。国王の側近だ。
今日はオフだったからカジノ行って一日中遊んだ。
今はその帰りだ。やっと城に着いたぜ。
「さーてと、国王に金でも貰いに行くかー」
勿論、今回も大敗。見事一文無しだぜ。
笑えるよな!
……オレが笑っていられるのは、こうして城で働かせて貰ってるからだ。
貴族でも、更にはこの国の人間でもないオレを雇ってくれた国王。
嫌々ながらも金を貸してくれる国王。
……大好き(色んな意味で)。
そんなふざけたことを考えながら廊下を歩いていると、向かい側から一人の女性が歩いてきた。
オレのアンテナがキュピーン、と反応する。
……めっさ可愛いわ。誰?!
パステルピンクって言うんか? 淡いピンクのドレスを着てしずしずと歩く姿にもう一目惚れよ。
……とそこまで思って、オレはある事に気がついた。
いやいやいや、見間違えか?
眉間に皺を寄せて目をこらすも、見れば見るほどそれは確信に変わった。
……あれって……
「お嬢ちゃん?!」
オレはお嬢ちゃんの元に駆け寄る。
「よーお嬢ちゃん、今日は偉い可愛いなー。どしたん?」
お嬢ちゃんはこれまた淡い微笑みを浮かべて恭しくお辞儀をした。
「ルーカス様、ご機嫌麗しゅう」
──ダレコレ
「……えっと、すんません、人違いでした」
しかしどっからどう見てもお嬢ちゃんだ。
「あら、そうでしたか?」
「……っす」
謎の敬語になった。
「ところでルーカス様、本日はどちらへ? ヴィゼル様がお休みだと仰っておりました」
オレの事を知っていて、尚且つ国王をヴィゼル様と呼べる人物。
「……やっぱお前お嬢ちゃんだよな」
「はい、私は梨花ですよ」
……国王このこと知ってんのか?
「オレは今日カジノに……。それよりお嬢ちゃん、今日国王に会ったか?」
「いえ、朝別れてからまだ一度も」
「そうか……」
やっぱりさっきからすげぇ気になる。
うずうずと好奇心が募る。
ええい、言ってしまえ! オレはそういうキャラだろ!!
「なぁお嬢ちゃん、その言葉遣い、どうしたよ?」
お嬢ちゃんはふふと笑って言った。
「本日のレッスンの内容が態度と仕草で。慣れる為には実践あるのみだと聞きましたので」
……そっか。お嬢ちゃんはお嬢ちゃんなりに頑張ってんだな。
「そーなのか。そりゃ偉いわ。頑張れよ!」
「ありがとうございます、ルーカス様」
オレはお嬢ちゃんと別れた。
──今国王の機嫌損ねると面倒くさそうだから、ヨシュアに金借りるとすっか。
♦ヴィゼルside♦
「……はー、終わった」
私は大きく伸びをした。
「ヴィゼル様、お疲れ様です」
ヨシュアが紅茶をくれる。
「ああ」
今は一刻もはやく帰って梨花と戯れたい。
帰ったらあいつに癒してもらおう。
「ヴィゼル様、満面の笑みが浮かんでますよ」
「ん? そうか。気づかなかった」
どうやら私は梨花の事になると無意識に笑うらしい。
「その顔は早く帰りたがってますね」
「流石我が側近だ」
私は紅茶を飲み干し、席を立った。
♦
軽い足取りで部屋の扉を開ける。
「……ん?」
部屋に見知らぬ女性がいた。
薄いピンク色のドレス、茶色い髪。
その女性はこちらを見てお辞儀をした。
「お帰りなさいませ、ヴィゼル様」
……声だ。声が完全に梨花だ。
「ただいま。……なあ、一つ愚直な質問をさせてくれ」
「なんでしょうか」
「貴様、梨花だよな?」
「ええ」
私は梨花に近づく。
彼女はドレス姿で、綺麗に化粧もされていた。
……可愛い。いや、今は綺麗だ。
「今日の稽古は言葉遣いだったのか?」
「はい」
「確かに公衆の面前では必要だな。──しかし私の前では気張らなくて良いのだぞ?」
梨花は困ったように笑った。
「いえ、一刻も早く慣れるために頑張ります」
「ん……そうか」
可愛い。だが距離を感じてしまうな。
「ならば好きにするが良い。私も好きにする」
ドレス姿の梨花を抱き寄せ、髪にキスを落とす。
「ヴィゼル様……」
「ほら、頑張れ。姫ははしたない声など上げないだろうな?」
梨花はこくりと頷く。
その唇を奪った。
「……っ、……ぅ」
「私の愛、全て受け止めろよ」
「はい……ヴィゼル様にご満足頂けるならば、何でも致します」
ドレスの中を探る。
「なので、どうぞ気が済むまで……んっ」
首筋をつつ……と撫でる。
「ひ……ゃ、ぁ」
ついでに耳元にもキスをすると、ビクッと肩が跳ねた。
「耳弱いのか。ならば苛めてやろう……」
「……ぁ、だめっ……」
「口答えはしないのだろう?」
意地悪く微笑むと、梨花は顔を真っ赤にして私に抱きついた。
「もう……っ、ヴィゼル様のいじわる……」
「そうか。──第一、貴様が私に敵うはずがないだろう」
やはりいつもの梨花が良いな。
必死で可愛いのだ。
「もーっ、あなたの為に頑張って言葉遣い覚えたのに……っ」
「これからもそうやって私の為に尽くせよ」
梨花は茹で上がった。
「……ヴィゼル様の、為……つくす……」
そして反抗する。
「やですよそんな奴隷みたいなの!」
「別にそこまで重くなくても良い。妻は夫に仕えるものだぞ」
ん? と威圧的に見つめると梨花は折れた。
「う……。私がそれに弱いって分かっててやってますよね」
「当たり前だ」
梨花はぷくぅと膨れた。
「むー」
……あざといことは分かっている。
これは梨花の仕返しだ。
だが……可愛い。
「──貴様、私がそれに弱いと知っていてやっているだろう」
頬を両手で挟み、ぷしゅうと空気を抜く。
梨花は得意げに言った。
「当たり前ですよ」
私達は微妙な顔で見つめ合った。
「まだまだ勝てんな、お互いに」
「ですねー」
梨花を抱き上げる。すると視界の端に白いものが見えた。
「ん? 梨花、ドレスに何かついていないか?」
「えっ。──あ、こら! また!!」
梨花はその白いのを掴み、ドレスから剥がす。
「にゃー!!」
「ダメだよ! このドレス高いんだからね!」
犯人はコハクだった。
「ふふ、尻尾みたいだったぞ」
「さっきから私のドレスで遊ぶんですこの子…………え、しっぽ?」
白くて丸い尻尾を付けた梨花はウサギのようだ。
「ああいや、なんでもない」
「そうですか……」
──それにしても。
着飾った梨花が可愛すぎる。
これでは結婚式でどうなる事か……。
今のうちから理性を利かせておかねばな。
「……とか言いつつ、結局私は性欲に負けて貴様を抱くのだろうな」
「にゃー?!」
梨花はそう叫んだ。
……ウサギではなく、猫だろうか。
その小動物を優しく抱き締める。
「……先程の綺麗な貴様も好きだが、私は普段の可愛い貴様が大好きだ。私の前ではいつも通りで居てくれないか」
腕の中の温もりが幾分か温かくなる。
「……そっ、んなこと言われたら……っ」
微笑んで頭を撫でる。と梨花が唐突に聞いて来た。
「……ヴィゼル様ってロリコンですか?」
「ん?! ……何故だ?」
「綺麗より可愛い方が好きなんですよね?」
そういう意味では無いのだが……。
「んー、そうだな……ロリコンではないが、いつも落ち着きがなく動き回っている貴様の方が好きだ。……無垢な存在を見ると虐めたくなる」
梨花は全力で抵抗してきた。
「やだっ、離してくださいー! このドS陛下ー!!」
「まあ強がっていようが大人しくしていようが梨花ならば問答無用で襲うが」
「やだー!! 離してーたすけてー誰かぁ!」
「駄目だ」
更にむぎゅっと抱き締める。
「貴様は一生私の腕の中に囚われていろ」
梨花は諦めたように力を抜いた。
「……はい、ヴィゼル様♡」
「しかし梨花、最近頑張っているな。褒美に何かやろうか」
「いいんですか?」
ぱっと顔を上げた彼女に向かって頷く。
「ああ。何が良い?」
「うーん……」
梨花ははっ、と固まった。
「ヴィゼル様、海行きましょ海!!」
私は暫し呆気に取られた。
「──……海?」
続く
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