第一回traP1scinario
@Facish
前日譚
「もう限界だ! 俺はこの国を出るぞ!」
薄暗く照らされた一室にて、男は興奮を隠す様子もなく机を強打した。
激しい衝撃を受け、机上に置かれた酒が大きく波打った。
「まあ、落ち着け。国を出ようにも、そのためには検問を潜り抜ける必要がある。何の準備も無しに出ようものなら、磔にされて終わりだ。先日の事件を覚えていないとは言わせないぞ」
興奮する男の隣に腰を下ろしていた男が、男を諫めるかのように口を開いた。
先日の事件という言葉を耳にしたことで、男はある程度の落ち着きを取り戻したように見えた。
だが、納得しきれないといった様子で男は口を開く。
「……だが! このままでは俺たちは国に食いつぶされて終わりだ! それならいっそ磔にでもされたほうが……!」
(……頃合いか)
興奮冷めやらぬ空気が会場を支配する中、レオンは一人席を立つ。
立ち上がったことで幾人かがレオンを見るも、すぐに興味を失ったかのように視線を目の前の論議へと戻した。
レオンは音を立てないように軽く気を払いつつ、熱気に満ちた部屋を後にした。
集会場を出たレオンは、普段と変わらない道を辿るようにして自らの家へと戻る。
一軒の簡素な造りの家の前へと辿り着いたレオンは、少し疲れた様子で家の中へと入っていった。
レオンが扉を開けて中に入ると、目の前には見慣れた少女の姿があった。
「あ、おかえり。集会どうだった?」
「ああ、別に、いつも通りだ。相変わらずマレスが文句を言って、それをロイトが宥めていた」
「マレスさん、元気だもんね」
少女は若干の苦笑いを浮かべると、レオンに背を向けるようにして、居間へと歩いていく。
レオンも少女に続くようにして、居間へと足を運んだ。
少女によって整頓されている居間は居心地が良く、レオンはいつも通りソファへと腰を下ろした。
「今日も割と疲れたな」
「はい、おつかれ~」
少女はソファに腰かけたレオンへと麦茶を差し出す。
よく冷えている麦茶は、レオンに先ほどまでの熱気を忘れさせてくれた。
「そういえば、今日って何か食べてきた?」
「……いや、別に?」
「あ! また集会を途中で抜けてきたんでしょ! そんなだから他の人から付き合いが悪いとか言われるんだからね!」
「分かったから、飯をくれ。腹が減った」
「もー!」
若干の文句を言いながらも、少女は既に冷めてしまった料理に火を入れる。
料理を待つ間、レオンがテレビを付けると、そこではいつもと変わらないニュースが流れていた。
「……また新しい遺跡が見つかったみたいだな」
「また戦争になるのかなぁ」
「まあ、遺跡の効用次第だろうな」
「……そうだね」
新たな遺跡発見というニュースは、レオンと少女の間に影を落とす。
遺跡の奪い合いによる国家間の戦争によって、二人は両親を奪われていた。
話題を変えるべく、レオンは少女へと話しかける。
「そういえば、そろそろ飯を食べたいんだが」
「あ、うん! もう準備できるよ!」
「そうか、なら食べるかな」
「そうだね!」
レオンと少女は空元気を出すように、食事の準備を行った。
その後、食事を終えたレオンは少女とともにいつも通りの一日を終える。
遺跡という影を抱えつつも、ある程度の平穏が保たれている現在、レオンはこのような日々が続くことを願わずにはいられなかった。
しかし、国家間の遺跡の奪い合いという争いの中にありながら、どうにか維持されていた二人にとっての当たり前の日々は、翌朝のニュースによって儚く崩れ去ることとなる。
第一回traP1scinario @Facish
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