第41話 告白

 松葉家を後にして学校に戻ってきた俺は現在、一人で校舎の屋上にいる。

 本来ならすぐにでも沙空乃や陽奈希と会って話したいところだったんだけど……それは叶わなかった。

 なにしろ、俺が見逃してしまったミスコンにおいて、沙空乃と陽奈希はなんと二者同票のトップ。仲良く二人同時優勝の快挙を成し遂げたのだ。

 おかげでその表彰やミスコン後のイベントなどにも引っ張りだこ。

 会話するタイミングが作れない内に、夕暮れ時になってしまった。


 屋上から広く見渡せる校庭で、後夜祭の準備が着々と進められる頃。

 双子からようやく時間が作れたと連絡が来たので、この屋上で待ち合わせている。

 そろそろ来る頃だけど……とスマホの時刻表示を確認しつつ、落下防止のフェンスにもたれ掛かっていると。 

 ガチャリ、と屋上の扉が開く音が響いた。


「お待たせしました、渉くん」

「ふぅ……色々捕まって、遅くなっちゃった」


 沙空乃と陽奈希が揃って屋上にやってきた。

 着替える暇もなかったのか、ミスコンで着ていたドレス風衣装のままだ。

 

「こっちこそ悪いな、わざわざこんなところに呼び出して」


 晴れ舞台で華々しく活躍した余韻からか、二人は興奮冷めやらぬといった様子で、やや上気している。

 いつもより少し荒い吐息が、色っぽい。

 ……って、見惚れている場合じゃなかった。


「あー……この後はもう自由にしてていいのか?」

「ミスコンに優勝したからということで、一応後夜祭でも皆さんの前で出番があるみたいなのですが……」

「とりあえず今は準備中だから、ちょっと休憩したいって言って抜けてきちゃった」


 沙空乃と陽奈希は口々に答えながら、俺の両隣に並ぶ。


「……風が気持ちいいですね」

「ミスコンの熱気で、体も熱くなってたのかな?」


 風を浴びて目を細める沙空乃と、リラックスした様子で伸びをする陽奈希。


「なんだかようやく一息つけた気がします」

「多分、渉に会えたからじゃないかなー……」

「そうですね、やっぱり渉くんが隣にいると落ち着きます……」


 二人は穏やかな笑みを浮かべながら、自然と俺に身を触れ合わせてきた。

 ……こんなことをしていたら、また熱くならないんだろうか。   


「ところで……渉くんから見て、私たちのミスコンはどうでしたか?」

「同時優勝なんて、まさかの結果だよねー」

「私としては、それほど意外でもありませんでしたが……」

「えー、そうかな? 渉はどう思う?」

  

 やはりまだ、クールダウンしきれていないらしい。

 沙空乃と陽奈希は二人で会話しながら、矢継ぎ早に問いを投げかけてくる。

 ……ミスコンを見逃してしまった身としては、答えにくい質問だ。


「その……まずは、二人とも優勝おめでとう」


 何はともあれ祝いの言葉を述べると、二人は喜びを露わにした。


「はい、ありがとうございます」

「嬉しいけど……この場合、ミスコン勝負はどっちの勝ちになるのかな?」


 ミスコンで優勝した方が、俺と負けた方に何でも一つお願いを聞いてもらえるという内容の勝負だったが……当初は想定していなかった結果になってしまった。


「ふむ……では、渉くんが投票した方の勝ち、というのはどうでしょう」

「ちょっと怖いというか、ドキドキするけど……それが一番妥当かも?」


 沙空乃の提案に、陽奈希は納得したようだ。


「それで……渉くんは私と陽奈希、どっちに投票したんですか?」


 期待やら不安やら緊張やら、色々と入り交じった視線が、双子から向けられる。

 ……まあ、隠したってしょうがない。


「実は俺……後から結果を聞いただけで、ミスコンは見られなかったんだ」

「え……?」

「そうなんですか……?」


 正直に打ち明けるしかないことだけど……やっぱり申し訳ない。


「ああ、だから投票もできてなくてな……」  

「んー……確かに本番中、客席に渉が見当たらなかったかも」

「人が多くて紛れているのかとも思いましたが……」


 沙空乃と陽奈希は、薄々気づいていたかのような反応だ。


「せっかく二人が活躍してたのに、見逃してごめん」


 俺は二人から一歩離れて向き直り、謝罪した。


「気にしないでください。本音を言えばやはり、渉くんに見てもらいたかったですけど……きっと、何か事情があったんですよね?」

「うんうん。渉のことだし、どこかで何かのトラブルを解決してたとか……むしろ、そっちの方は大丈夫だったの?」


 沙空乃と陽奈希は怒ったり落ち込んだりする素振りもなく、逆に俺のことを気遣ってくれた。

 ……二人とも、優しすぎる。

 天使か何かに見えてきた。


「トラブルって程でもないんだけど……妹に呼ばれてな。あいつの彼氏を家から引っ張り出して文化祭に連れてくる手伝いをしてたんだ」


 俺は二人に感謝しながら、ミスコンの会場にいられなかった事情を説明した。


「ふふっ、それなら仕方ないね」 

「ええ、好きな人と文化祭を一緒に回りたいという気持ちは、私たちもよく分かります」


 沙空乃と陽奈希の間に、和やかな雰囲気が醸し出される。


「それに渉はいろりちゃん大好きだもんねえ。頼られたら放っておけないのも当然かな」 

「そうなんですか? 渉くんの妹さん……私も一度会ってお話してみたいです」

「炉ちゃん、ちょっと人見知りなところがあるけどかわいいんだよー」

 

 炉のことで、姦しく盛り上がる沙空乃と陽奈希。

 ……やっぱり端から見ても、俺ってシスコンなのか?


「それはそれとして……渉くんが投票していない上で同票だったということは……」

「今からでも渉の一票があれば、勝負の決着がつく?」

「はい、そういうことです」


 二人は確認し合うように、視線を交わす。 


「ですから、改めてお聞きしてもいいですか?」

「渉は、わたしと沙空乃……どっちを選ぶの?」


 答えを求めて再び向けられる、沙空乃と陽奈希からの熱い眼差し。

 ……俺の腹はもう、決まっている。


「二人とも……っていうのは駄目か?」


 探り探りといった感じで発した俺の答えに対し、沙空乃と陽奈希は一様に目を丸くした。


「二人とも、ですか……?」

「えっと、じゃあ……ミスコン勝負はどうなるの?」


 面食らった様子で、陽奈希が問いかけてくる。


「引き分け……ってことになるんじゃないか」


 何の気なしに俺がそう言うと、どういうわけか二人が慌て始めた。


「ひ、引き分け……!? それだと、勝った方がお願いを聞いてもらえるって話は……」

「お互い優勝したとはいえ、相手を負かしたわけではありませんから……なかったことになる、のでしょうか」

「ええ!? じゃあわたしたちの作戦は……」

「ま、待ってください陽奈希……! その話は……!」

「あ……!」


 沙空乃に制止され、陽奈希は口を滑らせたとばかりに黙り込む。

 ……まあ、今回持ちかけられたミスコン勝負に、双子なりの思惑みたいなものがあったことは、なんとなく感じ取ってはいた。


「二人としては不満もあるかもしれないけど……それを聞く前に、俺から話があるんだ」


 そう。

 ここに沙空乃と陽奈希を呼び出したのは、ただ二人に会いたかったから……みたいな単純な動機ではない。

 当然そういう理由もあるけど、今の俺にはもっと、重大な目的がある。


「話……ですか」

「えっと、何かな?」 


 慌てふためいていた沙空乃と陽奈希だったが、俺の変化を見て取ったのか、二人とも居住まいを正して俺に注目してくる。


「改めて言わせてほしい」

    

 今から俺は、恐らくこの先の人生も含めて、自分史上最もぶっとんだ台詞を口にする。

 もしかしたら、告白する相手を間違えたあの時……すべてが始まったあの瞬間よりも、ふざけた所業をやらかしているかもしれない。


「俺はやっぱり、沙空乃と陽奈希のことが好きだ。一度は否定したし、こんなことを俺から切り出すのは、ふざけた話かもしれないけど……」


 けど、不思議とネガティブな感情は一切なくて。

 

「沙空乃、陽奈希……二人とも、俺と付き合ってほしい」


 全てを割り切ったような、一種の清々しさとともに、告げた。

  

「っ~~~!?」

「え、え…それって……!」


 沙空乃と陽奈希の反応はまず、驚愕。

 しかしすぐ、双子はお互いの気持ちを確かめ合うように目を見合わせると。  

 

「はいっ、よろしくお願いします渉くん」

「うんっ、よろしくね渉」 


 はちきれんばかりの笑みを湛えさせながら、俺の好きな人たちは、告白を快諾した。

 これは……告白成功ってことなのか?

 天宮沙空乃と天宮陽奈希。

 ミスコンで同時優勝を果たし、名実ともに校内ツートップの美少女となった双子姉妹が。

 二人とも、俺の彼女になった……ってことでいいんだよな。

 ……なんだろう。

 自分から告白しておきながら、今一つ実感がない。


「どうしたんですか、渉くん?」

「なんか、ぼーっとしてるね?」 


 沙空乃と陽奈希は二人揃って、覗き込むように顔を近づけてくる。


「いや……こうもあっさり受け入れられるのは意外だったっていうか……正直、もうちょっと呆れられるというか、最悪の場合愛想を尽かされるかもって覚悟してたんだけど」

「自分から告白しておいて何それ。変なの、ふふふ」

 

 歯切れの悪い答えを口にする俺を、陽奈希は笑うが……からかいつつも、どこか幸せそうだ。


「まあ、私たちは元から姉妹で渉くんと付き合うつもりでしたからね。快諾するのも当然のことです」

「けど、ミスコン勝負の件もあっただろ? 『勝った方が俺と負けた方にお願いを聞いてもらう』って。だから、どっちもって話は二人の中で有耶無耶になったのかと思ってたんだけど……」


 例の勝負は、俺が二人と同時に付き合う道を否定してしまったせいで発生した。

 だから、沙空乃と陽奈希のどちらが俺と付き合うか……それを双子の納得いく形で白黒つけ、俺に認めさせるためのものだと思い込んでいた。 

 

「あれは初めから、渉くんに対して私と陽奈希の両方と付き合うことを認めさせるための勝負でしたから」


 沙空乃は種明かしするようにそう言って、悪戯っぽく微笑む。

 

「あー……つまり?」

「渉はわたしたち姉妹と同時に付き合うことに対して、今すぐ首を縦に振れるって感じじゃなかったけど……迷ってるだけで、渉はわたしたちのことを好きでいてくれたから。もうちょっと押したら、その気になってくれるんじゃないかなー……って考えたの」


 事情が飲み込めていない俺に、陽奈希はどこか得意げな笑みを交えながら説明してくる。


「ですから『ミスコン勝負のご褒美という形で、ある程度強制力のあるお願いをして既成事実的なものを作っちゃおう!』という話を、陽奈希から持ちかけられたわけです」


 ……あの時。

 控え室で沙空乃と陽奈希がしていた内緒話は、そういうことか。


「つまりあの勝負は、姉妹の間で示し合わせた上での出来レース……どちらが勝っても同じお願いを渉くんにするつもりでした。例えば私が勝ったら『私と陽奈希を渉くんの彼女にしてください』といった具合に」

「わたしが勝った場合はその逆で『わたしと沙空乃を~』って感じかな。同時優勝して引き分け扱いになるのは、まさかの展開だったけど……」


 想定外の形で思惑が破綻したことに対してか、陽奈希は力なく苦笑する。


「む……陽奈希としては、せっかくの作戦が空振りに終わったのがちょっぴり消化不良だったりするんですか?」

「うーん……そうでもないかな。秘めたままでいようとした恋心に対して正直になってもらう……っていう、誰かさんに対しての作戦は大成功だったから」


 陽奈希はそう言って、沙空乃に意味ありげな笑みを向ける。

  

「む……? なんですかその作戦は……?」


 合点がいっていない様子の沙空乃を、陽奈希は少しの間にこにこと見守ってから。


「何はともあれ……結果的には渉の方から告白してくれたからね。わたしはそのことが、一番嬉しかったかな」

「まあ……そうですね。私たちにとってはやはり、それが一番理想的です」


 まだどこか釈然としていない様子の沙空乃ではあったが、陽奈希の言葉にはしみじみと同意した。


「あ……でも今更『やっぱり間違いでした』とかはなしですよ?」

「そうだね。二回目は困るというか……怒っちゃうかも?」


 一回目とはもちろん、俺が沙空乃と勘違いしてテニスウェア姿の陽奈希に告白した際のことだ。


「……安心してくれ。流石にそれはない」 


 少しだけたじろぎながら、俺が答えると。


「ふふっ、そうですか」

「あはは」


 沙空乃と陽奈希に、声を出して笑われた。

 ……まあ、これくらい安いものだ。 

 

『わーーーーーーっ!』


 不意に、校庭の方から歓声が響いてきた。

 どうやら後夜祭が始まったらしい。


「さてと……そろそろ下に行くか? ミスコンの優勝者二人なんて主役みたいなものだし、この後出番もあるって話だったからな」


 俺はフェンス際から校庭の様子を見下ろしながら二人に尋ね、振り向こうとして。


「やっぱり、不在ってわけにもーーっ!?!?」


 振り返った瞬間、俺は続きを言うことが出来なかった。

 口を、塞がれたからだ。


「ん……」


 目の前に、陽奈希の顔があった。

 別の言い方をすると、俺は陽奈希にキスされた。


「……今はいい、かな」


 たっぷり数秒触れ合った後、ゆっくりと互いの唇が離される。


「せっかく恋人どうしになったんだから、今は三人だけで楽しもう?」

「そう、だな……」


 ……思えば、陽奈希とキスをするのも久しぶりな気がする。  

 たった数秒で、今まで渇いていた分が一気に満たされたような……そんな幸福感に包まれた。

 ……いや。

 まだ、足りない。

 思えば別れを切り出されてから、こういうことはしてこなかった。

 だから、これまでの分を埋め合わせるためにも……。


「い、いきなりキスなんて……積極的すぎます……」


 もう一度、と陽奈希に顔を近づけようとして。

 その背後……顔を真っ赤にしながらこちらを見る沙空乃と、目が合った。

 俺と陽奈希のキスシーンに衝撃を受けたのか、開いた口が塞がらないといった状態だ。

  

「ふふ。別れるなんて言っちゃってからずっと我慢してたから、つい」

「つい、ってそんな……」

「沙空乃もする?」


 するり、と沙空乃の方に近寄りながら、陽奈希はしれっとそんな提案をする。 


「え、えっ……! そんな、私は……!」

「沙空乃も渉の彼女になったんだから、遠慮することはないんだよ?」

「確かにそうかもしれませんけど……まだ気が早いというか、心の準備が……!」


 沙空乃は陽奈希にすすめられて、これ以上ないくらい照れまくっている。


「でも……わたしだけ渉とキスするのは不平等だから、沙空乃もするべきだよ。これじゃあ抜け駆けになっちゃうし」

「べ、別に私は陽奈希が抜け駆けしても構わないですから……」

「えー……じゃあ、今しないでいつするの……?」

 

 沙空乃の態度に、陽奈希は笑みをこぼしつつもじれったそうな声を漏らす。 

 そして、ふと俺の方に戻ってきて。


「ここは、渉の方からしてあげて?」


 耳元で、そう囁かれた。


「でも、沙空乃にその気がないんだったら……」

「照れてるだけでその気はありまくりだから、大丈夫大丈夫!」


 反論しかけた俺の背中を、陽奈希はぽんと押し出した。

 結果、俺は手の届く距離で沙空乃と向き合う。 


「あ、あの……渉くん……?」


 陽奈希の場合は、自分から不意打ち気味にしてくることが多かったから、あまり機会がなかったけど。

 ……確かにこういう時は、俺の方からリードするべきなのかもしれない。


「沙空乃……」


 優しく名前を呼びながら、俺はドレス姿の沙空乃をそっと抱き寄せる。

 もし嫌がるようならそこでやめればいい……と思ったけど。


「渉、くん…………」


 沙空乃は拒む素振りもなく俺の腕の中に収まると、仄かに潤んだ瞳で見上げてきて。 


「…………」


 全てを受け入れるように、沙空乃は瞳を閉じた。

 柔らかそうで、艶めいた桜色の唇。

 俺はその感触を確かめるように、唇を重ね合わせた。

 ずっと憧れてきた女の子が腕の中にいて、初めてのキスをして。

 幸福感と同時に込み上げてくる、達成感にも似た情動。

 ……こんな感覚を二人分とか、俺は明日死ぬんじゃないか。

 というか、そもそもこの状況すら夢なんじゃないか……なんて、非現実感を覚えて。

 それを否定するため、沙空乃の体温を感じようと、少しでも長く唇を重ね続けようとした、その時。

 突如、まるで高まった気持ちが爆発するような勢いで、沙空乃の腕が背中に回されて。


「渉、くん……! んっ……! はむっ……」


 何やら温かくて柔らかいものが、口の中に入ってきた。


「……!?」

 

 これはまさか……と正体を認識したのも束の間。

 沙空乃の舌が、俺の舌に絡められる。

 戸惑う俺にもお構いなしに、沙空乃はその行為に没頭するかのように、絡み付いてきて。


「はぁ……はぁ……」

「んっ……ふぅ……」 

 

 長々と続いた果てにようやくお互いの唇が離れた時には……二人とも、すっかり息が上がっていた。

 ……頭がボーッとする。

 衝撃的だったからか、単純に酸欠だからか……それとも、気持ち良すぎたからか。

 切なげに吐息を漏らす、沙空乃の濡れそぼった唇を見ていると、余計に頭が……。  


「おお……大胆だねえ……」


 なんとかして脳を冷却しようとしていると、感嘆の声が上がった。

 どうやら、陽奈希はすぐ横で見入っていたらしい。

 ……夢中になっていて、気がつかなかった。


「うーん……今まで溜まっていたものを、全部ぶつけた感じ?」


 陽奈希は俺と沙空乃のやり取りを、そう評する。


「わ、私としたことが……!」


 そこでようやく我に返ったのか、沙空乃は勢いよく俺から離れて。


「ついはしたない真似を……す、すみませんでした……」


 頬を火照らせたまま、しゅんとした様子でそう口にした。


「いや、その……驚きはしたけど、なんだ。……嬉しかったぞ?」

「っ~~~~!」


 声にならない声のようなものを発しながら、沙空乃はその場で悶えた。

 素直に感想を言ったつもりだったけど……間違えたか?


「ふふっ。何はともあれ……これで沙空乃もようやく、ちゃんと渉の彼女になったって感じがするね?」


 陽奈希はそんな姉の様子を、微笑ましげに見守っている。

 相変わらず、どっちが姉でどっちが妹なのか時々分からなくなる双子だ。


「……そう、ですね」


 少しして落ち着きを取り戻してきたらしい沙空乃は、呼吸を整えながら首肯する。 


「これからはこういうこと、遠慮しなくてもいいんですよね……!」


 手で顔を覆い隠しながら、沙空乃は口にする。

 その声色からは、嬉しさが隠しきれていない。


「んー……」


 そんな沙空乃を変わらず笑顔で見ていた陽奈希だったが、やがて悩ましげな声を漏らした。


「それにしても、さっきのはちょっと羨ましかったかも。ねえ渉、わたしとも今度してね?」

「……お、おう」


 さっきのって、舌と舌を……ってことだよな。


「……陽奈希は今じゃなくてもいいんですか?」


 だいぶ余裕が出てきたのか、沙空乃がなかなかにとんでもないことを言い出した。


「うーん……それより、今は踊りたい気分かな。せっかく後夜祭でいい音楽も流れてることだし、ね?」 


 陽奈希の言う通り、校庭の方では後夜祭のキャンプファイヤーが催されており、フォークダンスに合った音楽が流されている。


「なるほど……そうですね。三人だけの後夜祭、たっぷり楽しみましょうか」

「今夜の主役二人を独り占めなんて、やっぱり渉は贅沢だね?」


 沙空乃と陽奈希は満面の笑みを振り撒きながら、俺の右手と左手をそれぞれ握ってきた。


「……ああ。確かに俺は、贅沢すぎるくらいに幸せ者だな」


 こうして、俺は。

 間違えて好きな人の双子の妹に告白した結果。

 奇妙な三角関係の果てに、双子姉妹の両方と付き合うことになった。

 



 第一部 完




 ◆◆◆


 あとがき


 どうもりんどーです。

 まずはここまでお読みいただきありがとうございました。

 思ったより時間がかかってしまいましたが、ひとまずここまでたどり着くことが出来ました。

 幸いにも多くの方に読んでもらうことができ、シチュエーション斬りコンテストでは皆様の応援の甲斐あって大賞を受賞できたりと、大変恵まれた作品だったと思います。

 ただ、これで最終回というわけではなく、「第一部」ということで今後もお話は続いていきます。

 第二部は晴れて恋人になった三人が、更に関係を発展させていったり、三角関係ならではの困難を乗り越えていったり……みたいな感じになると思います。

 順調にいけば今週末には第二部の1話を公開できると思いますので、これからもまだまだ沙空乃や陽奈希のかわいいところを見たいという方は、ぜひ今後ともよろしくお願い致します。

 また、近い内に新作として、現代が舞台の高校生を主人公としたラブコメと、恋愛的な要素強めなファンタジーを公開する予定です。

 第二部の予告を含め、今後の情報は近況ノートに記載していきたいと思うので、よければ作者フォローの方もお願いします。

 それでは、改めてここまでお読みいただきまして、誠にありがとうございました。

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