第32話


 不安を抱えつつ、奥州へ戻った九郎と弁慶を、秀衡は快く迎えた。拍子抜けする九郎と弁慶に、秀衡は九郎の供ならばと言って笑った。だが、その許容の速さはどこから出たものか、聞かずとも分かる気がした。

 弁慶も当初の暴力的な印象とは違い、人懐こい面も見せていた。初めて見る東国の物にも興味を持ち、積極的に自分に取り込んでいった。最初はその外見から遠巻きにしていた者達も徐々に慣れ、少しずつ周りに受け入れられていった。

 弁慶本人も心なしか、京に居る時よりのびのびしているようだった。角が取れ、柔和な雰囲気を醸し出すようになった。気負いが取れたのか、あるいは、気質的に東国の風土が合ったのかもしれない。

 奇妙な縁で結ばれた主従は、故郷を遠く離れた東国で、思わぬ安寧を得ていた。

「縁、というものは、奇妙なものでござりますなぁ」

弁慶は義経を見て、しみじみと言う。

「まさしく、」

義経もそう言って弁慶を見る。

 この出会いが、どこに繋がるのか、何を生むのかはまだ分からない。それでも、今ここで、この時を過ごせることが、それだけで奇跡のように幸いであった。

 

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