第32話
不安を抱えつつ、奥州へ戻った九郎と弁慶を、秀衡は快く迎えた。拍子抜けする九郎と弁慶に、秀衡は九郎の供ならばと言って笑った。だが、その許容の速さはどこから出たものか、聞かずとも分かる気がした。
弁慶も当初の暴力的な印象とは違い、人懐こい面も見せていた。初めて見る東国の物にも興味を持ち、積極的に自分に取り込んでいった。最初はその外見から遠巻きにしていた者達も徐々に慣れ、少しずつ周りに受け入れられていった。
弁慶本人も心なしか、京に居る時よりのびのびしているようだった。角が取れ、柔和な雰囲気を醸し出すようになった。気負いが取れたのか、あるいは、気質的に東国の風土が合ったのかもしれない。
奇妙な縁で結ばれた主従は、故郷を遠く離れた東国で、思わぬ安寧を得ていた。
「縁、というものは、奇妙なものでござりますなぁ」
弁慶は義経を見て、しみじみと言う。
「まさしく、」
義経もそう言って弁慶を見る。
この出会いが、どこに繋がるのか、何を生むのかはまだ分からない。それでも、今ここで、この時を過ごせることが、それだけで奇跡のように幸いであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます