天翔 -あまかけるものの名ー

第1話 序

彼は天の高みに居る。

大地との約定が終わり、その後の時をそこで過ごして来た。


彼は既に人の理を抜けている。


彼はゆっくりと瞬きをした。

遠く、遠く、空の台から遠くを見る。

そうして、大きく、背の羽を動かした。

彼は一瞬で天高く飛翔する。

大地は既に彼を縛らず、人の掟は彼には通用しない。

今、彼は何からも解放されて、飛ぶ。

高く。

遠く。


そうして、


彼の眼下に広がるのは、大きく弧を描く大地。

そして、どこまでも広がる、海原。

清し大気に抱かれて、彼は何を思うのか。

その大地にあった頃のことか。

人の理の中に在った時のことか。

そのことは既に彼の心を惑わしはしない。

ただ、時流の一部としてあるだけだ。

これから先に起こるであろうことか。

それは未だ詳らかにはならない。

今という時だけが、彼にとっては確かなものだ。


それでは、今、彼の心は何を写すのか。


果たして、

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